ナタリー PowerPush - サカナクション
山口一郎語る「裏と表」「バンドの旬」
ステージは暗くていいし、顔も見えなくていい
──歌詞はどうでした?
難しかった。やり方を変えたんですよ。オケが完パケしてから歌詞を書くようにして。みんなが歌詞がない状態でアレンジしていくと、ガイドがないから、それぞれ勝手に景色をイメージするでしょう。音の中から色を付けるじゃないですか。それに対して僕が、グルーヴを損なわないような歌詞を付けようとしたら難しかった。今までは俳句みたいな感じだったけど、今回は童謡とか唱歌を作る感じになって。やったことないジャンルだったから。でも「なんてったって春」のサビができたときに何か見えたんですよね。言葉遊びもあって、メロディを殺さず、グルーヴもある。それって「赤とんぼ」とか「かごめかごめ」とかに近いなって。そういう歌がヒントになりました。
──ある種の普遍的な表現、歌の原点というか。
僕らの根本にある、昔から聴いてた音楽が新しい音の中に含まれてると、違和感なく聴けるのかなって思った。だから今回は、歌謡曲的なものがダンスミュージックといい感じで混ざる気がして。この前、ANTIBALAS(※ニューヨークで活動するアフロファンクバンド)を聴いてたら「♪ヘイヘイホー」って歌ってたんですよ。アフロビートに普通に「ヘイヘイホー」っていう「与作」の歌が流れてくる(笑)。ぜんぜんマッチするし、違和感なく聴けるし、アフロビートと演歌ってアリなんだなって。この前、日本の童謡集って4枚組を買って聴いてみたら普通にダンスミュージックだったんですよね。踊れるし、4つ打ちも合うし、新しいし。自分たちが今やろうとしてることに近いなって。チャレンジしてみましたけど。
──言ってみれば、一番最先端なロックと、普遍的な歌の原点をいかに接続していくかっていうことですね。
AOKIさんが言ってたけど、今回のアルバムはすごい日本っぽいって。「INORI」とか神道のクラップだったりする。鈴のシャンっていう音だったり、和太鼓のグルーヴでリズムを作ったり。アルバムを聴いて日本をイメージしたって言ってて。
──サカナクションとしてはスイングするリズムやグルーヴを意識してる?
してますね。だからライブ会場で縦乗りのお客さんがたくさんいるじゃないですか。そういう中に2割くらいでいいから、ステージ観ないで踊る人がいたらいいなって。それがうまく混在していくステージが理想ですね。
──そこではフロントマンとしての自分の存在を消したいと思う?
思う思う。ステージは暗くていいし、顔も見えなくていい(笑)。でも理想としては、音を聴いてもらいたいし、でも演出面も自分たちの武器としてあるから、暗さと明るさでもエンタテインメントしたいなって思いますね。
──ライブでは、シンボリックにフロントマンを際立たせる演出と違うものを提示したいという意図は伝わってくるんだけど、こういうインタビューでは山口くん1人が出てきてとうとうと語る。山口くんっていうキャラクターが全面的に出てくるでしょ。そこはどういう関係があるんですか?
だって僕の役割はスポークスマンだもん。あと一応リーダーだし(笑)。
自分の音楽で踊りたい
──なるほど(笑)。今回のアルバムはセールスの部分でも期待は大きいと思うんですが、見通しとしてはいかがですか?
まあ、どうですかね。売れないと思うけど。
──またそういうことを言う。
はははは(笑)。
──だって明らかにタイミングとしてはドンピシャじゃない。
ね。売れないと困るけど、社会現象になるようなものでもないし、そういうことを目的に作ってないから。バンドっていうシーンで、ある1つの結果が残せたらいいなとは思いますね。
──戦略家でもある山口くんとしてみたら、このアルバムくらいまでは、売れるものを作っていこうという戦略でいくのかなと思ったんですよ。でもさっきから話が出てるように、“裏”のサカナクションも同時に打ち出してきたのは、こっちが考えてる以上に山口くんは音楽好きなんだなって思いました。あなたが言うところの、本能でやってる部分が大事だったんだなと。
やっぱりね、自分の音楽で踊りたいって思いますね。今回家で作ってそう思いました。「よかった」「しんみりした」「最高のものができた」っていうよりも、自分の音楽が流れた瞬間にイエーイって踊り続けられるのがベストだなって。今回はそう思った。そういうのが作りたかったし。でも、まだ物足りない。もっとやりたいと思いましたね。だからすぐ次を作りたい。
次はアフロビート
──次の構想は?
次はアフロビートをやる。
──ほーお。
今回もやりたかったんだけど、ホーンとか入れなきゃいけないから。今回はそこまで人を絡めてやるのは難しかったからね。やっぱり草刈(愛美)のベースが最高だから。あいつのグルーヴがもっと生きる曲をやりたいですね。
──アフロビートとこれまでのテクノの感じを融合させる?
させていく。ぜんぜん一緒になる。それこそミニマルテクノって、BPM遅くて、跳ねてて、遅くても速く感じるっていうか。そこに僕らは面白さを感じてるし、アフロビートってのはそれの裏切りだと思うんですよね。どういくのか悩ませておいて、いきなりテンポの違うビートが始まる。それってつながる気がするし、さっきも言ったけど民謡のメロディが乗るから。
──本能に任せてやりたいみたいな気持ちが強まってる? 今回のアルバムを作ってみて。
そうですね、踊りたいって本能が強まってる。でもタイアップとして求められてるサカナクションの“表”の一面もある。そこに応えることも自分の中のモチベーションになってるから。それを作りながら、自分のやりたいことをミックスさせていく。そのバランス感覚に自分の興味がある。
──どんなアーティストでも、外部からの要請と、自分たちの内発的にやりたいことのバランスが重要になってくるけど、サカナクションの場合、特にバランスを取るのが難しい。
ものすごい離れてる。それは実感してる。でも楽しいんですよ。「夜の踊り子」とか作ってるときも楽しかったし。
- ニューアルバム「sakanaction」/ 2013年3月13日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
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- 初回限定盤 DVD [CD+DVD] 3780円 / VIZL-520
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
iTunes Storeにて配信中!
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CD収録曲
- intro
- INORI
- ミュージック
- 夜の踊り子
- なんてったって春
- アルデバラン
- M
- Aoi
- ボイル
- 映画
- 僕と花
- mellow
- ストラクチャー
- 朝の歌
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)
※15曲目は初回生産限定盤のみ収録。
初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
- version21.1 fourth(DocumentaRy)
- TOKYO FM & JFN present EARTH×HEART LIVE 2012(アルクアラウンド)
- SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE(OPENING / Klee / フクロウ / ホーリーダンス / インナーワールド / サンプル)
- SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012(アイデンティティ / ルーキー)
- 僕と花 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- 夜の踊り子 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- ミュージック ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
サカナクション
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースした。