ナタリー PowerPush - Salyu
これが理想の着地点 会心作「photogenic」
5年ぶりに小林武史プロデュースによって制作された、Salyuの4thアルバム「photogenic」が完成した。シングル「LIFE(ライフ)」「青空 / magic」「Lighthouse」を含む全10曲。過去最高にカラフルなサウンドに彩られながら、Salyuという比類なきスキルと表現力をたたえたポップシンガーの魅力が遺憾なく解放されている。タイトルに冠された「photogenic」という言葉には、「写真うつりが良い」という一般的に用いられる意味のほかに「光を照らす」、あるいは「発光性」という語義も含まれているという。Salyuがその歌声で本作に込めたものとは? じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一(ONBU)
自分が理想としていた着地点にたどり着けた
──今作は、ポップミュージックの新たな光をエモーショナルに体現するようなアルバムだと思います。ご自身の手応えはどうですか?
構想期間を含めると長い時間を要したアルバムで。去年の3月11日の東日本大震災以降、作品のアイデアや内容も大きく変化していったんですね。その中で、小林武史さんという素晴らしいプロデューサーとともに作品の持つ目的というものを今まで以上に共有しながら、丁寧に制作を重ねていくことで、自分が理想としていた着地点にたどり着けた実感があります。
──震災前はどういうアルバムをイメージしていたんですか?
そこまでハッキリしたイメージはなかったんです。まず、前作「MAIDEN VOYAGE」で初めてセルフプロデュースに挑戦して。セルフプロデュースと言いながら最終的には小林さんにすごく助けていただいたんですけど(笑)。それからsalyu×salyuというプロジェクトを経て、Salyuとして次のアルバムはどういう作品にしたらいいか迷っていた時期があったんですね。当初は、「MAIDEN VOYAGE」と同じように複数の作曲家の方に参加してもらうというアイデアもあって、小林さんと「この人はどうかな?」という話もしていたんです。
──そうだったんですね。
うん。でも、去年の震災を境にそういう構想も一度すべて白紙になった。震災以降、アーティストだけではなくリスナーも含めて多くの人が新しい音楽との向き合い方を模索するようになったと思うし、それは私にとっても避けては通れないことでした。そういう思いのなかで、去年の7月にリリースした「青空 / magic」というシングルのレコーディングのときに小林さんが「もう一度、僕とSalyuのふたりでゼロから音楽を生み出していくようなアルバムにするのがいいんじゃないか」と言ってくれて。音楽やポップミュージックに対する自分の価値観や哲学、人との関係性も改めて見直して構築し直さなきゃいけないという意識もあったし、今このタイミングでデビューからずっと私の音楽を支えてくれている小林さんと深くコラボレーションすることで、確信を持ってまた前に進みたいと思ったんです。
──原点に立ち返りながら前に進むというか。
まさにそういうことですね。
salyu×salyuを経て、自分のボーカルに対する理想論が確信に変わった
──salyu×salyuも大きなポイントになりましたよね。アルバム「s(o)un(d)beams」で示した、ボーカリストとしてのポテンシャルとクリエイティビティを極めるような方法論や音楽性は、すごく刺激的なカウンターだった。それを経て小林さんと新たにポップミュージックを創造していくのは必然だったのかなとも思います。
そうですね。私も必然だったなと思います。salyu×salyuで小山田(圭吾)さんと打ち出したカラーが強烈だったから、小林さんと私がどういうカラーを新たに打ち出していくかというのはすごく慎重に見出していかなきゃなと思いましたね。salyu×salyuというカウンターがあるからこそ、小林さんとSalyuのタッグだからこそ打ち出せるポップミュージックの色彩とは何か。それを私自身がこれまで以上に理解して表現することが、アルバム制作においても重要な鍵を握っていましたね。
──salyu×salyuがSalyuにもたらしているものってたくさんあると思うんですけど、最も重要なフィードバックはどんなところにありますか?
それはホントに数えきれないほどあります。salyu×salyuは音楽の基本的なルールに改めて向き合う機会だったんですよね。特にリズムであったり、ピッチであったり。1つひとつのリズムや声のピッチの役割と意義を深く理解してコントロールしながらハーモニーを生んでいく。そこに全神経を集中したので。私がひとつミスを犯したら、音楽のすべての営みが崩れてしまうんですよね。そういうプロジェクトだからこそ、声で音を置いていくことの筋力がすごく鍛えられたし、声をコントロールすることへの意識もすごく高まりました。
──そういう意識を持った上でポップミュージックを歌う意味は大きいですよね。
そう、すごく大きいんです。salyu×salyuを経て、自分のボーカルに対する理想論が確信に変わったというか。やっぱり音楽家は感性だけじゃダメなんですよ。何かを表現したくて人前に立っているんだから、感性なんて持っているのは当たり前で。感性だけだったら絶対に子供のほうが豊かだし、そこに頼る一方ならば何も発展していかない。そこからいかに理論的に音楽のルールと向き合ってスキルを磨いていくかが大切なんです。それは疑いようのない真実で。だから私は「スキルなんて関係ない」なんて言う音楽家は信じません(笑)。もちろん、私もスキルを磨いていくという意味では、まだまだ途中だと思っています。これからもSalyuとsalyu×salyuというふたつのプロジェクトを並行して進めていきたいと思っていて。それはすごく大変だけど、最高に楽しいんです。そして、自分がやらなきゃいけないことだと思っています。
CD収録曲
- Lighthouse
Live from 「a brand new concert issue “m i n i m a” -ミニマ- Salyu × 小林武史」 - VALON-1
- name
- プラットホーム
- 青空
CD収録曲
- camera
- LIFE(ライフ)
- magic
- 青空
- Lighthouse
- 悲しみを越えていく色
- パラレルナイト
- 月の裏側
- ブレイクスルー
- 旅人
初回盤DVD 収録内容
a brand new concert issue “m i n i m a” -ミニマ- Salyu × 小林武史@東京国際フォーラムホールC(2011.11.30)
※YouTube Liveでの配信内容と異なる完全版を収録。
DVD収録内容
salyu × salyu "s(o)un(d)beams+" @よこすか芸術劇場(2011.11.1)
- overture
- ただのともだち
- muse'ic
- Sailing Days
- 心
- 歌いましょう
- Our Prayer ~ Heroes And Villains
- レインブーツで踊りましょう
- s(o)un(d)beams
- Hostile To Me
- Hammond Song
- 話したいあなたと
- 奴隷
- 続きを
- Mirror Neurotic
- Calling
- May You Always
スペシャルムービー
- Live Spot
- Live Digest
ミュージックビデオ
- ただのともだち 分割ver.
- ただのともだち 合成ver.
- Sailing Days
- 話したいあなたと
- muse'ic (muse'ic visualiser ver.1.0 demo)
Salyu(さりゅ)
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2006年にBank Band with Salyuとして「to U」、2008年にはWISEとのコラボによる「Mirror feat. Salyu」をリリースするなど、他アーティストのコラボにも意欲的。自身のオリジナルソロ作品もコンスタントに発表し、2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。
2010年3月にソロとして3枚目となるアルバム「MAIDEN VOYAGE」をリリース。2011年からは新プロジェクト「salyu×salyu」としての活動を開始し、小山田圭吾(Cornelius)との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させた。同年7月、小林武史プロデュースのニューシングル「青空 / magic」を発売。収録曲「青空」を桜井和寿(Mr.Children)が提供したことでも注目を集めている。2012年2月にシングル「Lighthouse」、アルバム「photogenic」、salyu×salyuのライブDVD「s(o)un(d)beams+」の3作品を発表。