崎山蒼志が1月にアルバム「find fuse in youth」でメジャーデビューを果たした。
2018年に初の音源「夏至 / 五月雨」を発表したのち、君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙といった新世代のミュージシャンとのコラボなどを経て音楽性を拡張し続けてきた崎山。「find fuse in youth」は、そんな変化を続けてきた彼の集大成と呼べるアルバムになっている。
音楽ナタリーは、3月31日に新曲「逆行」がリリースされたことを受けて崎山に初インタビュー。メジャーデビューを果たした現在の心境や、「find fuse in youth」と「逆行」の制作背景、そして虚無感を原動力にしてきたという彼に起きたアティテュードの変化についてじっくり語ってもらった。
取材・文 / 石井佑来 撮影 / 須田卓馬
1人じゃ生み出し得ない作品
──崎山さんは1月発売の「find fuse in youth」でメジャーデビューされましたが、これまでの音楽活動の中ではメジャーデビューを目指してきたのでしょうか?
メジャーデビューについて特別意識はしてこなかったです。音楽をずっと続けていきたいという思いはありましたけど、メジャーデビューについては「そういう可能性もあるのかな」というくらいで。
──そうなんですね。ではメジャーデビューの話が舞い込んできたときはどのような心境でしたか?
「おおー!」という感じでしたね(笑)。素直にとてもありがたかったです。
──実際にメジャーへとフィールドを移したことで、創作活動に変化はありましたか?
昨年の10月に初めてアレンジャーさんと一緒に制作をしたんですけど、すごくいい経験になりました。過去に作った楽曲をリアレンジして“再定義”シリーズとして発表したのですが、もともと自分の曲に拙さを感じている部分もあったので、このような機会をいただけたのはありがたかったです。とてもいい形で生まれ変わったと思います。
──「find fuse in youth」を発売してから2カ月ほど経ちましたけど、メジャーデビューしたことで今まで届かなかったような人たちに作品が届いたという実感はあります?
以前よりも同世代の方が聴いてくださるようになったかなと思います。アニメの主題歌(「2.43 清陰高校男子バレー部」のエンディングテーマ「Undulation」)も収録されているので、それをきっかけに聴いてくれた方もいると思いますし、今までより幅広い人に届いたという実感はありますね。
──崎山さんは音楽を作るうえで、多くの人に届けることを意識するタイプですか?
もちろんたくさんの人に聴いてもらえたらうれしいですけど、曲を作るときは「聴いてもらった人にどれだけ深く刺さるか」ということのほうが意識してるかもしれません。
──では今回のアルバムもメジャー作品だからといって、幅広い層に届けるということは特に意識することなく?
個人的にはそこまで意識していなかったかもしれません。ただ、意図せずともいろんな人に楽しんでもらえるようなアルバムになったと思っています。メジャーデビューしたことで、より多くの人に届くような音楽を作りやすい環境にいさせていただいていますし。
──なるほど。アルバムについてご自身で「挑戦作」とおっしゃっているのをお見かけしました。メジャー1stアルバムは自身の“名刺代わり”になる作品でもあると思うんですが、そんなアルバムで挑戦的なことをしようと思ったのはどうしてでしょう?
曲を作ってる段階では「挑戦的なことをしよう」とは特に思っていなかったんです。ただ今回、“再定義”シリーズを含めていろんなアレンジャーさんとやらせていただいているので、その結果自分1人じゃ生み出し得ないような、今までとは違った作品ができたんじゃないかと思います。アレンジャーさんと一緒にアルバムを作るということ自体が、自分にとっては1つの挑戦だったのかなと。
──確かにアレンジャーを迎えたことで音楽性の幅が広がっていますよね。一方で、ご自身で編曲した楽曲も、打ち込みで制作されたものなど、今までとテイストが違う曲が多数収録されています。
そうなんです。アレンジャーさんと一緒に作った曲が多い分、そのほかの曲では自分が今できることをすべて出しておきたくて。その結果、すごいカオスなアルバムになりました。そういう意味でも、振り返ると挑戦的な作品になったと思います。
18歳までの集大成
──アルバムの構想自体はメジャーデビューが決定してからできたものなんですか?
そうですね。今回は“再定義シリーズ”ありきの作品でもあるので。ちょうどこの前高校を卒業したんですけど、もう少年と言える年齢でもなくなるなと思って。だから今回のアルバムは“青春”や“若さ”にフォーカスした作品にしたかったんです。
──「find fuse in youth」というタイトルにはそんな思いが込められていたんですね。
直訳すると「若さの中で導火線を見つける」という意味なんですけど、今のうちに10代の持つ衝動や危険性を音楽にしたかったんです。中3のときに手作りした「Youth/Picnic」というアルバムがあって、それもアイデアになっていたりします。
──なるほど。では「find fuse in youth」は崎山さんの中で、18歳までの楽曲の総決算のような位置付けなのでしょうか。
はい、まさに総決算と言える作品になっていると思います。過去の自分と向き合い直して作ったアルバムでもあるので。今までとは別ベクトルの曲もすでに作り始めているんですけど、今回は一旦今までの自分らしい楽曲をまとめておきたかった。現時点での自分の集大成になったと思います。
──崎山さんといえば「五月雨」で出てきたときのインパクトがすごかったということもあって、世間的にはまだアコギの弾き語りのイメージが強い部分もあると思います。ただ、このアルバムからは、そのパブリックイメージを覆そうという気概も感じました。
楽曲を作るときはそういうことは全然考えていなくて、本当に自分の興味のままに作ったんですけど、アルバムとして形にしていくにあたって「いろんな自分も見せたい」という思いは徐々に出てきました。ただ、曲作りの出発点は「素直にやりたいことをやるという」というところから始まっています。
──なるほど。「好きなことをやったらこういうアルバムができた」という感覚でしょうか。
そうですね。自分の好きなこと、今やりたいことを示せるようなアルバムになったと思います。リスナーの方からしたら僕のイメージとギャップを感じる曲もあるとは思うんですけど、それも自分の中では自然な流れでできた曲なんです。
同世代から受け続ける刺激
──インディーズ2ndアルバム「並む踊り」では君島大空さん、長谷川白紙さん、諭吉佳作/menさんとコラボされていて、「find fuse in youth」にもいろんなアレンジャーやミュージシャンが参加しています。崎山さんはソロという形態でありながらも、ほかの人との化学反応を楽しみつつ作品を作りたいタイプなのでしょうか。
人とやるのはやっぱりすごく楽しいですし、学ぶことが多いので若い間にやれるだけやっておきたいですね。ただ、自分の名義で出す作品は自分で大枠を作りたいという思いが強くて。そのうえで、いろんな方との化学反応を楽しめたらいいなと思ってます。
──もともとバンドをやってらっしゃったということですけど、もう一度バンドをやりたいと思ったりはしないですか?
バンドはやりたいですね。バンド大好きなので。邦ロックも大好きだし、UKのバンドとかも憧れてる人がたくさんいるんですよ。3月にワンマンライブを控えてるんですけど(取材はライブの開催前に実施。参照:崎山蒼志がバンドとともに轟音響かせたメジャー1st発売ワンマン)、バンド編成で演奏できるのがすごくうれしくて。やっぱり1人で突き詰めて曲を作るのも、人とやるのもどっちも楽しくて、その両輪がいい方向に作用し合えばいいなと思います。
──なるほど。では、今コラボしてみたいアーティストは?
具体的に誰ってわけではないんですけど、ラッパーの方とコラボしてみたいですね。あとはSASUKEさんとかみゆなさんとか、同世代の方とも一緒にやってみたいなと思います。
──前作での諭吉佳作/menさんや長谷川白紙さんとのコラボもそうですけど、同世代のアーティストはやはり意識してますか?
どうしても意識しちゃいますし、常に刺激を受けてます。同世代でも触れてきたものが全然違うので面白いんですよ。長谷川白紙さんとか、本当にとんでもない人だなってずっと思い続けてます。
──そうなんですね。崎山さんから見て、長谷川白紙さんはどのあたりがすごいですか?
あの方は音楽理論も理解されていて、近代音楽やジャズ、フュージョンなどいろんな音楽を経由しつつも、“長谷川白紙の曲”としてすごくポップにまとめているんですよね。僕は音楽理論に基づいて曲を作るというタイプではないので、すごいなと思います。あとは楽曲の持つ浮遊感やセンチメンタルな雰囲気もたまらないですね。
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弾くのはめちゃくちゃ大変です