ナタリー PowerPush - サカナクション

2010年代を貫く名盤「kikUUiki」誕生

どういう音楽が残っていくのかに興味がある

──サカナクションと「kikUUiki」というアルバムからは2010年代的な感覚を強く感じるんですが、もし90年代に山口さんがデビューしていたら、アプローチは全然違ったかもしれないですね。

きっと直球でしたよ。1曲売れたら「よっしゃー! この路線で行こう!」みたいな感じで(笑)。

──あはは(笑)。逆に「どんな時代でも俺は変わらない」「自分の内面から出てくるものを曲にするんだ」っていうアーティストもいると思うんですが、山口さんはそういうタイプではないということですよね。時代とか受け手の存在を踏まえた上で、自分のどの部分を作品にして出すのがベストかっていうことを常に考えている。

っていうか、誰もが考えると思うんです。その時代で音楽を作るわけだから。90年代、2000年代ではなく、2010年代に生きて2010年代の僕らの音楽を作ってるわけだから。音楽の聴き方も変わるし、レコードからCDに変わったように配信になっていったりもしてるし。その中でじゃあどういう音楽が残っていくのかっていうのは僕はすごく興味がある。自分はこういう音楽を聴いてほしいなっていう提案もあるし。

──なるほど。それにしてもここまで完成度の高いものを作ってしまうと、次の作品を作るのが難しいんじゃないかと少し心配なんですが。

いや、このアルバム作ったばっかりだけど、もっとやりたいことはいっぱいあるんですよ。

──おお。

ライブ写真

まだまだこの先がありますよ。今回「アルクアラウンド」っていうシングルを出してこのアルバムで自分たちを表現して、きっといつか僕らはもう1回シングルを出すと思うんですけど。そのシングルではきっと「アルクアラウンド」のようにわかりやすい曲をやると思う。そしてアルバムでまた自分たちの今をちゃんと封じ込めると思う。それを繰り返していくことが、シーンに対する1つの表現になっていく気がするんですよね。

──「アルクアラウンド」をきっかけにサカナクションを知ったリスナーが、アルバムで「目が明く藍色」に触れるわけですもんね。

うん、そうなってくれるといいですよね。まだ2010年代は始まったばかりで、これから多分ものすごい勢いで変化していくと思うんです。バンドっていうフォーマットも俺は多分崩壊すると思うし。そういう時代が来たときに、じゃあどういう音楽が残っていくのか、どういうものが求められるのか。僕はそれをちゃんと考えられるアーティストでありたいし、リスナーと一緒にそうなっていきたいと思うんですよね。アンダーグラウンドな音楽もエンタテインメントな音楽も、どっちも良さがあって、知らない人にそれを伝えていくのもアーティストの仕事だと思うし。で、それをちゃんと提示できるのはシングルではなくてアルバムだし。だからアルバムっていうフォーマットは崩れないほうがいいと思う。残っていくべき財産だと思う。で、アーティストをリスペクトしていくきっかけも、僕はやっぱりアルバムからだと思うし。消費される音楽だけじゃないちゃんとした日本のロックシーンが生まれて、僕の頭の中にあるチャートと現実のチャートが一致する時代が来る。そういうすごく楽しい時代がきっと来ると思うんです。

文学であり続けることが歌に説得力を持たせてくれる

──これは個人的な印象かもしれないんですが、サカナクションの音楽から受けるイメージとして、やっぱり“昼”よりは“夜”を感じるんです。ドライではなく常にどこかウェットだし。山口さんは「時代やシーンの動向を見ながら戦略的に作品を作っているんだ」と言いますが、一方では時代と関係なくサカナクションを貫いている“何か”もある気がして。山口さんにとって時代に左右されず「これしかできない」という部分。それはなんだと思いますか?

んー、僕の中にあるフォーク精神ですかね。フォークって言ってもただアコースティックってだけじゃなく、そのメッセージや背景、そういうものがすごく重要だっていう意識は持ってます。僕はやっぱりそこを愛して曲を作ってきたから、サカナクションらしさっていうかね、僕の基盤はそこらへんにある気がしますけどね。

──やっぱり歌があるということがサカナクションの芯になっている?

うん、もし歌がなかったら、曲をこねくり回すことでどんどんわかりにくいものになってしまう。でも歌という核があれば、それをどう伝えるかの手法が自由に考えられるっていうのかな。歌の時点で0が1になってる。で、今サカナクションでやってることは、その1をどう100にするか、だと思うんですよね。

──その歌には、山口さんのこれまでの生きてきた人生とか内面みたいなものが詰め込まれてるわけですよね。

そうですね。その歌の核にあるものが文学になってないと、ただ消費される音楽になってしまうし、説得力がなくなるんですよね。でもそこが変わらず文学であり続けることが、やはり曲の質を高めるし、聴いてもらえる、考えてもらえるって部分につながってく気がする。だから僕はそこで手を抜けないし、さっきも言ったけど意味のない言葉をはめるのは怖いなあって感じるんです。

──そこが文学として成立しているからこそ、音色やアレンジ、BPMといった要素に戦略を生かしていくことができるんですね。

うん、それをみんなで「どうしようか」って考えていくのがバンドの面白さですからね。そのあたりも含めてじっくり聴いてもらえれば、いろんな発見ができるアルバムだと思います。

ライブ写真
サカナクション

山口一郎(Vo,G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組。2005年、札幌で活動開始。
ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集めた彼らは、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出演。地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。
そしてBabeStarレーベルより2007年5月に1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアー(8カ所8公演)を行い、同年夏には新人最多となる8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、4月から計15公演に及ぶ全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2010 kikUUiki」を実施。