ナタリー PowerPush - サカナクション

山口一郎「DocumentaLy」のすべてを語る

サカナクションとは何かを示すための構成

──「エンドレス」は、イントロのピアノの和音が鳴った瞬間に引き込まれますね。

頭でピアノが入って、ドラムがインして、ストリングスが入ってくる時点でこの曲の感情がコントロールされると思うんですよ。だからピアノの音色にはすごくこだわったし。ピアノは岡崎(英美 / Key)がね……「これでいい」って言ってるのにあいつも納得するまで向き合いたかったみたいで。

──すごくシンプルなんだけど、求心力のある音色だと思います。

「流線」の最後から「エンドレス」に入ってくるストーリーみたいなものも大事だったし。

山口一郎(Vo, G)

──そう、すごく大事だよね。「エンドレス」は、2番の歌い出しから、テクノの要素が入ってくるんだけど、曲の最後に向かってどんどん扇動的になっていくシンセも印象的な響き方をしていて。そこから「DocumentaRy」というインストのタイトル曲につながっていく流れもいい。

「エンドレス」から「DocumentaRy」に続く流れもすごく意味のあるもので。「DocumentaRy」は今までにないくらいミニマルなんです。音色的な部分では、明らかにマイノリティになったけど、今までよりも聴きやすくなったし、そこは進化だと思う。トータルで「エンドレス」を軸にいろんな曲を配置してますね。それぞれの曲の余韻を楽しんでもらいながら、サカナクションとは何かを最後に知ってもらう曲順になってます。

「years」がなければこのアルバムはなかった

──そのあとに続く「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」から「years」に続いていく流れは、シングルのリリース順になってるけど、ここは崩せなかった?

うん、「『バッハ~』」と「years」は崩せなかった。この2曲で1曲だし、ひとつのテーマを歌ってるから。

──震災以降、一郎くんを支えた2曲だよね。

うん、助けだった。「years」が書けたということは大きかったです。あれを書けなかったらこのアルバムはできていなかった。

山口一郎(Vo, G)

──そういう意味でも、アルバムを聴いていて改めて3枚のリードシングルの存在は、これまで以上にシングルの役割としても、アルバムの全体像を導くものとしても大きいと思った。

「アイデンティティ」は、初めて大衆を意識した曲で。「ルーキー」は苦悩の曲なんだけど、あの曲から始まったことがあったから。それから震災を受けて「『バッハ~』」と「years」ができて。

──ちなみにそのほかの曲順は、曲ができたほぼ時系列どおりに並んでるんですか?

ほぼ時系列どおりですね。

──ドキュメンタリーというテーマにのっとって、自然とそうなった?

そうですね。時間を意識しないと、このアルバムは成立しないから。「エンドレス」だけポンと違うところにいるけど、「モノクロトウキョー」も「ルーキー」の前にできていたし。

リスナーを信用してる

山口一郎(Vo, G)

──「モノクロトウキョー」や「仮面の街」には、東京で生きる一郎くんの混沌とした心情が表れていると思います。

「シンシロ」というアルバムは東京に出てきたばかりの自分たちを描いて、「kikUUiki」では東京で見つけた自分たちのスタンダードを描いたんですよね。で、このアルバムでは東京で今まで一体何を見てきたのか、今何を見ているのかを歌わなきゃいけないなと思って。東京で生活している中で疑問に思うこととかをすごく意識しましたね。東京という街に馴染んできたことに対する苛立ちというか……。僕だけじゃなくて、みんな苛立ってると思ったんですよね。指摘されて「あっ」て思う人もいると思うし、いずれそう思う若者たちもいると思う。当たり前にある疑問について、大人になるにつれて感じなくなってくる焦りが自分の中にすごくあった。

──そういう疑問や葛藤も、これまで以上に生々しく描こうと。

時代を歌いたかったから。今この瞬間に思っていることを歌わなきゃいけないと思ったし、このアルバムを10年後、20年後に聴いたときに「このときはこういう時代だったんだ、みんなこういうことを考えていたのかな?」って思えてもらえたらいいなと思って。例えば僕は井上陽水さんの「傘がない」を聴いて、そういうことを思うんですよね。今の時代を音楽にしたときに、陽水さんが「傘がない」を歌っていた時代と比べて曖昧な部分が残ると思う。今の時代は音楽以外にも娯楽がいっぱいあるし、音楽が担う部分もその分特異になってると思うんですよね。だから、あの時代の歌の役割と同じようなことはできないとかもしれないと思ったけど……この時代だからこそミュージシャンとして言える、音楽にできることがあると思うから。それを探さなきゃなって。

──このアルバムがリリースされてすぐ聴くリスナーは、当然だけど一郎くんと同時代を生きているわけで。同時代を生きている山口一郎のリアルを浮き彫りにすれば、自ずとリスナーにも呼応するものがあると信じているアルバムだなと思った。

うん、信用してる。僕らからリスナーを信用しないとこっちを信用してもらえないと思ったし。だからこそできたアルバムでもあると思う。

──信用しないと何も始まらないと思っているんだろうなって感じました。

例えば音楽の本質を理解してもらわないで「違法ダウンロードは止めましょう」って壁に貼ったって、誰も止めるわけない。本質を知ってもらって、リスペクトしてもらわなきゃいけないと思う。そのために音楽はこういう人たちが作っていて、こういうふうに生まれて、こうやって広まっているんだよっていうことを僕らから発信していかないと、って思ったんですよね。そこで初めてモラルが生まれると思うんですよ。日本は特に秩序が生まれやすい国だと、僕は思ってるし、信じてる。

ニューアルバム「DocumentaLy」 / 2011年9月28日発売 / Victor Entertainment

  • 初回限定盤A / CD+DVD / 3500円(税込) / VIZL-437 / Amazon.co.jpへ
  • 初回限定盤B / CD / 3000円(税込) / VICL-63785
初回限定盤A、B 収録曲
  1. RL
  2. アイデンティティ
  3. モノクロトウキョー
  4. ルーキー
  5. アンタレスと針
  6. 仮面の街
  7. 流線
  8. エンドレス
  9. DocumentaRy
  10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  11. years
  12. ドキュメント
  13. ホーリーダンス Like a live Mix
初回限定盤A DVD収録内容
  • DocumentaLy Documentary「エンドレス」「ドキュメント」(レコーディングドキュメンタリー映像を27min収録)
  • 通常盤 / CD / 2800円(税込) / VICL-63790
通常盤 収録曲
  1. RL
  2. アイデンティティ
  3. モノクロトウキョー
  4. ルーキー
  5. アンタレスと針
  6. 仮面の街
  7. 流線
  8. エンドレス
  9. DocumentaRy
  10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
  11. years
  12. ドキュメント

レコチョクにて着うた(R)配信中! / iTunes Store

サカナクション(さかなくしょん)

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。その後、地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させた。