大阪で2023年に立ち上がった「坂ノ上音楽祭」
──「坂ノ上音楽祭」は今年で2年目のフェスなんですよね。
山﨑 2023年に初めて開催して、今年の4月に第2回をやったんですけど、僕みたいなイベンターでもない素人が始めた音楽フェスにプロの演者さんが出てくれることがすごくうれしくて。僕らができることと言ったらビールを作ることだから、何かフェスのフックになるものも用意せなあかんと思ってました。だから、演者さんがうれしいかどうかはわからないけど、2年連続で出てくださった方のオリジナルクラフトビールを作らせていただけたら、フックにできるんちゃうかなと。
芹澤 去年の「坂ノ上音楽祭」がものすごくいい印象しかなかったんですよね、本当に。お客さんもハッピーだし、演者もハッピーだし。野外の開放的なムードの中でみんながおいしいビールを飲んでる。なので今年もその空気を感じられてよかったです。
山﨑 そう言っていただけるとうれしいです。
芹澤 初年度からそういう空気感を確立しているイベントってけっこう少ないものなんです。もちろんどのフェスも楽しいですけど、目当てのアーティストだけ観て終わりっていう形になることもまあ少なくはない。だけど、「坂ノ上音楽祭」はいい意味でアーティストが誰であっても楽しめるような空間になっていたんで、演者はイベントに花を添えた感じ。アーティスト発表がなくても、開催日時が発表されただけで「次も行く」って決める人も多そうですよね。
柳下 主軸が音楽じゃなくて、ビールとかごはんとか別のところにあるのがいいんですよ。いい意味で音楽がメインになってないからこそ、みんな来るんじゃないかなって。
山﨑 僕らとしては音楽がメインのフェスをやりたいと思ってはいるんですけど、ビール会社なので(笑)。ビールを楽しむビアフェスは東京とかでもわりとたくさんあって、そこに来る人は当然ビール好きな人ですよね。音楽フェスと同じで、ビアフェスでもチケットを買って、電車に乗って、わざわざビールを飲みに行く。音楽フェスもビアフェスも「目的なくふらっと足を運ぶ」というイメージがあんまりなくて。だからこそ、「坂ノ上音楽祭」では「誰が出るかわからんけど、なんとなく楽しいんちゃうか?」と思ってもらえるような、ハードルの低さを追求していきたいんです。
──気軽に楽しめるレジャー感覚のフェスですね。
山﨑 正直な話、無料で開催しているので今後どうやって収益化するかわかってないんですけどね(笑)。ピクニック感覚で足を運んで、そこに売ってた珍しいビールを飲んでたら、アーティストのライブが始まって……「楽しくなってきたからもう1杯ビール飲もうか」と思ってくれたらもう最高。スペアザさんは華を添えるどころか、そういう空気を作ってくれたんで本当に感謝です。1年目なんて、直前まで降ってた雨がパッとやんで、スペアザさんのステージが始まったんですよね。そういう偶然も含めて、バチッと空気を作ってくださった。
音楽をクラフトビールで表現すること
──コラボビールを作るにあたって事前に打ち合わせはしたんですか?
山﨑 直接はまったくなかったです。スタッフさんにはそれとなく伝えていましたけど。僕らが曲に受けたイメージをビールに落とし込むというところで、特に打ち合わせることもなく。
芹澤 そこがまたセッション的でいいなと。俺らの曲名と曲の内容にインスピレーションを受けてビールを作ってもらうなんて、とても珍しいことですから。俺らもステージ上でどんな演奏をするか一切決めず、曲のキーも決めず、ギターが何を弾くかわからない状態からセッションに入るときがあって、なんだかそれに近いなって。背景情報がないほうが自由度も高いし、作り手の気持ちを込めやすいと思います。
山﨑 初めは「AIMS」か「Laurentech」でビールを作ろうと思ってたんです。でも「Bed of the Moon」がいいとスタッフさんからお願いがあったんですよ。確かに昨年出たばかりの曲だし、演者サイドからお題いただけるほうが咀嚼と変換の誤差を楽しめるしぴったりだなと。まずミュージックビデオをうちの作り手6人で何度も観ました。それでイメージを固めていって。
──音楽を味に変換する作業はどういう形で?
山﨑 「Bed of the Moon」はですね、完全にMVに出てくる老舗の中華料理屋に引っ張られました(笑)。味と油の濃い中華料理に合う酒がいいなと思いまして、白かオレンジの微発泡ナチュールワインもイメージしています。餃子とか酢豚にも合うし、常温になっても飲みやすいビールです。
──MVのイメージがテイストのベースにあるとして、繊細な部分はやっぱり音に導かれて?
山﨑 ドラムとギターがユニゾンするようなフレーズで始まって、シンプルで細かい音が重なっていくうちにだんだんリズムの手が多くなって、カオスで複雑なアンサンブルに展開していく。その複雑さ、カオスさを前に出すなら、サワーIPAじゃなくて、濁り系のヘイジーIPAかなと最初思ってました。味が複雑なのもヘイジーIPAの特徴なので、「Bed of the Moon」という楽曲の解釈としてはそれが王道という捉え方をしまして。でもMVを何度も観ているうちに、作り手たちの中で「ワインっぽいのがいい」という話になって、結果的にそっちのほうがしっくり来ました(笑)。ちょっとふざけた感じに聞こえちゃいますけど、スペアザさんがやってこられた音楽の立ち位置、見え方はよく理解したうえで解釈するようにしてまして。「この音はビールだったらこういうことだ」とか、セッション自体はカオスでも1つひとつの音はあまり歪ませてなくてきれいで、歪んでるのはエレピくらい、みたいにちゃんと捉えるようにはしていました。
柳下 本当にすごいです。ここまで分析していただいているなんて。僕らとしてもそういうふうに自分たちの音楽を感じ取っていただけるのはうれしいです。
芹澤 山﨑さんの話はとても面白いですね。自分たちの音楽がビールを通して味覚に変わる。みんなにはビールでも「Bed of the Moon」を感じてもらえる。相互的な解釈ができるのは本当に面白い。「AIMS」ではどんなビールをイメージしたんですか?
山﨑 「AIMS」はリズム的にはロックのリズムで疾走感がある。だからさわやかでドライなテイスト。アメリカのバドワイザーみたいな感じでいこうと思ってました。ちなみに「Bed of the Moon」ビールのラベルは東京の高尾のほうに住んでるイラストレーターの子が描いたんです。彼女にも何も言ってないんですけど、ラベルのイラストも中華っぽくなりまして。
柳下 MVを観たんでしょうね(笑)。カンフーみたいな服着てるイラストですもんね。
山﨑 なので結果的に、このビールに関わっている全員がMVの中華料理屋に引っ張られました(笑)。
──飲食業をやってらっしゃる方なので、その印象が強くなるのも頷けます。
芹澤 あのMVはまあ、誰が観ても中華のイメージになりますよ(笑)。
この乳酸菌、ワーミーだね
柳下 「Bed of the Moon」みたいな酸味はどうやって生み出すんですか?
山﨑 このビールでは乳酸発酵させて酸味を作ります。種となる乳酸菌を含むヨーグルトを加えて、それを増やして、どこで発酵を止めるかで酸味が決まるんです。
柳下 乳酸菌って、このビールを作るうえでフックになるものですよね。曲のほうの「Bed of the Moon」でワーミーペダル(音程をペダル操作で可変できるギターエフェクター)っていう飛び道具みたいなエフェクターを使ってるんですけど、このビールの乳酸菌、酸味はこの曲のそれに近いかもしれません。
芹澤 確かにワーミーはオクターブの上とか下の音を重ねることもできるし、かなり通常の演奏よりトリッキーな感じになるから。この乳酸菌、ワーミーだね。
山﨑 言うなら酸っぱさの調整はイコライザーになるわけですけど、これが完全に経験と勘の世界です。実際の酸っぱさの加減は熱をいつ加えるかで調整できるので、10回、20回と作っていくと平均値が見えてくるとは思います。
柳下 酸っぱさは乳酸菌を入れる量で調整するんですか? それとも期間で?
山﨑 どちらも関係しています。サワーIPAくらいの酸っぱさを出すにはある一定の量までは乳酸菌を与えないといけないので、種になる乳酸菌を含むヨーグルトがそこそこ必要です。
芹澤 ボリュームを絞るのか、トーンを絞るのか、ピックアップでトーンを変えるのか。
山﨑 イメージとしてはそういう感じです。酸っぱさの中でトレブルだけを削るとか。
大阪城野音とスペアザとビール
──スペアザはまた大阪でライブがあるんですよね。
柳下 6月22日に大阪・大阪城音楽堂でワンマンライブをやります。しかも今回、大盤振る舞いなんですけど、20歳以下なら入場無料っていう。
山﨑 お酒飲めない人たちが無料なんですね(笑)。
柳下 20歳の方が一番お得ですよ。お酒を飲めて、無料でライブが観られます(笑)。
山﨑 昔そのあたりに住んでたんですけど、いい会場ですよね。当日は「Bed of the Moon」も飲めるようにしておきますんで、20歳以上の方はぜひ試してみてほしいです。大阪城公園の中にいると城野音からの音漏れがいい感じであるんですよ。
──そこはチケットを買っていただかないと(笑)。
山﨑 ああ、そうですよね! 大阪城野音ならではの楽しみ方って意味で。
芹澤 でも山﨑さんがおっしゃるとおり、音楽を聴いてもらえるのが一番なので。もしチケット買えないって人でも公園まで音を聴きに来てください。
柳下 スペアザはもう5回くらいは大阪城野音でやってるのかな? お客さんは恒例のフェスみたいに思ってくれているので、ワンマンとは言え、音楽もお酒も楽しんでくれたらうれしいです。
芹澤 それこそ例年の大阪城野音ライブでは常軌を逸した量のお酒が出ますから(笑)。もう日本で一番ビールがおいしく飲める場所と思ってくれたらうれしいですよ。俺らのこと知らない人たちもね。
SPECIAL OTHERS × Derailleur Brew Works コラボクラフトビール「Bed of the Moon」
※お酒は20歳になってから
坂ノ上音楽祭
大阪府西成区が拠点のブルワリー「Derailleur Brew Works」と関西の無料ローカルフェス「GREENJAM」がタッグを組み、2023年に大阪で始まった野外音楽フェス。「ぼちぼち、いこか」を合言葉に、日常の延長線として、老若男女に「なんか、ええかんじ」を届けることをコンセプトとしている。
SPECIAL OTHERS 公演情報
SPECIAL OTHERS 野音! 日比谷野音100年のありがとう☆彡 大盤振る舞いの大阪城野音もあるよ(^o^)/
- 2024年5月19日(日)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)(※チケット完売)
- 2024年6月22日(土)大阪府 大阪城音楽堂
プロフィール
SPECIAL OTHERS(スペシャルアザーズ)
1995年、高校の同級生だった宮原“TOYIN”良太(Dr)、又吉“SEGUN”優也(B)、柳下“DAYO”武史(G)、芹澤“REMI”優真(Key)の4人で結成。2000年から本格的に活動を始め、2004年8月に1stミニアルバム「BEN」をリリース。2005年6月の2ndミニアルバム「UNCLE JOHN」発表後には「FUJI ROCK FESTIVAL '05」に出演し、大きな注目を浴びた。2006年6月にミニアルバム「IDOL」でメジャーデビューを果たす。2011年11月にさまざまなアーティストと共演したコラボ作品集「SPECIAL OTHERS」を発表し、2013年6月には初の東京・日本武道館公演を成功させた。2014年10月に、メンバー4人がアコースティック楽器で演奏する新プロジェクト「SPECIAL OTHERS ACOUSTIC」名義での“デビュー”アルバム「LIGHT」をリリース。2021年にメジャーデビュー15周年を迎え、2023年10月に通算9枚目のオリジナルアルバム「Journey」を発表した。2023年より毎月25日を“ニコニコの日”として連続で新曲を配信リリースしており、2024年10月25日にニューアルバムを発売。ツアーの開催を控えている。
SPECIAL OTHERS (@SPE_INFO) | X