出し惜しみせずに納得のいくものを書こう
──CHAPTER IIIには雅功さんと彪我さん、それぞれをフィーチャーした企画が掲載されています。まず雅功さんは「真夏の初恋」という小説を書き下ろしで寄稿されました。
雅功 そうですね、少しだけ恥ずかしいですが。20歳になるこの瞬間を切り取った作品を作りたいという思いが根本にあって、そこから僕らと同世代の人やこれから20歳になる子が楽しめるものにしたいなと考えながら書いていきました。書いていたのが成人式のちょうど1週間前くらいだったので、成人式をテーマにしようと。
──そうだったんですね。
雅功 そのとき、ちょうど小学校の同級生のLINEグループが動き出したんです。「みんな成人式来る?」みたいな感じで。だけど、プリクラや自撮りの写真を使っている女の子のアイコンを見ても、みんな当時とはすごく変わっているから、僕、全然わからなかったんですよ。
──実体験が小説のヒントになっているんですね。
雅功 そうですね。あと、主人公の真夏は僕の昔からの友達をなんとなくモデルにしています。それもあって、人物像はけっこうしっかりと書けたかなと思っていて。
──執筆時間はどのくらいだったんでしょう?
雅功 テーマが固まってからは5日くらいで書けたんですけど、テーマが決まるまでに時間がかかって、2、3回は書き直しているので……それを含めると2週間くらいだったと思います。
──小説が完成しての雅功さんの思いを聞かせてもらえますか?
雅功 今自分ができることはやれたかなと思います。お話を書くうえで、テーマとしていたことがもう1つあって。20歳の記念の話なので、10年後、20年後にもし僕が何かを書いていたら“恥ずかしくなれる”ようなものがいいなと思っていたんです。だからこそ、出し惜しみせずに納得のいくものを書こうという思いがありました。
──執筆活動は今後もコンスタントにやっていきたい思いがある?
雅功 そうですね、やっぱり好きなので。今はほぼ自己満足で終わっているんですけど、これからは誰かに影響を与えられるようなものを書けるようになりたいなと思っています。
知る作業も、好きなことの1つ
──ファッション好きの彪我さんは、春夏秋冬をテーマに4パターンのコーディネートを紹介されていますね。
彪我 ファッションはスニーカーがきっかけで興味を持つようになりました。「おしゃれは足元から」という言葉を昔から大切にしているんですが、足元をちゃんとするなら、その上もちゃんと整えなきゃなと思いまして。
──そもそも、スニーカーにハマったきっかけは?
彪我 靴に関しては昔から好きだったんですが、あるとき両親とオニツカタイガーのショップに行ったのがハマるきっかけでした。そのショップには普段見ないようなトリッキーな配色の靴や、デザインが変わっている靴がずらりと並んでいて、それを見たときに「こんな色やデザインもありなんだな!」と思ったんです。そこからスニーカーが気になるようになって、コラボスニーカーのこと、限定カラーのこと……いろいろと調べるのが楽しくなって。いつの間にか家にある靴が30足以上に……(笑)。
──本の中で履かれている靴も、レアなアイテムばかりで驚きました。
彪我 ありがとうございます。中でも僕が好きなのが、NIKEとsacaiとJean Paul Gaultierのトリプルコラボスニーカーなんです。僕はローカットが好きなので、あの靴が初めて買ったハイカットスニーカーで。一目惚れしたので「出るよ」と発表があってから、情報を調べまくって購入しました。すごくお気に入りでございます。
──靴紐の結び方など、ディテールも凝っているなと思いました。
彪我 片結びにしてみました。というのも、sacaiのスニーカーをたくさん持っているスタイリストさんが、sacaiがオフィシャルで出しているスタイリングの写真では紐を片結びにしていることを教えてくださって。「そうなんだ!」と真似してみた感じです。コラボ相手のブランドのことや歴史を探っていくと、このスニーカーがなぜこのデザインになったのかという理由も知ることができて楽しいんです。そういうことを知る作業も、好きなことの1つですね。
──コーディネートは足元を中心に組み上げていったのかなと思いますが、その中で特にこだわった部分はありますか?
彪我 こだわりになるかどうかはわからないけど、自分が着たいものを着るということです。SNSなんかを見て、そればかりにとらわれてしまうとオリジナリティがなくなってしまうから、それは避けたいなと思っています。「やっぱり自分の好きなものを着たい!」という気持ちは、靴を集め始めて、服を気にするようになってからずっと思っていることですね。
自分のやりたいことをもっと極めていくタイミングなんだな
──「20歳」という節目について2人の今の思いを聞かせてもらえたらと思うのですが、例えば過去に想像していた20歳の自分と今の自分を比べてみると、そこに差異はありますか?
雅功 全然違いますね。成人した自分は何かしら変わっているだろうと小さい頃は漠然と思っていたんですけど、いざ20歳になってみると、精神的には小学校3年生くらいからあんまり変わってないなと思います(笑)。いろんな言葉を覚えたり、身なりを整えることを知ったり、しゃべる相手が増える……という変化はありますけど、怠惰なところもいいところも根本的な部分は変わっていなくて。まあでも、そんなに変わる必要もないのかなと現時点では思っています。そんなに簡単に変われないなって。今後変化を感じるとしたら、50代くらいになってからなのかなと思ったり。
彪我 僕も思っていた20歳とは違いますね。中高生から見た20歳って、すごく大人っぽくてしっかりしているイメージだったけど、自分はそんなに急には変われないし、自分のままなんだなって。ただ、ここからもっともっと成長していきたいという思いは20歳になって強くなりました。自分のやりたいことをもっと極めていくタイミングなんだな、ということは感じています。
──ちなみに、お互いのことを見たときはそれぞれどんな印象になりますか?
雅功 彪我は結成当初よりも若干強気になった気がします。
彪我 ええ、そう?
雅功 さくらしめじ結成当初は、あまり感情が前面に出てこなかったというか。心の中ではいろいろと思ってたかもしれないけど、悔しい気持ちとかがわかりにくかったんです。でも最近はちょっとずつですけど、僕にポロッとそういう強気な一面を出すことがあったりして。個人的にはうれしかったりもするんです。そこらへんはいい変化だなって思いますね。
彪我 ありがとうございます(笑)。
──では彪我さんは?
彪我 雅功は昔からがんばり屋でありアイデアマンであり、いろんなところから刺激を受けて新しいものを生み出していくことが得意だったけど、年を重ねるにつれてどんどんそのスキルが高くなっていて、今や小説も曲もバンバン生み出してる。そういうところはずっと、自分にとっては憧れですね。一番近くで雅功を見ているからこそわかる努力もいっぱいあるんです。今回のアーティストブックの小説だって、何回もプロットから書き直していたし……悩んだ末に僕に「どうしよう?」って聞いてきて、「僕は何もできないよ」って返したりもしたんですけど(笑)、それほど悩んで悩んで書き上げているから。だからこそいい作品が生み出されると思うし、そういう姿は尊敬に値するなと思ってます。
雅功 ……(照れ笑いで)どうも。
彪我 あはははは。
さくらしめじの“これからの話”
──今回のアーティストブックのサブタイトルにも「これからの話」とありますが、これから進む道について具体的に2人で話したりはするのでしょうか。
雅功 そうですね。昔は大人の人に言われたことをやったり、引っ張ってもらったりすることが多かったけど、2人とも大人になるので「僕たちでできることをやりたいね」という話はしています。あのステージに立つにはどうしようか?みたいに、具体的な目標を実現するために話し合ったりもしますし。それと、僕らの“これからの話”を、僕らの歌を聴いてくれる人にも伝わるように届けていきたいなとも思っているんです。僕ら2人だけじゃどうしてもできないことも、たくさんあるので。「こうやってみんなを楽しませたいんだ」ということをもっともっと発信して、みんなで成し遂げていけたらと思っています。
──2人が思い描いている、これからのさくらしめじの“なりたい姿”はどんなものでしょう?
彪我 いっぱいあるんですけど、1つ挙げるなら、誰かに楽曲提供もできるアーティストになりたいなとか思ったり……え、そうだよね? 田中さん。
雅功 (笑)。彪我、昔からそう言ってるよね。自分たちが作った曲がもっともっと世に出る機会ができたらすごく素敵だと思いますし。あと、僕の理想としては、2人でずっとさくらしめじをやり続けていきたいなというのがあって。小学生の頃に出会った彪我と8年も一緒に音楽をやれているのは、普通に考えても奇跡的なことだから。EBiDAN的にも“アコギ2本持っただけの2人”っていうのは特異だし、せっかくここまでやってきたからにはずっと続けていきたいなと思いますし、僕らにしか出せない空気感、音楽を、周りの人たちにどんどん浸透させていきたいと思います。「さくらしめじ」と言ったら誰もが僕らの顔を思い浮かべるくらいになりたいです。
──では最後に、お互いの今後について、期待することを教えてください。
彪我 期待すること……雅功は小説を執筆しているから、その能力が今以上にさくらしめじの曲の歌詞に反映されてほしいです。誰も思いつかないような比喩表現とか、してほしいです。
雅功 あはははは。
彪我 今の歌詞も素敵だけど、とにかくもっともっと書いてほしいなと思う。これからもよろしくお願いします(笑)。
──では、雅功さんはどうですか?
雅功 彪我は変なんですよ。本人は否定しますけど、ほかの人とはちょっと違う世界で生きてる。僕はそれってすごくいいことだと思っているんです。彪我は僕の歌詞のことを言ってくれたけど、それこそ彪我にしか書けない歌詞が絶対にある。だから、大人になったからと言って、型にハマるようなことはしてほしくないなと思いますね。
彪我 あはははは!(笑)
雅功 変にがんばろうとせず、彪我の世界を貫いてほしいと思います。
プロフィール
さくらしめじ
田中雅功、髙田彪我によるフォークデュオ。2014年6月にガク&ヒョウガとして結成され、11月にユニット名を「さくらしめじ」として1stシングル「いくじなし / きのうのゆめ」をライブ会場限定で発表。2015年3月に同作が全国流通盤としてリリースされる。2017年3月に初のミニアルバム「さくら〆じ」をリリースし、2017年8月にはTBS系アニメ「トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド~機動救急警察~」のエンディング主題歌を表題曲とするシングル「あやまリズム」を発売した。2018年4月に初のフルアルバム「ハルシメジ」をリリースし、7月には日比谷野外大音楽堂で初のワンマンライブを開催。2020年3月には2ndアルバム「改めまして、さくらしめじと申します。」をリリースした。田中は2020年に「プリ小説 byGMO」で小説家デビュー、髙田は2021年にNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にレギュラー出演するなど、音楽活動以外でもそれぞれの才能を発揮。2022年1月に、成人記念のアーティストブック「さくらしめじアーティストブック~はじめまして20歳、これからの話~」を刊行した。