ナタリー PowerPush - サカナクション
山口一郎語る「裏と表」「バンドの旬」
サカナクションの1年半ぶりのアルバム、その名もずばり「sakanaction」がリリースされた。バンド名をそのままタイトルにしたことからもわかる通り、現在のサカナクションのすべてをぶち込んだ、正真正銘の力作であり、ドラマ主題歌、CM、NHKサッカーテーマソングなど4曲もの大型タイアップ曲を含むという意味でも、勝負作と言える作品である。
山口一郎の自宅で5カ月にわたって行われたというレコーディングは、1カ月間の部屋の電気代が20万を超えるほどのものだったという。それだけ密度の濃い作業を経ての、文句なしの充実作。早くも次回作の構想を語るほどの自信満々の絶好調ぶりを、インタビューでも感じ取っていただきたい。
取材・文 / 小野島大
いつも聴いてるスピーカーで作りたかった
──今回も難産だったようですが。
でも今までになく楽しかったですよ。家でやってたから。
──なぜ自宅でやることになったんですか?
タイアップが続いてて、スタジオで音楽を作ることにみんな擦れちゃって。もちろんドラムから録って、上モノを足してっていうルールはあるけど、サビこうすれば盛り上がるよねとか、ここにもうひとつ付け足せば派手になるよねとか。そういう当たり前のルールの中で作るんじゃなくて、今本当に自分たちが好きなものを、デモを作る感覚でやってみようってなったんです。
──スタジオではできなかったんですか?
スタジオでは無理。時間制限あるし、仕事っぽくなっちゃう。アシスタントがいて、エンジニアがいて、ディレクターがいて。1つのブースの中に1人か2人しか入れなくて、作業する人は外でやってるみたいな。そういう仕事感覚じゃなくて、高校時代の放課後みたいにやりたかった。ほかに誰もいなくて、メンバーとエンジニアと6人でね。あと自分がいつも聴いてるスピーカーで作りたかった。
──うまいこといきましたか?
いった。みんなぜんぜん違うし。今までスタジオの中で一番いい時間帯を作るのって、なかなかうまくいかなかったんだけど、家でやってたら全員が同じ気分になる瞬間が1日に2時間くらいあって。そこがピーク。
「sakanaction」は勝負作
──今回はタイアップの曲が4曲入ってて、商業的な意味ではかなりの勝負作だと思うんですが、山口さんにとって今作はどういう位置付けですか?
商業的な意味ではなく、バンドにとっての"勝負作"ですね。シングル曲も入ってるし、たくさんの人に知ってもらえるアルバムだと思うんですよ。YouTubeでシングル曲しか聴いたことがない人も、アルバムに手を伸ばすと思う。それは配信でも盤でも。だからそういう人が「サカナクションってこんなバンドだったんだ」ってわかるよう、ちゃんと"裏"と"表"を伝えたいって思ってますね。「kikUUiki」のときは「アルクアラウンド」って曲だけが表に出てて、バランスが難しかったけど、今回はきっちり1つのアルバムの中に封じ込めたいと思った。
──表と裏というのは、表が要するにタイアップとか対外的にサカナクションの名前を広めるための曲であり、裏が、バンドとして本当にやりたいこと、ということですね。そのバランスをとったのが今回のアルバムということ。
そうです。
──アルバムの構想はどこからスタートしたんですか?
タイアップの話が揃ってきて、それに向かって曲を作ってる段階で構想はあったんですよ。サカナクションの「sakanaction」ってアルバムにしようとは思ってたんですよね、「夜の踊り子」を作り終えた段階から。で、「ミュージック」のタイアップの話は作ってるときに来て。だからなおさらたくさんの人に聴いてもらえるアルバムになるなって。
──「僕と花」のときは、タイアップをかなり意識して計算して作ったと言ってましたね。その後の2曲「夜の踊り子」と「ミュージック」はどうだったんですか?
「夜の踊り子」はCMのタイアップなんですが、制作側と話をして、「ネイティブダンサー」や「アイデンティティ」みたいな曲が欲しいと言われて作りました。「ミュージック」のタイアップ話が来たのは、自宅レコーディングを始めたあとでしたね。テーマとしては「今のサカナクション」っていうのを掲げて。ダンスミュージックと歌謡曲っていうのをごちゃごちゃに混ぜて今のサカナクションらしいものにしたいと思って、「ミュージック」っていうタイトルを付けて、それをしっかり鳴らしたいと思ったんですね。でも最初、ぜんぜん歌詞が書けなくて。悩んでたときにプロデューサーに「実はドラマの主題歌決まってて、こういう内容で、こういう使われ方するんだよ」って言われたんですよね。悩んでるんだったら1つの指針になるかもしれないからって。そこで第3話くらいまで台本を読んで、テーマの1つがプロフェッショナルだってことを知って、それが自分が書こうとしていることと少し重なったから。それを指針に書いていこうと。結局それが反映されたかどうかってのは最終的に意識してなかったけど。
──タイアップの曲を作っていく中で、アルバムの構想も固まっていったと。
「ミュージック」ができたのは大きかったですね。あの曲は家ですったもんだして作るっていうことをしながら制作してたから。これができたんだったら、それぞれが好きなものを吸い出して、持ち寄って作れるなって思った。そのあとNHKのサッカーテーマの話もきて(「Aoi」)。そこまでが"表"っていうか、わかりやすいものを作ろうと。自分たちが好きで、リスナーにも求められてるものを出すように。
- ニューアルバム「sakanaction」/ 2013年3月13日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
- 初回限定盤 DVD [CD+DVD] 3780円 / VIZL-520
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
iTunes Storeにて配信中!
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CD収録曲
- intro
- INORI
- ミュージック
- 夜の踊り子
- なんてったって春
- アルデバラン
- M
- Aoi
- ボイル
- 映画
- 僕と花
- mellow
- ストラクチャー
- 朝の歌
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)
※15曲目は初回生産限定盤のみ収録。
初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
- version21.1 fourth(DocumentaRy)
- TOKYO FM & JFN present EARTH×HEART LIVE 2012(アルクアラウンド)
- SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE(OPENING / Klee / フクロウ / ホーリーダンス / インナーワールド / サンプル)
- SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012(アイデンティティ / ルーキー)
- 僕と花 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- 夜の踊り子 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- ミュージック ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
サカナクション
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースした。