自己満足じゃない、誰かのための音楽

──お話を伺うに、佐香さんにとって音楽活動は自分の中にある言葉にできない思いを表現していく作業というか……。

そうですね。だから高校1年生の頃に作っていたのは、今にして思えば完全に自己満足な音楽でした。抱えている気持ちを吐き出して満足していたというか。ただ「いくつも曲を作ったことだし、せっかくだからこれを形に残そう」と思って動画をネットに投稿したり、その動画を多くの人に観てもらえたりするようになってからは、だんだんとその範疇を超えていった。自己満足しているだけではダメだって気付いて。なんて言えばいいんだろう……。「音楽なんて自己満足を共有しているようなもんだ」みたいな考え方もあるにはあると思うんですけど、動画をみんなに観てもらえるようになってからは「もっと表現の幅を広げたいな」と思うようになったんです。自分のための曲だけじゃなくて、誰かのための曲も作ってみたいなと自然と思うようになった。音楽で誰かの背中を押したり、誰かの生活に寄り添えたらいいなって。

──その表現が認められてメジャーデビューしてから今年で3年目。振り返ってこれまでの歩みをどう感じられています？

あっという間でした。あと自分の内面的な話をするなら「自己満足じゃない、誰かのための音楽をやろう」という、アマチュア時代の気持ちだけは忘れずにやってこれたかなと思っています。今後も変わらず、同じスタンスでやれたらいいなというのが今の目標ですね。

「ポケモン」愛ゆえに生まれた「ゲッタバンバン」

──で、その最新の活動成果が、今回のシングル「ゲッタバンバン」ですよね。この曲が「ポケットモンスター」シリーズの主題歌に選ばれたというのは、佐香さんにとってかなり大きな出来事なのでは。

そうですね。小さい頃からずっと触れてきたタイトルなので。「ポケモン」を通じて友達ができたり、兄弟とも少しは仲よくできたり、本当にすごく救われてきましたし。いちファンとしてゲームもアニメも全部網羅してきたシリーズに関わらせていただけるというのは、光栄なことこの上ないです。

──「ポケットモンスター」は最初のゲームが1996年発売、アニメは翌年放送開始なので、91年生まれの佐香さん的には、年長世代にとっての「サザエさん」のように、物心ついたときにはもう身近にある作品だった感じ。ご自身で書かれた歌詞にもファンの目線が強く感じられます。

やっぱり大好きなので。ただファンだからこそ「『ポケモン』に関連したワードをできるだけ入れたいな」とは思いつつも、いちアーティストだからこそ「入れすぎてもいけないかな」という気持ちもあり、作詞は難しかったですね。自分の思いとリンクしたワードを入れつつ、アニメの主人公であるサトシの冒険を後押しできるように意識したりして。僕自身、これまでの「ポケモン」の主題歌を思い返すと、曲と同時にサトシたちの冒険の記憶がフラッシュバックするんです。「今の子供たちが大人になって、子供の頃に観たサトシたちの冒険を思い出すとき、一緒に寄り添えている曲になれたらいいな」という思いも歌詞には込めたつもりです。

──だから事前の情報ナシで「ゲッタバンバン」を聴いたとき、ビックリしたんですよ。これまでの「ポケモン」シリーズのテーマソングの歌詞というと、戸田昭吾さんがものすごい数、手がけていらっしゃっていて。戸田さんの詞には作品を象徴するフレーズをスムーズに入れるという特徴があるから「この曲もきっと戸田さんのお仕事なんだろうな」と思ったんです。そしたら実は佐香さんが書かれていると知って。

ありがとうございます。やっぱりそこは、シリーズが大好きなので（笑）。

──タイトルにもなっている「ゲッタバンバン」というサビの印象的なフレーズは、自然に出てきたんですか？

子供たちの覚えやすいフレーズにしたかったんですが、意味がない言葉は使いたくなかったんです。そこでポケモンを象徴する言葉である「ゲット」と、サトシや聴いてくれる子供たちが目標や夢や明るい未来をバンバンゲットしてほしいなと思って、このタイトルにしました。

──やっぱり「ポケモン」と聞いて、パッと思い浮かべるのは「ゲットだぜ！」というフレーズだという人は、多いですもんね。

そうなんですよね。