音楽ナタリー PowerPush - さかいゆう×蔦谷好位置
共作曲「ジャスミン」で開けた扉
ベストを出すために努力し続ける才能
蔦谷 ダニー・ハサウェイについての話も印象的だったな。ダニーがクインシー(・ジョーンズ)に、「俺はスティーヴィーより歌もうまいしピアノもうまいのに、なんで売れないんだ」って言ったら、クインシーが何も言わなかったっていう。
さかい その何週間後かにダニーが、なんのことはなく普通にニューヨークでリハーサルをして、ホテルに帰ったら飛び降り自殺したんですよね。直接の原因はわからないけど、やっぱりずーっと溜まってたものはあるんじゃないですか。思うように評価されない悲しさというか。でも僕はそれに対して「弱いな」って思いました。歌の才能はあったけど、死んだら全部終わりだよって思っちゃうんですよね。
蔦谷 うんうん。
さかい 僕は音楽やってて「自殺者を少なくしよう」なんてそんな大それたことは考えてないですけど、自分の歌で「ちょっと死ぬの止めてみようかな」って思ってくれたらいいなあとは思ってて、そんなヤツが死んじゃダメでしょう。だからダニーのことは尊敬してるし影響も受けてるけど、ああはなりたくないなっていう人の1人なんです。僕は、すごい努力してがんばっても状況が変わらなかった場合、ベストを尽くしたなら自信持ちますけどね。売れないから終わりにしようなんて嫌だなって。
蔦谷 それ聞くと、絶対売れてほしいなって思うじゃないですか。
さかい ああ、僕のことですか?(笑)
蔦谷 そう。なるほどーって思いましたよ。すげえ印象に残ってる話ですね、それは。
──確かに、さかいさんの人柄がわかる主張ですね。
さかい ミュージシャンってすごい曖昧なところにいますよね。芸術家でもある反面、初めから人に聴かれるために曲を作ってる時点で、人がわからないものを作ったらアウトじゃないですか。でも人に理解されるっていうのはその分個性がないとも最近思えたりして……そのさじ加減がやっぱ難しいなって思うんですよ。ただ、ピカソとかも言ってるけど、どういう作品を残したかよりも、どうやって生きたか。だから僕は、生きてる間の1曲1曲でベストを尽くしたいなと思う今日この頃なんですよね。「ジャスミン」も、「ああベストを出せたなあ」って思えるし。
蔦谷 そうだよ。作品に人間がにじみ出てるほうがいいよね。
さかい 僕はそっちのほうが感動するから。それで、やっぱりその先に武道館とかがあればいいなって思う。ただ人気者になるんじゃなくて、僕に賛同してくれる1万人が遊びに来てくれたら武道館でいいライブができるなって。
蔦谷 ゆうくんは、ベストを出すために努力し続けるっていう才能があると思うよ。だから、たぶん一生満足できないと思う。もっと歌うまくなりたいだろうし、もっとピアノうまくなりたいだろうし。「もっといい曲書きたい」って常に思うでしょ。
さかい そうですね。正直「ジャスミン」ができて聴いたときに、「もうちょっと歌うまくなりたいな」と思いました(笑)。
蔦谷 うん、もっと上行きたいってまた思うでしょ。そう思えなくなったら成長しなくなると思うんで。僕もまだ一度も満足したことないから、そういう意味では同じタイプの人間ですね。
蔦谷さんは扉を開いていきたいなって思わせてくれた人
──締めになりますが、蔦谷さんが今後のさかいゆうに期待することはなんでしょうか。
蔦谷 うーん……たぶん、歌とピアノはこの生き方だったら勝手にどんどんうまくなっていくと思います。歌は特に。ピアノも練習するのが大好きだからうまくなっていくと思う。あとは曲だね。メロディをとにかく書く。どんなに苦しくてもメロディを書き続ける。もちろん自分の手癖だったり得意な音だったりって大事だけど、そこから1回距離を置いて「果たしてこれで本当に正しいんだろうか」「もっと違う方法はないかな」と、いろんな角度から自分のメロディを見てみると、その作業によって自分の歌もいろんな角度から見えるし、ライブでのパフォーマンスも変わるかもしれない。例えば2階席から自分が弾いてる光景が見えるようになってきたりして、広がりがもっと出てくると思います。
さかい ありがとうございます。
蔦谷 偉そうに言っちゃったけど。
さかい いえ。僕、蔦谷さんに会って、自分の中で変わってきたことがあって。それは、好きな音楽をやるのは当然大事だけど、好きじゃないものも受け入れなきゃなっていうこと。今は好みじゃないけど、これから好きになるかもしれない音楽ってあるはずじゃないですか。そこに対して扉を閉めないようにしようと思って。僕、20代の頃はけっこう閉めてたなって思うんですよね。だからあんまり売れなかったのかなあとも思ったり。で、この事務所(オフィスオーガスタ)に入って、スキマスイッチやヤマさん(山崎まさよし)や、当時はスガ(シカオ)さんもいたり、みんな音楽的に自分より優れてるところをすごく持ってて、この人たちから吸収しないといけないという気にはずっとさせられてたんだけど、蔦谷さんに会って、一層開いたかなって思うんですよね。例えば米津くんの音楽って、僕とは似ていないけど興味はあるんですよ。
蔦谷 彼はすごいよね。
さかい うん、すげーなって。比べるわけじゃなくて、自分の音楽に何かフィードバックできるところないかなと思った。それがうまくいかなくてもいいんですよ。要は蔦谷さんは、自分の好きな音楽以外にもちゃんと扉を開いていきたいなって思わせてくれた人ですね。
──じゃあさかいさんにとって蔦谷さんと深い仲になった2015年は、けっこう変革の年?
さかい かなり変革の年だと思います。ここからの行動が変わってきますよ。もっともっとベストを尽くしたい。今36歳ですけど、ハービー・ハンコックだって70歳過ぎてガンガン攻めてますからね。もっと扉を開かないとなって、今年この曲の作業しながら思えましたね。まだまだだなあって。
- ニューシングル「ジャスミン」2015年10月21日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤[CD+DVD]1900円 / AUCL-187~8
- 通常盤[CD] 1300円 / AUCL-189
CD収録曲
- ジャスミン
- WALK ON AIR
- 接吻(ORIGINAL LOVEカバー)
- ジャスミン(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
「さかいの湯 Vol.3“さかいゆうといっしょ”スペシャル」
- 薔薇とローズ with Little Glee Monster
- How Beautiful with 土岐麻子
- シロクジ with KOHEI JAPAN
- Magic Hour with RHYMESTER
- 闇夜のホタル with 日野皓正
さかいゆう TOUR 2015“ジャスミン”
- 2015年11月30日(月)福岡県 DRUM Be-1
- 2015年12月2日(水)大阪府 サンケイホールブリーゼ
- 2015年12月7日(月)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2015年12月10日(木)北海道 cube garden
- 2015年12月19日(土) 東京都 中野サンプラザホール
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感ある歌声が広く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2015年1月にはそんなコラボ楽曲をまとめたアルバム「さかいゆうといっしょ」を発表。同年10月にはシングル「ジャスミン」をリリースし、11月から全国5カ所を回る「さかいゆう TOUR 2015“ジャスミン”」が決定している。
蔦谷好位置(ツタヤコウイチ)
クリエイター集団agehasprings所属の音楽プロデューサー。ロックバンドCANNABISのキーボーディストとしてメジャーデビューする。バンド解散後に音楽プロデューサーとしての活動を本格化させると、現在までにYUKI、Chara、いきものがかり、木村カエラ、エレファントカシマシ、チームしゃちほこ、Superfly、back number、米津玄師などの楽曲を手がける。作詞・作曲・編曲から演奏までをこなすプロデューサーとして、ロックバンドからアイドルまで幅広くプロデュースしている。Superfly「Box Emotions」やゆず「LAND」では「日本レコード大賞」の優秀アルバム賞を受賞した。また演奏力にも定評があり、NATSUMENやEntity of Rudeなどのキーボードプレイヤーとして活躍したほか、現在は仲井戸麗市(G)、中村達也(Dr)、KenKen(B)とともにthe dayのメンバーとしても活躍。さらにJ-WAVE「THE HANGOUT」では木曜ナビゲーターに抜擢されるなど、その活動は多岐に渡る。