ナタリー PowerPush - サカナクション

2010年代を貫く名盤「kikUUiki」誕生

意味のない言葉を歌詞にするのは怖いです

──このアルバムは歌詞も非常に印象的です。作詞に関して心がけたことはありますか?

僕は歌詞を歌詞と捉えてないんですよね。詩を書くつもり、俳句を書くつもりで書いてるんです。時代を切り抜くために書いてるっていうか。

──サカナクションの歌詞は象徴的なフレーズの連続によって、鮮やかなイメージを描き出してくれるように感じます。

ライブ写真

うん、説明はいらないと思うんですよ。例えば「僕は中学3年生。もうすぐ受験を控えてる」みたいな。「そんな僕は何曜日に誰々と出会った。それで君のこと好きになったよ。受験勉強も手につかない」みたいなことを説明するんじゃなくて、僕はそういう過程で生まれる感情を言葉で切り取りたい。そうするとものすごく抽象的になってしまうけど、同じように考えてる人がそこに触れるとすごく共感できたりするし、違う状況の人がそれに触れて違う意味に捉えたりするのもいいだろうし。僕の中では歌詞っていうのはそういうものですね。

──なるほど。サカナクションの歌詞は文学的な“詩”であると同時に、譜割りというか、言葉が音に乗ったときのリズムもすごくいいと思うんです。山口さんはリズムや音の響きを優先して、言葉の意味を犠牲にしたりすることもありますか?

いや、それはしない。絶対にしないです。だから「これを言いたい」と思ったら、なんとかそれにはまるような言葉をすごく探します。むちゃくちゃ考える。それによって一気に曲のイメージが変わることもあるから、すごく慎重にやりますよね。でも意味はねじ曲げない、絶対に。

──じゃあサカナクションの歌詞に意味のない言葉はない?

ないですね。遊びはもちろんありますけど、意味のない言葉はない。それを書くのは怖いです(笑)。

つじつま合わせで入れた音はひとつもない

──今伺った「意味のない言葉はない」という話はすごく興味深いんですが、その姿勢は音に関しても同じですか?

はい。つじつま合わせで音をはめるっていうのは今回一切やらなかったです。今までは「イントロでこの音色を使ったからアウトロでも使おうか」とか「Aメロで一瞬出てくるだけだと意味がわからないからBでも使おう」とか、そういうつじつま合わせで音を選んだりしてたときもあったんですよ。でもそれって義務的というか、アートじゃないんですよ、やっぱり。だから今回気をつけたのは、例えばキーボードの岡崎がAメロのリフを考えてきましたと。そしたら「このリフはいったいどういうイメージなの?」「どういう感情を与えたいの?」って聞くわけですよ。そういうふうにひとつひとつコントロールしながら作っていったんです。そうやっていくうちに、みんな全然作り方が変わってきた。出す音の慎重さが変わってきましたね。

──前作「シンシロ」のときからそういう意識は少なからずあったと思うんですが、今回はそれをさらに突き詰めていったという感じ?

「シンシロ」のときはある程度戦略もあって、サカナクションを知ってもらうためにあえてクラブミュージック的な切り貼りの要素、ループの楽しさだったりを表現していた部分はあったんですよね。今回はそうじゃなくもっと感情みたいなもの、歌に込める思い、電子音を使ってるからこそ人となりを見せていこうって、なんかそこをすごく慎重にやっていった感覚はあります。

──話を聞いていると、今回の作品が非常に緻密に作られているというのがわかります。でも、1つ1つの音を全部理詰めで作っていくというのはすごくたいへんな作業ですよね。普通のロックバンドは、もっと直感的、肉体的に音を鳴らしてみて「おっ、今のよかったじゃん、これ採用!」っていうケースも多いと思うんです。実際それでお客さんも喜ぶし。でもサカナクションはそのやり方を選ばないわけですよね。

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選ばないですね。それを否定するわけじゃないんですよ。ただ僕たちはそこに楽しさを見出せないだけで。そういう音楽は溢れてると思うし、ずっと繰り返されてきたことだと思うから。じゃあ2010年代これからどういう音楽が伸びていくのか、どういう音楽が求められていくのか。誰でも家庭で簡単に音楽を作れる時代になってきて、誰でもバンドもやれる。そういう時代だからこそ僕らはサカナクションらしいやり方をちゃんと提示していきたいんですよね。

──そのやり方を続けることで、疲弊してきたりはしませんか?

でもそればっかりじゃなく、もちろん解放されるときもありますからね。「Klee」っていう曲をレコーディングしたときとかも、全員で一発録りしましたけどその瞬間に解放されるわけです。制約から一気に解放される。それはものすごく気持ちいいし、そこで感じる衝動みたいなものも僕たちは知ってるから。ただ、じゃあそれをどう音源に落とし込んでいくかっていうところ。そこを意識しないまま、自分たちの衝動のまま作っていくというのは、僕らはやっぱりできないかな。

──それは山口さんの性格的なものなんでしょうか?

どうなんですかね。自分の好きな音楽がそういう衝動的な音楽じゃないからだと思いますけどね。僕の衝動は過去のバンドでもう認められないことがはっきりしたから(笑)、今はサカナクションが認められてきたものを伸ばしていくしかないっていうか。例えばブルーハーツとか尾崎豊さんとかって僕ホントに天才だと思うんですよ。自分が好きなことをやってそれが影響力を持って広がっていった。僕らはそういうタイプじゃないんですよね(笑)。でもいわゆる日本の音楽シーンが好きで。そこで自分たちがどういう爪跡を残していきたいか、どういうシーンにしていきたいか、どうやってたくさんの人に音楽を届けていくか、どういう音楽の楽しみ方があるかっていうことをちゃんと伝えていきたい。そして自分も楽しみたいって思ってるんですよね。

サカナクション

山口一郎(Vo,G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組。2005年、札幌で活動開始。
ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集めた彼らは、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出演。地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。
そしてBabeStarレーベルより2007年5月に1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアー(8カ所8公演)を行い、同年夏には新人最多となる8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、4月から計15公演に及ぶ全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2010 kikUUiki」を実施。