大阪・天王寺公園のエントランスエリア「てんしば」で、4月下旬に入場無料の音楽フェス「坂ノ上音楽祭2024」が開催された。「坂ノ上音楽祭」は西成区に拠点を構え、ユニークなビールを醸すブルワリー「Derailleur Brew Works」(ディレイラ・ブリュー・ワークス)と、関西最大級の無料ローカルフェス「GREENJAM」がタッグを組んで2023年にスタートさせたイベント。さまざまなアーティストによるライブと種類豊富なクラフトビールの数々を開放的な空間で思う存分楽しめるこの音楽フェスは、開催2年目にして大きな反響を得た。そしてDerailleur Brew Worksと、「坂ノ上音楽祭」出演者であるSPECIAL OTHERSのコラボレーションで生まれたクラフトビール「Bed of the Moon」が完成。会場でいち早く販売され、その後通販で完売が続出するほどの人気商品となった。
「Bed of the Moon」の発売を記念して、音楽ナタリーではSPECIAL OTHERSの芹澤“REMI”優真(Key)、柳下“DAYO”武史(G)、そしてDerailleur Brew Worksを運営する株式会社シクロ代表の山﨑昌宣氏の3人による鼎談を実施。コラボビールの製造に至った経緯や、SPECIAL OTHERSとビールの親和性などについてたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 田中和宏撮影 / 渡邉一生
大阪・西成で生まれたクラフトビール
──西成を拠点とするDerailleur Brew Worksによるクラフトビール「Bed of the Moon」はどんなお味のビールになっているんですか?
山﨑昌宣氏(Derailleur Brew Works) 「Bed of the Moon」はサワーIPAという、近年勢いのあるわりと新しいスタイルのクラフトビールです。酸味に特徴がありつつ、苦味も追求しています。アルコール度数は7%と通常のビールよりやや高めではあるんですけど、それを感じさせない飲みやすさがあると思います。このクラフトビールは食前酒としても食中酒としても、もしくは寝る前でもオールマイティに気軽に飲めると思います。コンセプトとしては“ながら酒”ですね。それこそ音楽を楽しみながら、飲んでいただけたらうれしいです。
──SPECIAL OTHERSのお二人はクラフトビールを日頃からよく飲むんですか?
柳下“DAYO”武史(G / SPECIAL OTHERS) よく飲むってほどではないんですけど、いろんなクラフトビールと出会う機会が増えました。知人に連れて行ってもらったお店でクラフトビールを出してることが最近多いので。
芹澤“REMI”優真(Key / SPECIAL OTHERS) 僕は普段、あまりビールは飲まないんです。でも以前チェコに行ったとき、ものすごく口当たりのいいビールと出会って、それは本当に飲みやすかった記憶があります。
山﨑 それはボヘミアンピルスナーという種類ですね。ラガービールなので、ざっくり言うとアサヒスーパードライとかキリンラガービールと同じ系統。ボヘミアンピルスナーは独特で、カドがないのですごく飲みやすいですよね。
芹澤 飲みやすいビールってありますよね、やっぱり。外国のビールに多いイメージがあります。
山﨑 東南アジアのビールは米とかコーンスターチなんかを配合してあって、ボディが軽めに仕上げてあるんですよね。それはケチってるとかいうことではなくて、中華料理みたいな脂っこい料理に合うように作られてる。ご当地ビールって、その土地で手に入る材料をうまく配合してあったりするので、自然とその地域の料理ともマッチするようにできてるんですよね。
芹澤 「Bed of the Moon」も本当に飲みやすいですし、親しみやすいイメージです。
こだわりの酸味
──柳下さんはビール全般でしたらよく飲むんですよね?
柳下 いっぱい飲みますね! 1年を通して、よく飲みます。昔は飲みながらライブをやることがけっこうありましたけど、演奏の精度にも関わってくるので、飲むか飲まないかは時と場合で決めてます。やっぱりビールを飲むと楽しい気分になるので、演奏していて気持ちいい音に引っ張られていくような感覚があるけど、その分、何かを犠牲にしている感じ(笑)。「坂ノ上音楽祭」のときは、演奏前に「Bed of the Moon」を1本だけいただいて。ライブのあとはもう何本も飲みましたよ(笑)。
──野外のフェスで飲んだ「Bed of the Moon」のお味はいかがでしたか?
柳下 「あれ? ビールなのかな?」と思うくらいの柑橘系の香りを感じて、本当に飲みやすいですよね。ビールをあまり飲んだことのない人にも入り口としてすごくよさそうだなって。ビール感よりもなんというか、サワーカクテルみたいな。
山﨑 酸味を出す過程で乳酸菌を使ってるんですけど、それがライムとかレモンのような柑橘香を生み出してまして、それで白ワインのようなニュアンスを醸し出してるので、その感想はうれしいです。おかげさまで「坂ノ上音楽祭」でもめちゃくちゃ評判がよくて、売り出したばかりなんですけど通販でもすごく人気です。こういう“ビールっぽくないビール”って賛否がはっきり分かれるんですよね。そんな中、このビールはいいほうの反響をたくさんいただいてます。作っている側からしてもびっくりなくらい。
芹澤 賛否がはっきり分かれるという話、それは俺らの音楽にも言えることで。日本のポップスのスタンダードとは違う方向性を追求しているという部分で、共通しているなって思うんですよね。ときに「酸っぱい」とか「軽くない」って好きじゃないときにも使われる言葉ですよね。俺らで言うところの「曲が長い」とか「同じフレーズが繰り返される」に近いような。ぱっと耳にするとマイナスな印象にもなり得るフレーズだけど、実はそういうものこそがものすごく人から愛されるものになっていくという側面もあると思います。だから、俺らの音楽が好きな人は賛否あるものに惹かれるはすだし、きっとこのビールのよさが伝わるだろうなって。
山﨑 まさに「坂ノ上音楽祭」でこのクラフトビールを提供したときも、スペアザのお客さんにはそういう部分でシンパシーを感じてくれたんだろうなって思います。
芹澤 「Bed of the Moon」はスタンダードなビールに代わるものではないと思いますけど、好きになった人からは永遠に愛されるだろうなって。ちなみに俺らのお客さんはお酒好きの人がめちゃくちゃ多いんです。日本武道館でワンマンライブをやったとき、「近隣のコンビニからお酒が全部なくなった」なんて話があるくらい(笑)。
ツアー会場ごとにオリジナルビール?
芹澤 俺らがツアーをやるとき、全会場でこのビールを提供することってできるんですかね?
山﨑 本数は限定になるかもしれませんが、できますよ。会場ごとで違うビールがあると面白いですよね。例えば仙台限定で提供するスペアザさんとのコラボビールとか。同じツアーでも楽曲とかアルバムごとにいろんなテーマでクラフトビールを作れるので。
柳下 おお! それいいですね。でも現実的なんですか?
山﨑 僕らが勝手に作っていくだけなので、ブルワリー側の負担が増えますけど(笑)。
芹澤 公演数の多いツアーでできたらいいですね。
山﨑 うちのブルワリーでは週に2回仕込みがあるんです。タンクとかを含めた製造能力としては週3くらいまではなんとかやれます。
柳下 大阪発のビールだけど、例えば岩手で提供するときは岩手の要素を取り入れて地ビールみたいな提供の仕方もできるわけですね。
山﨑 もし製造が追いつかなそうだったら、基本となるレシピを共有して知り合いの工房に作ってもらうこともできるんです。岩手だとシードルを作ってる友達がいたり、長野だったらワインを作ってる友達がいたりするので、僕のブルワリーだけにとどまらず、コラボができるかもしれませんね。
柳下 それはすごい。きっと各公演、お客さんは喜んでくれると思いますよ。
芹澤 「Bed of the Moon」を発表したときにファンの方から言われたんですよね。「どうして大阪だけなんだ!」って(笑)。オリジナルのクラフトビールが飲めるツアーやライブなんてワクワクしますね。どこでも買えるお酒ももちろんおいしいんですけど、こうやって作り手の熱意が伝わるクラフトビールがライブで飲めたら最高だなって。「坂ノ上音楽祭」はまさにその楽しさが詰まったフェスでしたね。
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大阪で2023年に立ち上がった「坂ノ上音楽祭」