弾くのはめちゃくちゃ大変です
──新曲「逆行」はどういった経緯で作られた楽曲なんでしょうか。
「逆行」は「賭ケグルイ双」というドラマの主題歌のオファーをいただいて、書き下ろした作品です。ドラマの世界観やキャラクターの細かい表情など、いろんなところにインスピレーションを受けて作りました。登場人物が本当に魅力的なキャラクターでばかりで、観ていてすごく引き込まれました。
──作品があってそこからインスピレーション受けて曲を作るという方法は、ご自身的にどうですか?
今までも何度かやったことがあるんですけど、僕はけっこう好きです。特に今回はドラマにスッと入り込めたので、曲の大枠はすぐに浮かびました。そこからakkinさんとアレンジを練っていく感じで。
──アレンジに関して言うと、いきなりノイズが入るという始まり方もインパクトがあります。
それはakkinさんのアイデアです。あと、全部でギターが3本あるんですけど、たまに入ってるダウンチューニングのエレキギターはakkinさんですね。
──全体的にエレキの音が前面に出てますけど、アコギの存在感もかなり強いですよね。
実はアコギの部分も最初はエレキだったんですよ。もともとデモでは落ちサビの部分だけアコギで弾いてたんですけど、スタッフの方のアドバイスで全体的にアコギも入れてみようということになって。結果的にすごくしっくりきましたね。
──崎山さんはアコギを打楽器的にも使いますけど、今回もその側面が出てますよね。
そうですね。自分の中でビートに対する意識がけっこう強くあって。リズムを作るためにアコギを弾いているというか、そういう使い方は自分も意識しているので、そこを感じ取ってもらえるのはうれしいです。弾くのはめちゃくちゃ大変ですけどね……(笑)。
──(笑)。曲の展開もめまぐるしくてすごいですよね。いわゆるAメロ、Bメロ、サビというような構成からは少しズラしてあって。
そういうところもわりと今まで意識してきたところなので、その延長線上でできたかなと思います。さらにそこにakkinさんが抑揚を付けてくださって。サビが終わったと思ったら急にエレキが入ってくるみたいな、ジェットコースターのような展開の曲になりました。
虚無感という原動力
──「逆行」には「痛みや虚無は絶えないから」という歌詞がありますが、「虚無」という言葉は「find fuse in youth」の「鳥になり海を渡る」「花火」「そのままどこか」にも出てきます。ご自身の中のテーマのようなものなのでしょうか。
1つのテーマになってますね。僕、日常の至るところで虚しさや寂しさを感じるんです。そういう虚無感については昔から考えてきたし、だから歌詞にもたびたび出てくるんだと思います。
──例えば日常の中でどういうときに虚無を感じるんですか?
例えば日光が出ていない昼間や誰もいない夜道、あと実家の近所にあるスーパーとか。
──スーパーに虚無感を?
感じるんです。母も同じことを言ってました(笑)。あとはドキュメンタリー作品を観てるときや、現実離れした映画やドラマを一気に観たあとにも感じます。
──ああ、日常に引きずり戻されるような感覚というか。
そうですそうです。急に1人きりにされる感じ。だから「逆行」に関しては「賭ケグルイ双」を観たあとの燃え尽きる感じが「虚無」という言葉に表れたのかなと思います。
──その虚無感が創作活動の原動力になっていたりするんですか?
今までは完全にそれが原動力でした。あとは自分に対する怒りやふがいなさ。とにかくそういう負の感情がすべてでしたね。
──「今までは」ということは、最近はまた変わってきている?
変わってきてますね。もちろん今もそういう虚無感やふがいなさはあります。ただ、いろんな人に自分の曲が聴かれてるんだと思うと、ちょっとでも前向きになってもらえるようなものを作りたいという思いが出てきて。こんなに多くの人が自分の曲を聴いてるなんてすごいなって最近改めて思うようになったんですよ。そんな人たちが聴いてくれたときに、一呼吸置いてもらえるような、そんな曲を作りたい。あと自分のパーソナルな感情を表現した作品ではなくて、もっとコンセプチュアルな作品も作りたいですし。
──今までは自分の中の虚無感やふがいなさに内省的に向き合っていたけど、今は外側も見れるようになったと。
そうですね。ただ自分自身、今まで内省的な音楽を聴いて励まされてきたので、そういう感覚も大切にしたいですけどね。Nirvanaの「In Utero」のような、「どんだけ破滅的やねん」みたいなアルバムが大好きなんですよ(笑)。でも最近は優しい音楽もすごく好きで。最近聴いた大貫妙子さんの「いつでも心は 雨のち晴れ はつらつ便りを 待っています」(色彩都市)とか、「なんて優しい歌詞なんだ」って感動しちゃいました。なので、破滅的な部分と優しさみたいな部分の両方をいい塩梅で自分なりに表現できたらと思います。
──なるほど。
折坂悠太さんが最近出した「朝顔」というミニアルバムに「針の穴」という曲が入っているんですけど、「今私が生きることは 針の穴を通すようなこと」という歌詞があって。自分にとって理想のような歌詞だと思ったんです。暗いトンネルの先に青空があるような、そういう希望のあり方を自分の曲に落とし込みたいと思っていて。そういう、虚無感の向こう側にある希望を描くことで、自分の曲が誰かの自立の手助けになればいいなと思っています。
──18歳という1つの節目に、ご自身の曲が徐々に私的なものから公的なものになりつつあるんですね。
私的なものを内包しながらも、外側へ向いて表現できるのが理想ですね。最近はそういう曲も書けてる気がします。
自分が納得できるような形を
──今回のメジャーデビューを経て、今後やってみたいことや目指してるものはありますか?
もっといろんなミュージシャンの方と仲よくなりたいですね。全然社交的なタイプではないんですけど、人は好きなので。仲よくなれたら、同年代の人とバンドをやってみたい。
──いろんな人とやりたいという思いはやはり強いんですね。
あとはおこがましいですけど、ビリー・アイリッシュさんを目の前で見てみたい。目の前を通り過ぎてもらえるだけでいいので。
──そこは共演とかじゃないんですね(笑)。
いやー、もう見かけるだけで十分です(笑)。あと、あわよくばトム・ヨークさんとか。でも、もう会いたいというレベルを越えて崇拝しちゃってるので、フェスで同じ日に出られるとか、それだけでもうれしいですね。
──自分の中で理想像としているアーティストは?
ずっと崇拝しているのは今言ったトム・ヨークさん。あと最近はくるりの岸田(繁)さんがすごいなと思って。
──それはどういった部分で?
新しいアルバム(4月28日発売の「天才の愛」)を聴かせていただいたんですけど、とてつもないですね(参照:くるり「天才の愛」特集(後編))。今さら僕が言うことじゃないですけど、音楽に対する情熱がものすごい。あとは向井秀徳さんや灰野敬二さんのような、音楽に対して厳格な方が好きですね。僕が憧れる方々は共通して、自分の意識を研ぎ澄ませて音楽を作っているようなイメージなんです。
──今後、自分の曲を今以上に多くの人に聴いてほしいという思いや、それに向けて考えていることはありますか?
今より売れたい気持ちはやっぱりありますし、多くの方に聴いていただきたいと思っています。ただ自分の場合、やりたいことをそのままやって大ヒットするっていうのは難しいんじゃないかなとも思っていて。売れるような曲を目指しつつ、その中で自分が納得できるような形を模索していきたいです。