ナタリー PowerPush - サカナクション

山口一郎語る「裏と表」「バンドの旬」

2年は“旬”を持たせたい

──お題を与えられるとモチベーションが上がるってのはないですか? なんでも好きに作れってって言われるより、こういうふうな題材で、こういうテーマでやってくださいって言われるほうが。

サカナクションのメンバーがインスタントカメラでレコーディング期間中に撮影した写真。

その通りですね。テンション上がるし、作れたときの達成感も自分が好きなものを作り上げたときのものとは違いますからね。「朝の歌」を作ってたときの「キタ!」っていう感じと、「踊り子」を作ったときの「キタ!」はぜんぜん違うし。目の前にリスナーがいて盛り上がるだろうなっていう感覚は、なんとも言えないですよ。「Aoi」とか。正直、シングル以外でこれ以上そういう曲をアルバムに入れるつもりはなかったけど、でも実際に作り上げてみて、ライブなんかでお客さんの反応を見てると、自分が望んでいた結果を得られてるんですよね。その感覚は捨てられない。あとステージの上からさっきまで首振って縦乗りだった人が、4つ打ちに変わって横揺れしているのを観たときの鳥肌が立つ瞬間の感覚も捨てられない。で、自分がイエーイってなるのはクラブミュージックが多いから、それを表現したいし。

──欲張りですね。なにもかもいけるところまでいってみたい、ってなると音源は頻繁に出していかないと追い付かないですね。

うーん。あと2年はこの“旬”を持たせたい。そのあとは自分たちが発したいものを作っていきたいですね。サカナクションではあるんだけど、もっと違った形になったらいいなと漠然と思ってる。それぞれが独立できたらいいと思うんですよ。草刈がリミックスやったり自分が好きなトラックを作ったり、江島(啓一)ももっとミニマルなものがやりたいんだったらやればいいし。岡崎(英美)も岩寺も好きなことをやってるけど、サカナクションっていうものの中でやってるみたいな。

──THE BEATLESの「WHITE ALBUM」みたいなものですか? 各自のソロ曲が合体して、サカナクションの作品になるような。

それに近い。で、僕はそれを一歩引いてファンとして見てる感じ。

──そういう場合は自分はフロントに立たなくていい?

ぜんぜんいい。みんな好きにやったらいいと思うし。僕はむしろ一歩引いてサカナクションでなくてもいい。プロデューサーみたいな感じ。

──例えば自分が理想とするサカナクションのアルバムがあるとして、そこに自分がいないこともありうる?

うん。プロデューサーでなくてもいいし。ただみんながやりたいことを聴いて、最高だねって言いたい。僕が目標としてるのは、ただ音楽好きな兄ちゃん、姉ちゃんが音楽で何かを伝えたいっていう環境を作ってあげることだけだから。みんな好きな音楽を好きなようにやれるようになったら、それでいいかなって。そこまでいったら満足ですよ。

最高に踊れて、最高に楽しいアルバムができた

──山口一郎個人としての表現衝動はどこにあるんですか?

僕は耳もこんな状態だから、音楽ってものを直接伝えるほうにいきたい。例えば音楽番組を作るとか、音楽チャンネルを作るとか。レーベルを作るとか。

──それはけっこう爆弾発言な気がするなあ。

ホント?

──自分の歌を歌いたいとか、自分の思いを曲に託したいっていう衝動が薄れてるってことでしょ?

だってそういうのを発信することはもうやったし。やり尽くしたというか、またそういうふうにやりたいと思ったらやればいいし。もっと直接的なほうが早い気がしてる。

──今現在は、そういうモード?

うん。例えば今さらプロテストソングを作って、誰かに爆弾を投げたり、左翼的な動きをするつもりはなくて。そうでなくて音楽の重要性とか音楽ってなんなんだろうって考えてくほうが、面白いなって。

──必ずしも自分で音楽をやらなくてもいい?

うん。だし、いつでも作って歌えるしっていう気持ちですね。発表する場所は自分のメディアもあるし。あと、お金目的で作るものと、そうじゃないものでは生まれるものも違うじゃないですか。より純粋なものとして発表するときは、ビジネスじゃないほうがいい気がする。今どうがんばっても、自分がお金を稼いで、それで生活してる人がいる以上は、商業的にならざるを得ないところもあるからね。そういうフォーマットの中でやってる限り、純粋に自分が伝えたいことをそのまま歌うのは難しいし。サカナクションっていう媒体の中で歌うのも難しい。個人で歌って、責任をすべて自分に持ってこないと。

──でもサカナクションとしての活動の肝がそこにあるんじゃないんですか。個人としてのやりたいことと、バンドとして要請されることのバランス。

「5人として要請されること」と、「5人としてやりたいこと」っていう感覚かな。

──個人はまた別だと。

「DocumentaLy」の「エンドレス」でやりすぎちゃった。あれは僕の気持ちで、僕の思想なのに、サカナクションの曲になってるのは申し訳ないなって。

──でもバンドってそんなもんじゃないの?

でも4人は素晴らしいミュージシャンだから、そういうふうに思われるのは申し訳ないなって。

──じゃあサカナクションを離れた個人としては、違う音楽をやりたい気持ちはあるけれども……。

うん、あと2年か3年はこの“旬”を続けたい。あとバンドの面白さを広めたい。人間が集まってストーリーがあって、目の前に壁があって、それを乗り越えてこれを作ったんだっていう。だけどアルバムではこういうこともできるし、メジャーシーンの中で違和感はあるけど、それがいったいどんなものなのか感じてもらったり。でもどんな作品作っても、どんなシングル作っても、今回のように“裏”と“表”っていうのは僕たちのベーシックな部分だろうなと思った。それは絶対変わらないんじゃないかな。今回はそのうえで、最高に踊れて、最高に楽しいアルバムができたかなって思う。「ストラクチャー」で毎回部屋で踊ってるもん。自分の曲でこんなに踊るの初めて。今後もいい意味で期待を裏切りながら、いいものを作っていきますよ。

ニューアルバム「sakanaction」/ 2013年3月13日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
初回限定盤 DVD [CD+DVD] 3780円 / VIZL-520
通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999

iTunes Storeにて配信中!

iTunes - ミュージック - サカナクション「sakanaction」
CD収録曲
  1. intro
  2. INORI
  3. ミュージック
  4. 夜の踊り子
  5. なんてったって春
  6. アルデバラン
  7. M
  8. Aoi
  9. ボイル
  10. 映画
  11. 僕と花
  12. mellow
  13. ストラクチャー
  14. 朝の歌
  15. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)

※15曲目は初回生産限定盤のみ収録。

初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
  • version21.1 fourth(DocumentaRy)
  • TOKYO FM & JFN present EARTH×HEART LIVE 2012(アルクアラウンド)
  • SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE(OPENING / Klee / フクロウ / ホーリーダンス / インナーワールド / サンプル)
  • SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012(アイデンティティ / ルーキー)
  • 僕と花 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
  • 夜の踊り子 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
  • ミュージック ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
サカナクション

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースした。