ナタリー PowerPush - サカナクション
山口一郎「DocumentaLy」のすべてを語る
僕らはただ社会で得たことを音楽にしているだけ
──前に一郎くんと話したときに「音楽は美化されがちだと思う」って言っていたことがとても印象に残っていて。
言いましたね。
──このアルバムはそういうところも踏まえた上で、自分と時代のリアルを描いて音楽の本質、ロックの本質を浮かび上がらせる。そして、リスナーに人間的な重みのある意志としての表現を受け取ってもらおうとしているんですよね。
そう。みんな仕事しながら、学校に通いながら日常を送ってるじゃないですか。それと全く同じ気持ちというか。僕らは芸能人じゃなくて、ただのミュージシャンだから。みんなと全然変わらないのに、音楽を作ってるというだけで無条件にもてはやされてしまう一面があるというか。もちろん特殊な職種だけど、僕らもみんなと同じ社会の中に生きていて。社会で得たことを音楽にしてるだけなのに。美化されることで変に図に乗る人が出てきたりもするし、そこに甘える人も出てくる。僕はそれがすっごいイヤで。音楽はみんなと同じ人間が作っていて、0を1にしているっていうことを伝えたい。それを知ってもらうと、音楽の本質を理解してもらえるんじゃないかなって。
──美化されて生まれるゆがみというのは、一郎くんが最初に言っていたロックバンド論というか、ロックバンドとはそもそもなんぞやという話にもつながってきますよね。
そうそう。ロックバンドは泥臭い部分を見せないと時代を歌うことはできないと思うし、ましてやこんな時代にきれいごと言ってらんないから。ホントに僕らががんばらないと、これから出てくる若いバンドにも示しがつかない。だから、証明したい。
──次の世代のためにも。
もちろんそう。僕らは中堅だから(笑)。中堅だからできることってたくさんあるなと思うんですよ。僕らが動くことで、ひょっとしたら上の世代の人たちももっと動きやすくなるかもしれないと思うし。今って真ん中がいないと思うんですよ。BUMP OF CHICKEN、RADWIMPSみたいなモンスターバンドがいて、その間がいないというか。もしそこに僕らが飛び込めるなら、上の世代のバンドも発信しやすくなると思う。そうすると、バンドシーン全体が活性化すると思うし、バンドに憧れる若者が増えると思う。若いバンドが自分たちの意志やストーリーを大切にしはじめると、自ずと良い音楽が生まれると思う。一方で、アナーキーなバンドは、アナーキーとしての役割をちゃんと果たすようになると思うし。今はアナーキーなバンドが本流になってしまっているような感じがあるから。
──アナーキーなバンドが、もっとカウンターとして機能するようになるシーンが健全だと思う?
そうですね。そういう時代が来てほしいなと思いますね。
DVDを観て現場を知ってほしい
──今言ったことを示すためにも、初回限定盤のDVDがあるんだよね。
そうです。だから、たくさんの人たちに観てもらいたい。あとバンドをやってる人たちにあれを観てもらって、なんて言うのか聞いてみたい。僕らがこうやって音楽を作ってることを知ってもらいたいし、みんながどういうふうに作っているのかを知りたい。そういう意識が広まっていけば面白いのになって。リスナーが、このバンドはこんなふうに音楽を作ってるんだってことがわかると、今まで音楽専門誌や音楽が好きな人や音楽にかかわってる人にしかわからなかった批評の仕方が、一般層にまで及んでくると思うんですよ。それを思うとすごくワクワクする。
──確かにそれはすごく刺激的な状況だと思う。しかし、このDVDは赤裸々ですね。
うん。「エンドレス」の制作に特化しているけど、歌詞ができなくてレコーディングが延期になっていく様から、歌詞ができあがった瞬間、歌録りするまでを全部撮ってもらって。
──リアルだよね。
めっちゃリアル。レコーディング現場を見たことがない人は「こんなガチなの?」って思うはず。僕らはプロデューサーもいないし、自分たちで全部やってるから。専門的な言葉も飛び交ってるけど「僕らにもできそうだな」ってリスナーに思ってもらえたら余計うれしいなって。
──サカナクションのセールスの規模も含めてそれを見せることに意味があるんだよね。
あると思う。でも気持ち悪いですよ? 俺、普通に泣いてたりするし。「こんな姿を見せる意味あるの?」って批判も絶対あると思うんですけど、「見せない必要もあるの?」とも俺は思うから。
初回限定盤A、B 収録曲
- RL
- アイデンティティ
- モノクロトウキョー
- ルーキー
- アンタレスと針
- 仮面の街
- 流線
- エンドレス
- DocumentaRy
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
- years
- ドキュメント
- ホーリーダンス Like a live Mix
初回限定盤A DVD収録内容
- DocumentaLy Documentary「エンドレス」「ドキュメント」(レコーディングドキュメンタリー映像を27min収録)
通常盤 収録曲
- RL
- アイデンティティ
- モノクロトウキョー
- ルーキー
- アンタレスと針
- 仮面の街
- 流線
- エンドレス
- DocumentaRy
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
- years
- ドキュメント
サカナクション(さかなくしょん)
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。その後、地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させた。