ナタリー PowerPush - SALU

“本当のことだけ”のメジャーデビュー作「In My Life」

BLさんと早く本当の意味でのパートナーに

──以前からのリスナーとしては、BACHLOGICさんや他のトラックメーカーの提供する曲がメジャーフィールドに来て変化していくのかどうかが気になるところです。

それは僕も気になってます(笑)。僕もわかんないんで。

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──出会った頃と今を比べると、BLさんとの関係性やもらう曲の性質は変わりましたか?

関係性は変わってきましたね。前はBLさんに対してすごく気を遣ってた、悪い意味で。必要のない遠慮をすごくしてて。でも「そういうのいらんで」って言ってくれたんで(笑)、より近付けたというか、今は人間と人間らしい付き合いになってきてると思います。音楽についてはまだあんまり変わってないですね。でも、BLさんのほうが視野がすごく広くて。BLさんがこれくらい(両手を横いっぱいに広げる)見えてたら、僕はこれくらい(手を目幅程度に狭める)しか見えてなくて。「俺もこれくらい来ただろ」と思ってても、実際BLさんに会ってみると「いや、まだまだだったわ」みたいな、そういう関係ですね(笑)。

──先生みたいな感覚なんですかね。

そうですね。教わるばっかりじゃいけないんで、早く本当の意味でのパートナーにならなきゃいけないんですけど。でもたまに「ああ、そういう考え方もあるんだな」って言ってくれるんで、逆もできてるかなとは思います(笑)。

人生のサイクルと柔らかい未来

──今作のリリックは全体的に、先ほどおっしゃったようなポジティブなバイブスが表れているのともう1つ、日々が巡ること、命が続くこと、といった人生についての描写が多いなと思いました。これが今のSALUさんの考えていることなんだなと。

そう、サイクル。繰り返していたり、受け継がれていくっていうことが、最近実生活でもいろんなタイミングで見えて。親と子もそうだと思うんですけど、こないだ父親と……今やっと「父親」って言えるくらいずっと疎遠だったんですけど(笑)、ひさしぶりに会って一緒に酒を飲んだんですよ。そのとき「俺はいろんなことを浅く広くやった。でもお前は1つを深くやろうとしてる」って言われたんです。「俺もそれをやりたかったけど、できなかった」って、「うらやましいなって思う」って。

──野暮なんですけど、お父さんはSALUさんの何を指して言ってるんでしょうか。

生き方だと思います。僕はほんとにラップしかできなくて、ラップしかやってこなかったんですけど、親父はなんでもかんでも手を出して、そんなに深くは関わらないっていうタイプ。それで僕が「じゃあさ、親父がそうやってたのに俺が逆なら、俺の息子がまた逆をやるよ絶対」って言ったら、「そうだ。俺の親父は逆だった」って言うんですよ。じいちゃんは物書きで、ずっとその道だけをやってた。だからそれもサイクルだなと思って。反動、二極化のサイクルですね。

──すごく興味深い話ですね。あと、曲の中では「未来はどうなるかわからない」と言いつつも明るいと信じているというか、どれも光を感じました。

はい。わからないからこそ、光が差すかもしれないっていう。今までは悲観的だったんですよ。わかんないから先を見るのも怖いし、うしろ振り返ったら落とし穴に落ちるって思ってて。でも「未来のことはわからない」っていう前提で話してるのに、それは違うよなって思い始めて。過去はもう凝り固まって変わんないけど、未来はまだ柔らかくて不確定じゃないですか。その柔らかいうちに、どうにでも形を変えられるはずだと思って。だから、自分が望む来たるべき未来のために、今を柔軟に受け止めて、柔らかい未来を変える準備が必要だと。そうやって考えたら別に悲観的になる必要はなくて、「わかんない」はわかんないからポジティブに受け取ったほうがいいやと思って書きました。

──確かにそういうスタンスのほうが自分の中でも楽ですよね。

でも、僕知ってるんですよ。こうやって楽になって歩いてると、思わぬところで落とし穴に落ちるって知ってるんです。だからそれもサイクルです。またそういう時期が来ると思います。でもそれはそれでいいかな。今は今を楽しめば。逆に言うと、今しかないんだったらこの時間を楽しまなきゃ損だし。

「この曲で、あのとき俺たちが聴いてたDさんと俺がラップしてたら……」

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──フィーチャリングゲストのPESさんとMummy-Dさんについても話を聞かせてください。この2人が参加することになった経緯は?

お2人とも僕がラップ始めた頃からずっと聴いてて、PESさんはRIP SLYMEの「FIVE」(2001年発売)ってアルバムで、Mummy-Dさんはラジオで「リスペクト(featuring ラッパ我リヤ)」(1999年発売のアルバム「リスペクト」収録)がかかってるのを聴いて知りました。で、去年PESさんとある企画で対談させていただいたとき初めて会ってみたら、すごい勝手なんですけど「似てるところがいっぱいあるっぽいな」と思って「この人のこともっと知りたいな」って興味がすごく湧いたんですよね。そしたらPESさんから「電話番号交換しようよ」って言ってくれて、俺なんかと交換してくれて。それから機会がなくて連絡は取ってなかったんですけど、今回「In My Life」ができたときに「これPESさんに合いそう」って思っちゃって。

──この曲がPESさんに合いそう?

はい。「入ってもらいたい」って思って。でも、もう僕だけで3バース書き終わっていて1行も削りたくないっていう状況からの思いつきだったので、こういうリミックスという話になったんです。そしたらPESさんは、そのへんをすべて汲み取って「パラレルワールド」って言葉を入れてくれたりして。つまりオリジナルと同じ僕のバース、同じイントロから始まってるけど、PESさんが入ることによってまったく別の未来に到達する曲になってて。(オリジナルと)どっちを先に聴くかによって、曲自体の印象が変わるくらい違うものができたと思います。

──一方、Dさんはもっと大先輩なわけですが制作現場を共にしてみてどうでしたか?

まさに勉強になったとしか言いようがなくて。最初にDさんの録ったパートを聴かせてもらって、僕、完璧だと思ったんですよ。それをお願いもしてないし、知らないうちに、Dさんの判断でちょっとテンション高めにもう1回録り直したのを送ってきてくれて……。そういう音楽に対する姿勢とか、大先輩で僕なんてまだ赤ちゃんみたいなものなのに、「そこまでやるんだ」「それがプロか」と思わされて。もちろん僕も一歩も引かずに本気でぶつかっていったんですけど、Dさんも本気でぶつかってくれたから、すごくうれしかったですね。

──この曲はPESさんの場合と違って、お2人のパートが約半々という構成なんですけど。

やっぱり自分で聴いてると、自分の1バース目は「ふーん」って感じで、Dさんの2バース目から首が振れるんですよね。「うわー負けた」とか思っちゃうんですよ、自分的には(笑)。

──自分でもDさんのフロウにノっちゃうと(笑)。そもそもなぜDさんに白羽の矢を立てたんですか?

この曲、昔一緒に音楽をやってたけど、やめて別の世界を歩くようになった人たちに向けて書いた曲で。2月に野暮用で札幌に帰ったとき、雪がまだすごい中、1人で公園を歩いてたんですね。彼らとは昔その公園で一緒に曲書いたりして遊んでたんですけど、自分も、彼らも、周りにいる人も、見てるものも、仕事も、そこにあった遊具とか看板とかもないし、全部変わっちゃったなと思って。で、普段札幌に帰っても友達には連絡しないのに、そのときなぜか1人に電話しちゃって、会って公園を散歩したんですよ。で、話すと、彼は取り繕って元気にしてるんですけど、たぶん今の道がうまくいってなくて、途中で音楽をやめたことに対してもうしろめたさを持っていて。「俺はあのときやめちゃったから会えない」とか「失礼になるからもう一緒に音楽はできない」みたいな。その帰りの飛行機で「それは違うな」っていう気持ちで詞を書いたんです。

──うんうん。

で、この曲を録って一応形にしたとき「この曲で、あのとき俺たちが聴いてたDさんと俺がラップしてたら、きっとあいつすげービックリするし、それでうしろめたさを感じるような奴じゃないし、言いたいことわかってくれるかな」って思ったんですよ。……っていう、ズルいことを考えついちゃって。

──いや、粋だと思います。

それでDさんにお願いしました。この曲、自分でもけっこうよく書けたかなと思ってます。

ミニアルバム「In My Life」/ 2013年6月5日発売 / One Year War Music / TOY'S FACTORY
「In My Life」
「In My Life」初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 / TFCC-86435
「In My Life」通常盤[CD] 1500円 / TFCC-86436
CD収録曲
  1. Rebirth
  2. In My Life
  3. 鵠沼フィッシュ
  4. ホームウェイ24号
  5. Flow in the Rain
  6. Changes feat. Mummy-D
  7. I Gotta Go
  8. In My Life(Remix)feat. PES(Bonus Track)
初回限定盤DVD収録内容
  1. "In My Life" Music Clip
  2. "In My Life" Music Clip -Behind the Scene-
  3. "In My Show 2012" at WWW Shibuya 2012.11.02 Digest
  4. CONVENTION LIVE at Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 2013.04.12 Digest
SALU (さる)
SALU

1988年、北海道生まれのラッパー。2010年に当時はまだ無名の存在だったにもかかわらず、SEEDAが所属するSCARSの「CASH & THE CASHER」で客演ラッパーとしてフィーチャーされる。翌2011年にはSEEDA「黙る時代は終わり」、JAY'ED「ブレイブ・ハート」、SIMON「Change My Life」といった楽曲に次々とフィーチャーされ、話題の存在となった。さらに同年末には、SALU名義での初音源「Before I Signed」をフリーダウンロードという形で発表。そして2012年3月、BACHLOGICが立ち上げたレーベル「One Year War Music」から1stアルバム「In My Shoes」を発売。2013年6月にはTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー作品となるミニアルバム「In My Life」をリリースする。