音楽ナタリー Power Push - さかいゆう
等身大の“踊れるポップス”集「4YU」
人をイメージして書いてる曲、多いんですよ
──アルバムの新録曲について聞かせてください。まず1曲目の「SO RUN」はイントロからつかまれました。mabanuaさんによるアレンジもさることながら、武嶋聡さんをはじめとするホーン隊が存在感を発揮してますね。
これ、武井壮が走るって意味なんですよ。だから「SO RUN」。彼をイメージして書いたんです。武井壮の人間離れした身体能力への賛辞みたいなことが裏テーマで、すごく太いビートとステップを踏むようなベースラインと、誰も歌えないようなボーカル。BPMが105.4なんですけど、武井さんの100m走の記録が10秒54だから、それにちなんで。
──なぜ武井壮さん?
すごく尊敬してるんです。壮さんと話してて自分と通ずるところがあって。天然なんだけど理論家だったり、自分の限界を決めないところだったり。音楽もそうで、集中力が必要で、ランニングハイみたいなゾーンに入らないと物は作れない。でもそこには理論もなきゃいけなくて、本当に右脳だけで作っちゃったら人に聴かせる曲ではなくなってしまう……みたいな。あと、壮さんが運動したり、英語を勉強したり、音楽をやろうとしてたりするのは、人にすげえって思われたいんじゃなくて、人と人をつなげるためらしくて。そういう考え方も素敵だなと思って。
──それで彼をモチーフに曲を作ったと。「誰より速く 走るためには 地位や名誉も 重すぎるBaggage」「まだ見えぬゴールがモチベーション」といった詞は、確かに今のお話とつながりますね。
そう。僕にしては珍しく詞先……っていうかイメージ先行ですね。武井壮が走ってるっていう。1時間くらいで歌詞も曲もアレンジもできて、すぐ壮さんに送って。「本格的なやつキター!」って言ってました(笑)。
──それから、自分が気に入ったのは「あるギタリストの恋」でした。
それもね、竹内朋康をイメージして書いたんですよ。人をイメージして書いてる曲、偶然にも多いんですよ。ははは(笑)。
──ほかにもありますか?
「下剋情緒」かな。これは金持ちになっちゃった男の話。「金と音楽」っていうテーマから派生して「金ってなんだろう」って思ったときにフランク・シナトラが浮かんできて。で、ジャズにしたんです。
──そうなんですね。「あるギタリストの恋」では、キザでカッコいい男のストーリーが描かれています。
カッコいいですからね、ヤツ(竹内朋康)は。あと情けないところもかわいいし、人間くさいし、情に厚いし、すごい正直。タケちゃんはいろんな意味で僕のキーマンで、あの人がいたからいろんなミュージシャンと出会えたし、インディーズのアルバム(「ZAMANNA」「Yu,Sakai」)ができたし、その作品がきっかけでオーガスタと契約できたと思うので。
──竹内さん本人もレコーディングに参加されてますね。
これ、もともと彼の結婚式のために作ってサプライズで歌ったんですよ。で、CDに焼いてプレゼントしたんです。タケちゃんに向けて書いた曲だからリリースしなくてもよかったんですけどね。
歌詞で大事なのは伝えたいことの根幹
──「あるギタリストの恋」は特定の人に贈った歌といえど、詞の構成というかストーリーの見せ方も素晴らしいなと思いました。さかいさんの作詞スキルもこの数年でぐんぐん上がっているんじゃないでしょうか。
大して歌詞書くの上手じゃないから、伸びしろがね。詞に関してはまだまだ勉強中ですよ。ただ、昔と比べてボキャブラリーが増えたりミスが少なくなったりはしてるけど、伝えたいことの根幹は前からしっかりあるから、そこは変わってないと思いますね。
──基本的な作り方は変えてないんですね。
うん。やっぱり「これを伝えたい」っていう思い、つまり幹がないとダメで、葉から書き始めると最終的にもう1回やり直さなきゃいけなくなっちゃうんですよね。葉っていうのは言いたいだけの言葉、けっこうジューシーな言葉ね。「こんなこと言ってやろう」って思って書くと、だんだん上っ面だけの歌詞になってきちゃうんですよ。言いたいメッセージがあって、自分なりのボキャブラリーを駆使して書く。だからこの歌詞好きだなって思える。その手法は最初から変わってなくて。自分では好きですね、自分の歌詞が。
──歌詞作りには苦労します?
曲は2分でできるけど、歌詞は20日くらいかかりますね。言葉ってすごい難しくて、「なんか違う」「なんか違う」って書き直すんですよね。書き上がっても、僕は変わり者だからディレクターから「意味がわかんない」って言われるんですよ。周りの人が意味わかんない歌詞を書いてもしゃあないなって思って、どういうところがわかんないのか聞いて直す。だから、誰でもわかるけど自分にしか書けないような歌詞、しかも音にバッチリハマってグルーヴもある、ってところでGOが出るまでかなり時間がかかります。
──徹底的にこだわるんですね。
自分は作品単位で勝負したいから、ほかの人が2時間くらいでできるものも20日くらいちゃんとかけて自信持てる歌詞にしたいんですよね。極論アレンジがダメだったら何年後かにやり直せるけど、メロと歌詞は変えられないじゃないですか。20年、30年経っても歌いたい曲にならなかったら、曲がかわいそうだから、そこはがんばりますね、しつこいくらい。
──さかいさんが好きであろうソウルやファンクの名曲には、響き重視で特に意味のない歌詞だったり、同じフレーズの繰り返しでグルーヴを作っていくようなものも多いですが。
わかります。「君の瞳に恋してる」っていうなんの変哲もないフレーズをどう歌うか、みたいな。例えば僕はジョニー・ギルの曲に、どういう内容かとかは求めないんですよね。ジョニー・ギルは歌ってくれるだけでいいんですよ。意味がないほうがいろんな解釈の余地があっていいっていう部分もありますよね。
──でも、さかいさんはそうではないと。
J-POPは特に詞とか思想を見られますからね。あと、オーガスタはものすごく歌詞を大事にするところだから、スタッフがみんな歌詞にうるさいんですよ(笑)。僕の歌詞作りは編集作業に近いです。実際、自分が思うように吐き出すんじゃなくて論理的に作ってますね。
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- 4thアルバム「4YU」 / 2016年2月3日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3900円 / AUCL-198~9
- 通常盤 [CD] 3240円 / AUCL-200
収録曲
- SO RUN
[作詞・作曲:さかいゆう / 編曲:mabanua] - Doki Doki
[作詞・作曲:さかいゆう / 編曲:さかいゆう、Avec Avec] - WALK ON AIR
[作詞:渡辺シュンスケ / 作曲:さかいゆう / 編曲:石崎光] - 下剋情緒
[作詞・作曲・編曲:さかいゆう] - あるギタリストの恋
[作詞・作曲:さかいゆう / 編曲:石崎光] - 愛は急がず -Oh Girl-
[作詞:西寺郷太(NONA REEVES) / 作曲:さかいゆう、Avec Avec / 編曲:Avec Avec] - サマーアゲイン
[作詞・作曲:さかいゆう / 編曲:さかいゆう、Shingo Suzuki] - SELFISH JUSTICE
[作詞・作曲・編曲:さかいゆう] - トウキョーSOUL
[作詞:森雪之丞 / 作曲・編曲:さかいゆう] - 愛は微熱
[作詞・作曲・編曲:さかいゆう] - ジャスミン
[作詞:さかいゆう / 作曲:さかいゆう、蔦谷好位置 / 編曲:蔦谷好位置]
初回限定盤CD収録曲
「さかいゆうCOVER COLLECTION」
- つつみ込むように…(MISIA)
- 今夜はブギーバック(NICE VOCAL)(小沢健二 featuring スチャダラパー)
- ACROSS THE UNIVERSE(The Beatles)
- One more time, One more chance(山崎まさよし)
- 遠く遠く(槇原敬之)
- The Stranger(ビリー・ジョエル)
- 接吻(ORIGINAL LOVE)
- よさこい鳴子踊り(高知県民謡)
- What's Going On(LIVE at Billboard Live)(ダニー・ハサウェイ、原曲はマーヴィン・ゲイ)
- PAPER DOLL(LIVE at Billboard Live)(山下達郎)
※カッコ内はオリジナルアーティスト
さかいゆう TOUR2016 "4YU"
- 2016年6月17日(金)北海道 cube garden
- 2016年6月21日(火)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2016年6月28日(火)高知県 X-pt.
- 2016年6月29日(水)大阪府 Zepp Namba
- 2016年7月1日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2016年7月3日(日)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感ある歌声が広く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2015年1月にはそんなコラボ楽曲をまとめたアルバム「さかいゆうといっしょ」を発表。2016年2月に4thアルバム「4YU」をリリースする。