ナタリー PowerPush - Salyu
これが理想の着地点 会心作「photogenic」
普遍性と理想を表現したポップミュージックを歌うことができた
──今作に小林さんが提供した楽曲はどれも強いポジティビティをたたえています。Salyuさんは1曲1曲をどのように受け止めていきましたか?
率直に言うと、驚きもあったんです。
──それはどういう部分において?
楽曲のパワーですよね。震災を受けてスタートした制作だったけど、小林さんが持ってきてくれた楽曲はナイーブになるのではなく、サウンドもメッセージも堂々とそこに鳴っていたんですよね。テンションが高くて、笑顔のダイナミクスを感じられるような楽曲が多くて。私はその楽曲たちにすごく触発されたし、「この楽曲が持つ意味はどういうことなんだろう?」って1曲1曲丁寧に飲み込んでいきました。震災以降の日々の中で、決して変わらないものと変わるべきものがあると思うんですけど、その普遍性と理想を表現したポップミュージックを歌うことができたと思います。このアルバムを小林さんと作ったことで「やっぱりポップってこういうことだよね」って実感することができましたね。
──レコーディングにおいて、小林さんがSalyuさんに求めていることはなんだと思いましたか?
楽曲に対する理解力は信用してくれていると思っているんですね。ただ、私ってエネルギーがほとばしっているタイプのボーカリストだから(笑)、ときには不器用とも言えるんですよ。でも、そういうところもすべて受け入れる器を作ったから安心して歌っていいよっていうムードを感じていましたね。今回のレコーディングで私が強く意識したのは「言葉を届ける」ということでした。音楽の中では言葉も全部サウンドなんですよね。言葉によって増すサウンドの推進力や光……私はその意味を、重みを、1小節ごとに伝えていくんだという気持ちで歌いました。それはさっきの話にもつながってくるんですけど、salyu×salyuでの経験を経てより強く考えるようになったんです。そして、震災以降に人とつながることの温もりや意味合い、それをポップミュージックで表現するとはどういうことなのか。そういうことを強く意識しました。だからこそ、言葉をわかりやすく、しかも美しく伝えることを大切にしましたね。
愛を歌うのは大きなドラマなんだ
──収録曲はどれも「あなた」という対象に向かったラブソングになっています。そして、ひとりの女性が成熟していくドラマのようにも感じることができる。
そうですね。私も「camera」からはじまり「旅人」で終わる流れを通して、小林さんがひとりの人格とその成長を描いてくれたなと感じました。絶妙な曲順ですよね。私自身、この3~4年で肉体的、精神的な変化がすごくあって。顔や身体のラインも変わってきたし、何かがシャープになったり、何かがふくよかになったり。そういう今の自分がラブソングの海にダイブして、泳いでいくのはすごく刺激的だったし、スリリングでしたね。あとはやっぱりどうしても3.11の話になるんですけど……3.11以降、シンガーとして「あなた」という言葉の意味も、「私」という言葉の意味も変わったんですよね。もっともっと深く感じるようになった。必然的にラブソングを歌う意味も変わって。愛を歌うのは大きなドラマなんだ、って感じながら、楽曲と向き合いました。
──「photogenic」という言葉の意味には、「写真うつりが良い」という意味のほかに「光を照らす」「発光性」という語義も含まれているんですよね。まさに名は体を表すタイトルだと思います。
ありがとうございます。小林さんから「このタイトルどう思う?」って聞かれたときにすぐに「大賛成!」って言いました。即決でしたね。タイトルに込められた意味を聞いて、私がこのアルバムで表現したポップミュージックを表している言葉だと思って。ポップミュージックの魅力って、3分から5分ほどの楽曲の中で、一瞬の強い光のように音楽のダイナミズムやメッセージを放つことだと思うんですよ。それができてこそ本当のポップシンガーだと私は思うので。そういうアルバムを作れたと思うし、それと同時に「photogenic」という言葉は今後の音楽活動においてもひとつの指針となるようなものだと思います。
CD収録曲
- Lighthouse
Live from 「a brand new concert issue “m i n i m a” -ミニマ- Salyu × 小林武史」 - VALON-1
- name
- プラットホーム
- 青空
CD収録曲
- camera
- LIFE(ライフ)
- magic
- 青空
- Lighthouse
- 悲しみを越えていく色
- パラレルナイト
- 月の裏側
- ブレイクスルー
- 旅人
初回盤DVD 収録内容
a brand new concert issue “m i n i m a” -ミニマ- Salyu × 小林武史@東京国際フォーラムホールC(2011.11.30)
※YouTube Liveでの配信内容と異なる完全版を収録。
DVD収録内容
salyu × salyu "s(o)un(d)beams+" @よこすか芸術劇場(2011.11.1)
- overture
- ただのともだち
- muse'ic
- Sailing Days
- 心
- 歌いましょう
- Our Prayer ~ Heroes And Villains
- レインブーツで踊りましょう
- s(o)un(d)beams
- Hostile To Me
- Hammond Song
- 話したいあなたと
- 奴隷
- 続きを
- Mirror Neurotic
- Calling
- May You Always
スペシャルムービー
- Live Spot
- Live Digest
ミュージックビデオ
- ただのともだち 分割ver.
- ただのともだち 合成ver.
- Sailing Days
- 話したいあなたと
- muse'ic (muse'ic visualiser ver.1.0 demo)
Salyu(さりゅ)
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2006年にBank Band with Salyuとして「to U」、2008年にはWISEとのコラボによる「Mirror feat. Salyu」をリリースするなど、他アーティストのコラボにも意欲的。自身のオリジナルソロ作品もコンスタントに発表し、2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。
2010年3月にソロとして3枚目となるアルバム「MAIDEN VOYAGE」をリリース。2011年からは新プロジェクト「salyu×salyu」としての活動を開始し、小山田圭吾(Cornelius)との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させた。同年7月、小林武史プロデュースのニューシングル「青空 / magic」を発売。収録曲「青空」を桜井和寿(Mr.Children)が提供したことでも注目を集めている。2012年2月にシングル「Lighthouse」、アルバム「photogenic」、salyu×salyuのライブDVD「s(o)un(d)beams+」の3作品を発表。