さかいゆう|国内外の敏腕と作り出す新たなポップミュージック

さかいゆうが1月23日に3年ぶりのニューアルバム「Yu Are Something」をリリースした。

東京、アメリカ・ロサンゼルスおよびニューヨークの3カ所でレコーディングをしたこのアルバムには、Zeebraやサイプレス上野といった国内ヒップホップ勢、黒田卓也や大林武司らニューヨークで活動する日本人ジャズミュージシャン、ジョン・スコフィールド、スティーブ・スワロウ、ビル・スチュワートといったUSジャズシーンのビッグネーム、さらにはジェームス・ギャドソン、レイ・パーカーJr.といったソウル、ファンクのレジェンドまで、そうそうたる顔ぶれが名を連ねている。さかいは彼らの個性をがっちりと受け止めつつ、その世界基準の演奏やグルーヴを歌ものに昇華し、新たなポップミュージックを作り出した。

このアルバム完成を記念し、音楽ナタリーではさかいへのインタビューを実施。自身の音楽に対する価値観や多彩なアーティストとの共演について語ってもらった。

取材・文 / 柳樂光隆 撮影 / 映美

ルーツはジャムセッション

──このアルバムは国内をはじめ、ロサンゼルスとニューヨークでさまざまなミュージシャンと録音したことが特徴ですよね。何かコンセプトはあったんですか?

自分が育った第2の故郷・ロサンゼルスではいつかレコーディングしたいなと考えていたんですけど、まさか実現するとは思っていなくて。せっかくアメリカに行くならニューヨークにも行こうかなと。それで誰かとやろうかなと思っていたら自分の憧れの人とできたりして、いろんな偶然や奇跡が重なってラッキーなアルバムになりました。

──多彩なアーティストを迎えて国内外で録音したこともあって、いろんなテイストの曲が収録されてますね。

自分の音楽がバラエティに富んでるっていうのはずっと前から言われてて、今回はそれがさらに顕著に表れたなと思ってます。僕をよく知る人は「ブラックミュージックのさかいが帰ってきた」って言うんだけど、全然そんなことなくて。僕は影響を受けた音楽をそのまま、自分の言葉やメロディに落とし込めたらいいなといつも思ってるんですよ。今回のアルバムは一番素直にそれが出せたのかなと思います。

──レイ・パーカーJr.やジェームス・ギャドソン、ジョン・スコフィールドなど世界的なレジェンドも今作に参加してますよね。彼らを起用するにあたって意識したことはありますか?

作り込みすぎないようにしようと思いましたね。1曲目の「Get it together」はレイ・パーカーJr.のギターと僕が弾いたシンセベースと、ジェームス・ギャドソンのドラムスで構成されてるんですけど、ほとんど編集せずにちょっとゆるいリズムのところもそのまま生かしてます。個人的にクオンタイズされた音楽に疲れちゃったから、もっとポケットのある音楽を聴きたいと思っていたこともあって、演奏をそのまま出せたらいいなと。でも、ジェームス・ギャドソンじゃなかったらクオンタイズしていたかもしれないですけどね。

──確かに生演奏の魅力がそのまま詰まったすごくフィジカルな音楽ではありますね。

そういう意味では、僕のルーツが出てるなと思ったんですよね。ここ最近、自分にしては珍しく、作ったばかりのこのアルバムをヘビロテしてるんですよ。今までは制作で力尽きて僕の作品なのに聴くのも嫌になっていたんですけど、このアルバムのサウンドは隙間やスペースがあるからかな。

──そのルーツの話なんですけど、以前Ovallの取材をしたときにライブハウスの話になって、さかいさんが出入りしてた東京・マイルスカフェの話題が出たんです。

あー、ジャムセッションですよね。

──Ovallのメンバーが「僕らが行ってたセッションにはさかいゆうくんもいたんだよね」って話をしてて。さかいさんってピアノの演奏がすごくてセッションで一目置かれてたらしいですね。

ピアノは大してうまくないですけど、弾き散らかしてどっか行くみたいなイメージみたいでした。オーバーグラウンドに出てこない才能というか、自分のスキルを持て余しているミュージシャンって今でもいると思うんですけど、その頃の僕もそれと同じ状況で。自分の音楽の才能をトリートメントできたミュージシャンはたぶんオーバーグラウンドに出るんです。あの頃、「世間は全然見向きもしてくれないな」って気分でしたね。そこは当時僕の周りにいたミュージシャンに共通してました。

──「さかいさんがダニー・ハサウェイを弾くと最高だった」って話も聞きましたよ。

僕はそれくらいしかできなかったんですよね(笑)。ジャズは好きだったけど、ジャズミュージシャンをリスペクトしていたので、コアなジャズのほうには足を踏み入れなかった。だからソウルやファンクもやっていたんですよ。あの頃はみんながセッションできるキャンバスを探しながら戦ってましたよね。そこからmabanuaもKan Sanoも抜け出して自分だけの音楽をまとめることができたんですよ。

──先ほど「Get it together」は、ほとんど編集せずに演奏を極力そのまま使ったとおっしゃってましたけど、そのセッションに行ってた頃の経験もルーツの1つとして入ってるんだろうなと思って聴いてました。

そうですね。ライブで同じことができるみたいな感じです。

コンセプトはトレンドを超えた音楽

──ちなみにジェームス・ギャドソンは近年だとディアンジェロの「Black Messiah」にも起用されていた伝説的なドラマーですが、「Get it together」「煙のLADY」で実際に共演してみてどうでしたか?

自分を育ててくれた音楽、例えばマーヴィン・ゲイとかビル・ウィザースのドラマーだからいつか一緒にやれたらいいなと思っていました。実際セッションすると“めっちゃいい音のする天才ドラマー”って感じでしたね。自分の音をちゃんと持っていて、最初から最後までジェームス・ギャドソンの音楽で、その集中力はやっぱりレベルが違うなって思いました。でも、伝説みたいな存在じゃなくて、ちゃんと意識してグルーヴしようとしてるミュージシャンなんですよ。レイ・パーカーJr.と僕とギャドソンでリズム録りをしたんですけど、3人の目指すところが一緒じゃないといい音楽にならないんだなって改めて思いましたね。レコーディングは2回しかやらなかったですよ。彼らは音楽を知っているので、シールドを入れた途端に音楽が始まるんです。スタジオに来てから20分くらいで演奏に取りかかって、サウンドチェックやって1回練習してから話し合って、もう1回やったときのテイクがアルバムに収録されてますからね。

──ジェームス・ギャドソン、レイ・パーカーJr.との楽曲「Get it together」に作詞とコーラスでMichael kanekoを起用したのはなぜですか?

この曲は西海岸・ロサンゼルスのサウンドだと思ったんで、マイキー(Michael Kanekoのニックネーム)でしょって。結局3曲目の「I'm A Sin Loving Man」もマイキーにお願いしたんです。彼はカリフォルニア育ちだから、こういうの得意なんですよ。

──こういうカラッとした明るさは彼の特徴ですよね。

あの人はネアカだから、言葉や声から太陽とか風の匂いが漂ってるんです。波みたいな声をしているじゃないですか。人を幸せにする風みたいな気持ちいい声というか。

──この曲はこの3人とのコラボって感じですね。

なんの新しさもないですけど、今回はそれがコンセプトかもしれないですね。新しいこととか古いこととかではなくて、ずーっと聴けるトレンドを超えた音楽がいいなって。