ナタリー PowerPush - サカナクション
山口一郎語る「裏と表」「バンドの旬」
「若者たちの視点」を手に入れた
──4曲のタイアップをやってみて、得たものや学んだことは?
めちゃくちゃありますね。「若者たちの視点」を知りました。タイアップ曲を作り始めてから明らかにTwitterに反応してくる層が変わったんですよ。プリクラをアイコンにしてる子とか、東方神起ラブの子とか。自分たちがターゲットにしてなかった層まで入ってきて。その子たちが「サカナクションはいい」って言ってる。すごいうれしかった。今、10代のリスナーが多いラジオ(TOKYO FM「SCHOOL OF LOCK!」)でレギュラーをやってるんですけど、そこで感じるところもけっこうあって。若者たちが普段どんなことを考えて、どんな音楽を聴いてて、何に反応してるか、タイアップをやることでわかったから。自分たちが好きな音楽で、その子たちが反応するものは何か。今まではイメージだけだったけど、より具体的にわかってきましたね。実験もしたし、ラジオで。
──どんな?
ミニマルテクノをかけて、それにノリながら「追いかけてますか?」って言ったりして。最後にブリッジが来て大盛り上がりするところで「はいご褒美来ました。この曲どうですか?」って問いかけて。それに対してリアクションがあるんですけど、みんな「面白い」「聴き方がわかった」とか、「インストってこう聴くんだ」っていう反応があった。好きでその音楽を買ってる人がはっきり見えていれば、みんなそれをリスペクトして聴く耳があるんだなって。
──つまりタイアップによって広い層に聴かれるようになったけど、その層に合わせて何かを作っていくんじゃなくて、自分たちの中にあるものをどう加工すればその子たちに届くか、ってことを考えてる?
それに近いですね。放り投げてるところもあるけど。でも、感覚的にはそこは見失ってないですね。よい裏切りを考えて作りましたね。
──SMAPの曲を作ったこともデカかったんじゃないですか?
ああ、それもデカい。実際この前自分で歌ってみたけど、すごい曲だなって。自分では歌いたくないなって思いましたけどね(笑)。だって恥ずかしいじゃないですか(笑)。自分の曲なのに、SMAPのものになったと思った。そういうことができてる自分にもびっくりしたけど。あの経験を経てポップシーンの性質がより深く理解できた気がします。
──他人に提供する曲と、自分でやる曲は違いますか?
ぜんぜん違いますね。その人たちにとって素晴らしいものを作るのであって、自分にとって素晴らしいものを作るんじゃないから。自分がSMAPの一員で、そのSMAPに曲を作ってるみたいなイメージ。だから過去にこういう曲がSMAPにあって、ライブではこういう盛り上がりをしてて、次のシングルではこういう感じのほうがいいかなって考えて。もちろんキーは決まってるし、ミドルテンポなナンバーといったざっくりとしたテーマは与えられるけど、それに沿った形でベストなものを作る。
──サカナクションの場合は?
サカナクションにとって今一番いいものを作る感覚というか。そういう意味でやってることは一緒かもしれないですね。ただサカナクションは自分が歌うから。歌えないものは作れないし。そういう意味ではSMAPより自由だし、自由な分、不自由でもある。自分たちのことが好きな人たちに向けて作るわけだから。
──裏切れない?
まあ、いい意味で裏切るのがサカナクションの遊び方だけど。
前半サカナクション、後半AOKI takamasa
──今作は前作以降タイアップ曲も多かったし、かなりポップなものになるだろうっていう予想をみんなしてたと思うんですよ。一方で「僕と花」のインタビューのときに、「ネプトゥーヌス」って曲が次のアルバムのキーになるって発言をしてたので、深いほうに行く可能性も考えられた。で、蓋を開けてみたら両方あったっていう感じですね。
好きですか?
──はい。特に後半のディープになるところはすごくいいと思いました。「ストラクチャー」とかいいですね。
よかった! 「ストラクチャー」は「ミュージック」より前に僕がデモを作って、そこから作ったんですよ。アルペジオとかギターの感じも、この曲から始まってて。それこそ「ネプトゥーヌス」の感じに近くて。「ストラクチャー」を弾き語りで弾くとああなっちゃう。それをダンスミュージックに変えていくというのをテーマにしてて。
──今回は「intro」の次の2曲目のインスト「INORI」も大きなポイントだと思います。
アルバムの実質的な1曲目としてインストを入れたいっていうのは構想の中にあって、それを最初は「ストラクチャー」にしようと思ってたんですよ。でも「ストラクチャー」は1曲目として弱いんじゃないかって言われて。それは確かにそうだし、だったらもう1曲インストがあってもいいかなって着手したんですけど、1回頓挫してほかの曲を作ってたんです。でもAOKI takamasaさんとお話する機会があって、一緒に作ってみたいって言ってもらって。
──いかにもサカナクションっぽいコーラスが聞こえたと思ったら、いきなりミニマルテクノになって。QUEENとミニマルテクノが合体したような。私はこれを聴いた瞬間、このアルバムは傑作だと確信しました(笑)。
ははははは(笑)。前半がすごくエモーショナルなのに、後半は違う裏切りがある。聴いてるうちに楽しくなるし、ライブがイメージできますよね。前半サカナクション、後半AOKIさんみたいな感じですね。AOKIさんもエンターテイナーだなあと思いました。
- ニューアルバム「sakanaction」/ 2013年3月13日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
- 初回限定盤 DVD [CD+DVD] 3780円 / VIZL-520
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
iTunes Storeにて配信中!
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CD収録曲
- intro
- INORI
- ミュージック
- 夜の踊り子
- なんてったって春
- アルデバラン
- M
- Aoi
- ボイル
- 映画
- 僕と花
- mellow
- ストラクチャー
- 朝の歌
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)
※15曲目は初回生産限定盤のみ収録。
初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
- version21.1 fourth(DocumentaRy)
- TOKYO FM & JFN present EARTH×HEART LIVE 2012(アルクアラウンド)
- SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE(OPENING / Klee / フクロウ / ホーリーダンス / インナーワールド / サンプル)
- SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012(アイデンティティ / ルーキー)
- 僕と花 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- 夜の踊り子 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- ミュージック ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
サカナクション
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースした。