ナタリー PowerPush - サカナクション

初ドラマ主題歌で得た新手法 2012年第1弾シングル「僕と花」

「僕と花」は論理的な曲

──つまり売るための戦略だけではなく、自分の作風や世界観を広げるためにも今回のタイアップは意味があったと。

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そうですね。目線が2つあって、サカナクションを今まで好きだった人が聴いてどう思うか。そしてサカナクションを全く知らない人にどう思われるか。2タイプの人たちがリンクしたところが点になるような楽曲にするべきだと思ったし、そこを考えながら作っていくのが楽しかったです。

──今までのサカナクションのファンが満足する曲とは?

はっきり言うと……「僕と花」の前に作っていた「モード学園」のタイアップ曲。それが実は最初の答えで。いなたくて、自分たちらしいロックで、シンセが入ってて。ざっくりしすぎですけど(笑)。

──その一方、「僕と花」はサカナクションを知らない人たちにアピールできる……。

そう思いました。この曲を作るとき、今までになく理屈っぽく作っていったんですよ。まず円グラフを描いて、Aメロ、Bメロ、サビ、と。でAメロは切なさ、かわいらしさ、エレクトロニカ感、男気……それぞれ何パーセントずつの割合か、Bメロ、サビはどうするか……。

──それはすごいな(笑)。

男気はなんのパートで出すか、かわいらしさはどのパートで出すか、シンセでやればかわいらしさとエレクトロニカ感はどれぐらいのバランスになるとか……全部グラフに描いて、それを見ながら曲を作っていった。で、サビまでは1分で、サビ終わりまでで1分半とか。

──へえ……。

すごい論理的に作ってみたんです。そのやり方でどこまでできるのか挑戦してみたかった。ある程度アレンジができたあと、台本を読み上げて、このへんでかかってほしいというタイミングで曲を流してみてどうかとか。そういう細かい作業もやりました。

J-POPの定義はわかりやすさ

──例えばハリウッド映画だと、始まって何分で事件が起きて、それを受けて何分後には別の展開があって……という構成がマニュアル的に決まっているという説もありますね。話を盛り上げて、観ている人を引きつけるための黄金律的な法則が。

ああ、なるほど。そういうルールは自分たちではよくわかってないけど、J-POP的な、例えばテレビで流れるような音楽の中で自分たちが思うリスナーをつかみやすい方法論を研究したことは確かです。

──この曲はJ-POPと肩を並べて勝負しなきゃいけないからだと。では、山口くんが考えるJ-POPの定義とは?

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わかりやすさ。何においても。歌も聴き取りやすい。ボーカルレベルが大きい。トラックはニュアンス。つまり聴こえてくる最初の音によってジャンルが特定される。イントロもそうだし、歌の裏で聞こえる音。そこで聴こえてくる音がギターだったらロックだと思われるし、シンセだったらちょっとダンスっぽいのかな、エレクトロニカっぽいのかなと思われるし、イーブンキックだとダンスミュージックだと思われる……という感覚かな。歌詞に関しては、ほんとにわかりやすさ。「『バッハ~』」を出したときにTwitterで「バッハの旋律を夜に聴いて。結局どうなったんですか?」って質問がきて。それは曲の中で感じてもらえばいいことで、「感じたままでいいんですよ」って答えたんですけど。つまり、そういうふうに音楽を聴いている、それ以外の聴き方がわからない。つまり、つげ義春のマンガを読んで、意味を求めるような人たちも相手にしなきゃいけない。そこがJ-POPなんだなと。だけど「良いわかりにくさ」と「ダメなわかりにくさ」があって。わかりやすすぎるのも、わかりにくすぎるのもダメだし、その間を狙うのが自分たちらしさにもなるかなと。

──自分たちらしさと、J-POP的なわかりやすさのバランスはどう考えてますか。

まだ研究中ですけど(笑)。ここまですごく理屈っぽい論理的な話をしていて、初期衝動的なことは脇に置いてますけど、いろいろ検証した結果思ったのは、歌詞全体を通して泣けるか、一部分共感できる部分があるか、それでだいぶ曲の印象が決まっていく気がする。歌詞を全部理解できなくても、1ワードでも腑に落ちるところがあれば、それを機に全体を読み取ることができる。

──物語で読ませるのではなく、感覚で読ませる。

リズムが言葉の意味を上回るというか。そういう瞬間はあるなと。吉本隆明さんの詩で、そういう文脈のものがあるんですけど。リズムが言葉の意味を上回る瞬間があるし、上回るべきだ、という。俳句とか短歌もそうだなと思うし。

──言葉の意味性よりも、言葉のリズムや響きを重視する。

どちらかといえば、今までよりはそういう部分も意識した。今までは技としてそれを使っていたけど、今回はより重視しましたね。でも歌詞の内容を考えなかったわけじゃなく、1つのストーリーとして着地している部分はしっかりある。ドラマの最終話までのあらすじをもらったんですけど、「僕と花」はドラマの最終話が終わったその後のストーリーというつもりで書いたんですよ。だからドラマを観終えたあとで聴くと、より理解できる。最初に書いた歌詞は、ドラマが始まる前のストーリーを書いたんですけど、それはすごく暗くなってボツにして。その後のストーリーという設定で書いたときに、自分の中ですごく腑に落ちたんです。

ニューシングル「僕と花」 / 2012年5月30日発売 / 1200円(税込) / Victor Entertainment / VICL-36705 / レコチョクshoppingへ

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CD収録曲
  1. 僕と花
  2. ネプトゥーヌス
  3. ルーキー(Takkyu Ishino Remix)

※初回プレス分のみ20ページブックレットが付属。通常形態のブックレットは8ページ。

「僕と花」
関西テレビ・フジテレビ系ドラマ「37歳で医者になった僕 ~研修医純情物語~」主題歌

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サカナクション(さかなくしょん)

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年5月に初の書き下ろしドラマ主題歌を含むシングル「僕と花」を発表した。