音楽ナタリー Power Push - さかいゆう

応援歌を“踊れない四つ打ち”に乗せた理由

「But It's OK !」で身体能力の高さをアピール

──「But It's OK !」はどんなイメージで書いたんですか?

こっちは元気もりもりですね。そう言えば、これもAメロは四つ打ちでしたね。

さかいゆう

──ですね。今回は「Drowning」だけ四つ打ちじゃない。

あれはディスコファンクですから。僕はDaft Punkの「Get Lucky」の熱がまだ全然冷めてないから。それに比べて「But It's OK !」はなんの影響もないかも。シャッて作っただけですから(笑)。

──「But It's OK !」を聴いたとき、こういうシンセの入れ方や弾き方って最近あまり聴かなくなったなあと思いました。

なんでああやって入れられるかっていうと、僕の身体能力が高いからなんです。「ン~ブワッ!」ってグリッサンドしてますけど、機械ではああいう音にならないんですよ。僕は「ン~ブワッ!」の「~」に粘りがあって、最後の「ブワッ!」の加速がめちゃめちゃ速いんです。それって意外とできない人が多い。誰にも知られてない僕の瞬発力を使ったシンセの弾き方なんです。

──歌詞はNHK BSプレミアムドラマ「受験のシンデレラ」に沿って書いたんですよね。

受験の話だったんで応援するような歌詞にしようと思って、「自分だったらこうやって言われたら許せるな」っていう言葉を歌詞にしていったんです。「がんばれ」ってシンプルに言われるほうが好きな人もいると思うんですけど、僕は、ちっちゃい頃から結果にこだわってないというか、あんまり競争心がないんです。柔道をやってても受け身が好きだったから全部負けてたんですね。

──投げられないと受け身ができませんしね(笑)。

そう(笑)。バン!って投げられて「いい受け身だなあ」って言われたりしていて。顧問の先生が来ないときはずーっとマットの上でプロレスやってたし(笑)。歌詞に話を戻すと、そういう自分の性分もあるから、この曲は「やれるだけやってあとは風任せ」っていうのを僕の中でテーマにしたんです。でもそのままではなく「やれるだけやって」のあとに続く言葉を「悔い残らぬよう」にして、そこを起点に書いていったんです。ただ、そのあとに「目指すのはただ自己ベスト更新」って言ってるから、結局「再燃SHOW」と同じようなことを言ってるんですよね。

──自分に向けた応援歌っていう。

だから「Drowning」で中和したかったんです。3曲のうち2曲が応援歌ってちょっとしつこいから官能的な曲を入れとこうと。

実験的なシングルに

──今回のシングルを作り上げていくにあたり、ほかにこだわった部分は?

さかいゆう

僕はいつもピアノを弾きながら歌いますけど、そこにこだわらなかったことですかね。普段だったら自分のピアノをメインにしたほうが仕事が早いんです。僕の中でピアノって楽な武器で、自分でピアノを弾くと簡単に自分のサウンドになる。だけど、それをグッと我慢して、ピアノをメインにするんじゃなくギターとかシンセのサウンドにしたんです。2曲目なんてピアノが入ってないですから。

──「再燃SHOW」は入ってますけど?

「やっぱり生ピを入れた方がさかいゆうっぽいなあ」って感じになって、結局入れたんです。でもギターだけでもよかったかなとは思ってます。そうすればもっとさかいゆうっぽくないものができたのかなって。でも、音楽って正解が何個もあるから。スタジオで作業してると「どっちもいいねえ」ってなっちゃうし、そうなると自分っぽいものを選んでしまうんですよね。

──とはいえ今回、意識はピアノを抑えるほうに向いていたと。

そう。だから普段よりプロデュースワークに向かった感じですかね。それに今回は共同作業が多いんです。「But It's OK !」は自分でやっちゃったけど、「再燃SHOW」と「Drowning」は人と共同で音を作ってる。そうすることでいろんな意見を聞いてみよう、と。「ジャスミン」も蔦谷好位置さんに共作をお願いしたんですけど、そういうことが今まであまりないんですよ。歌詞を頼むことはあっても自分のサウンドは自分でコントロールするのがクセになっていて。でも、今回セッションして音楽を作っていく経験を得たので、次のアルバムは面白いものになりそうな予感がします。その実験的なシングルにもなったんじゃないかと思います。

ツアー前にリハーサル音源を公開

──初回限定盤には今作を携えたツアー「POP TO THE WORLD」のリハーサル音源が収録されています。ツアー前(※現在は開催中)にリハーサル音源を収めるというのは大胆な試みですよね。

さかいゆう

それは僕の案です。リハもできて、1日でレコーディングが終わって、ミックスもちゃんとしなくていいから、すごく楽でした(笑)。あとこのリハーサル音源の4曲も合わせて携帯プレーヤーで聴くといい感じなんですよ。7曲のミニアルバムっていう感じで聴くのが僕は好きですね。

──とはいえ、ツアー前にネタバレを嫌うアーティストやファンはいますよね。

僕がさかいゆうファンだったらリハ音源って聴きたいだろうなと思ったんです。僕もディアンジェロのリハ音源とか聴きたいですもん。以前YouTubeに上がってたんですけど、聴いてるとめっちゃ楽しいんですよ。「あ、ここ、こういうふうに弾いてたんだ」とか発見もあったりして。ダニー・ハサウェイの名盤といわれる「Live」でもあのライブの前日とかにやった音源があるんですけど、全然違うんですよね。ダニーはミスったりしてるし(笑)、ギターのコーネル・デュプリーが弾いてないところもある。でも、これがあったからアレがあったんだと。前日のライブがあったから「そこのギター、チャッチャって弾こうぜ」って言ったのかもしれない。そういう会話がリハ音源からいろいろ想像できるんですよね。だから僕のことがめちゃくちゃ好きな人、本当に僕のことをミュージシャンとしても好きな人に向けて作ったものですね。

──今回のリハ音源も聴いてもらって、本番ではどう違っているのか聴き比べる。そういう楽しみ方もあるということですね。

そう。本番は本番で全然テンションが違いますからね。

──そもそもライブはCDを再現する場じゃないっていう考えがベースにあるんですか?

CDの再現はなかなかできないですよね。あと再現しようとしてできない部分が、そのバンドの個性なんじゃないかと思いますから。その足りない部分をどういうふうにプレイで補うかとか。そういうところも面白かったりするんで、ツアーは毎回楽しいですね。

ニューシングル「再燃SHOW」 / 2016年11月16日発売 / アリオラジャパン
初回限定盤 [CD2枚組] 2000円 / AUCL-214~5
通常盤 [CD] 1300円 / AUCL-216
DISC1(初回限定盤・通常盤 共通)
  1. 再燃SHOW
  2. Drowning
  3. But It's OK !
  4. 再燃SHOW(backing track)
DISC2(初回限定盤のみ)

「“POP TO THE WORLD” ~rehearsal take~」

  1. よさこい鳴子踊り
  2. Headphone Girl
  3. ストーリー
  4. 再燃SHOW
さかいゆうTOUR "POP TO THE WORLD"
  • 2016年11月21日(月)宮城県 darwin
  • 2016年11月22日(火)新潟県 新潟LOTS 
  • 2016年11月29日(火)北海道 Sound Lab mole
  • 2016年12月6日(火)香川県 DIME
  • 2016年12月7日(水)広島県 SECOND CRUTCH
  • 2016年12月9日(金)福岡県 Gate's 7
さかいゆうLIVE "POP TO THE WORLD" SPECIAL
  • 2016年12月21日(水)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2016年12月25日(日)東京都 中野サンプラザホール
さかいゆう
さかいゆう

高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感ある歌声が広く支持されている。また客演も多く、これまでに日野皓正、マボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2015年1月にはそんなコラボ楽曲をまとめたアルバム「さかいゆうといっしょ」を発表。2016年2月に、蔦谷好位置をプロデューサーに迎えたバラード「ジャスミン」を含む4thアルバム「4YU」をリリース。11月16日には映画「幸福のアリバイ~Picture~」の主題歌「再燃SHOW」をシングルリリースし、11~12月に全国ツアー「POP TO THE WORLD」を実施する。