音楽ナタリー PowerPush - さかいゆう×蔦谷好位置
共作曲「ジャスミン」で開けた扉
さかいゆうの新曲「ジャスミン」は、さかいが2年ほど前から温めていた楽曲を、蔦谷好位置をプロデューサーに迎えて完成させたラブソング。さかいはこの楽曲について「シンガーソングライターとして、順風満帆とは言えない時期を長い間過ごしてきた僕にしか歌えないような、自分そのものを歌った自伝的な要素もたくさん含まれています」とコメントしており、作曲やアレンジにも携わった蔦谷は彼の才能や人柄、音楽に向き合う姿勢を楽曲に収めるべく試行錯誤したという。結果、さかい本人が「J-POPの最高峰ができた」と太鼓判を押す、会心の1曲に仕上がった。
今回の特集では、さかいと蔦谷の対談をお送りする。普段から飲み友達として親交の深い2人が、互いの人間性、アーティストとしての姿勢、「ジャスミン」完成までの道のりなどを朗らかに語り合った。
取材・文 / 鳴田麻未 撮影 / 佐藤類
「薔薇とローズ」を聴いて「なんとか俺が作ったってことにできないかな」と嫉妬
──先に発表されたコメント(参照:さかいゆう、新作は蔦谷好位置プロデュースのラブソング)によると、お2人は「今年一番一緒に飲んだ人」だそうですが交流が始まったきっかけは?
さかいゆう 最初は(千原)ジュニアさんと蔦谷さんがMCをしてた番組(スペースシャワーTV「音楽ヒミツ情報機関 MI6」)でお会いしたんですよね。
蔦谷好位置 そうそう。ライブ会場でチラッと話したりしてたけど、しっかり話したのは今年の正月、お互いよく一緒に仕事をするベーシストの種子田(健)さんの家での新年会。
さかい そうですね。(越智)志帆ちゃんも、Superflyのツアーメンバーもいて。その後、蔦谷さんのライブがあるのをネットで知って「観に行きたいな」と思って、種子田さん経由で入れてもらったんですよ。
蔦谷 それでメシ食いに行ったりするようになって。多いときは週2、3くらいで飲んでたよね?
さかい けっこうな頻度で会ってましたね。
──さかいさんは何がきっかけで蔦谷さんの存在を知ったんですか?
さかい 正直「MI6」に出たときにお会いして、そこから蔦谷ワークスを調べ出したんですね。僕、もともとプロデューサーをチェックしないから。それからは車を運転してるときとかに蔦谷さんがプロデュースしてるアーティストの曲を集めて聴くようになりました。米津(玄師)くんとかJUJUの曲を聴いて「これも蔦谷さんなんだなあ」みたいな。
──逆に蔦谷さんがさかいさんを知ったタイミングは?
蔦谷 種子田さんがずっとサポートをやってたし、周りの人たちからゆうくんのことはよく聞いてたんですよ。一番存在を意識したのは「薔薇とローズ」が出たときで、俺はあの曲を聴いて「なんとか俺が作ったってことにできないかな」って嫉妬するぐらいいい曲だと思ったんですよね。番組でも素直にそう言ったけど。ホントに好きだったんですよ、あの曲が。
さかい 飲むときは、こういう仕事っぽい話はあんまりしてないですよね?
蔦谷 そうだね。ちょっと新鮮。
さかいゆうが考える蔦谷好位置の“裏魅力”
さかい 蔦谷さんは、表の魅力はヒットメーカーかもしれないけど、僕が考える“裏魅力”っていうのがあって。蔦谷さんはね、音楽業界の人が会ったほうがいい人。
蔦谷 なんすかそれ(笑)。
さかい 業界の、ちょっとスキルアップしようとしてる人が会ったほうがいい人。いろいろ言ってくれるから。こんな冷静な人見たことないってくらい冷静なんだよね。だからといって感情がないわけじゃなくて、なんかね、“蔦谷俯瞰”っていうのがあるんですよ。
蔦谷 蔦谷俯瞰(笑)。
さかい その人が自分のイメージを実現するために、曲に対してやるべき最良のルートを知ってて、本人もまだ見えてない扉を自然と開けさせるような言い方をするんですよね。例えば、共通の知人のクレさん(KREVA)とかはもっと熱い人だから「お前はこういうのをやったほうがいいよ」って言ってくれて、それを受け入れるか受け入れないかは僕次第なんだけど、蔦谷さんの場合は「これがこうだからこうなったんだよね」しか言わない。そういう言い方するの。
蔦谷 えーそう。
さかい どんなに売れてない人でも大御所でも、その人のいいところと同じように悪いところも見えてて、両方言ってくれるから勉強になるんです。僕はね。
──言われたほうは、整理もできてどんどん考えが進んでいきますよね。
さかい そう。宿題が増えるというか、自分の足りないとこがたくさんわかる。それがね、的確すぎて傷付く人もいるかもしれない。蔦谷さんには別にその人を貶めようっていう気がないから余計怖いよね。「俺はこれちょっと違うと思うよ」って、上から目線でもなくフラットに言うから。
蔦谷 怖いかな。それヤダなー(笑)。
さかい 俺はイヤじゃなくてもう1回会いたいなって思う人なんだけど。伸びたい人は吸収しようって思うはずなんですよね、蔦谷さんの話を聞いて。
蔦谷 「なんて言われるんだろう」っていう意味で怖いってこと?
さかい そう。自分と対峙させられるわけですから。感情の起伏の激しいシンガーに向かって、そんなにダイレクトに言ったら「プンッ」ってなっちゃうこともあるかもしれない。でも言わなきゃいけないことってあるじゃないですか。それを本人に気付かせて、でもその人のよさをちゃんと引き出してあげるってことを、あきらめてないプロデューサーだなと思います。
──そういう言葉を聞いてどうですか?
蔦谷 意識したことなかったですね。でも、余計なお世話がけっこう好きなんですよ。子供の頃からテレビを観てても曲を聴いてても、「これはこういうふうにしたほうがいいのにな」っていつも思ってました。
さかい この“裏魅力”の話は、対談で言おうと思ってたんです(笑)。
次のページ » プロデュースは脱がしていく感じで
- ニューシングル「ジャスミン」2015年10月21日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤[CD+DVD]1900円 / AUCL-187~8
- 通常盤[CD] 1300円 / AUCL-189
CD収録曲
- ジャスミン
- WALK ON AIR
- 接吻(ORIGINAL LOVEカバー)
- ジャスミン(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
「さかいの湯 Vol.3“さかいゆうといっしょ”スペシャル」
- 薔薇とローズ with Little Glee Monster
- How Beautiful with 土岐麻子
- シロクジ with KOHEI JAPAN
- Magic Hour with RHYMESTER
- 闇夜のホタル with 日野皓正
さかいゆう TOUR 2015“ジャスミン”
- 2015年11月30日(月)福岡県 DRUM Be-1
- 2015年12月2日(水)大阪府 サンケイホールブリーゼ
- 2015年12月7日(月)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2015年12月10日(木)北海道 cube garden
- 2015年12月19日(土) 東京都 中野サンプラザホール
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感ある歌声が広く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2015年1月にはそんなコラボ楽曲をまとめたアルバム「さかいゆうといっしょ」を発表。同年10月にはシングル「ジャスミン」をリリースし、11月から全国5カ所を回る「さかいゆう TOUR 2015“ジャスミン”」が決定している。
蔦谷好位置(ツタヤコウイチ)
クリエイター集団agehasprings所属の音楽プロデューサー。ロックバンドCANNABISのキーボーディストとしてメジャーデビューする。バンド解散後に音楽プロデューサーとしての活動を本格化させると、現在までにYUKI、Chara、いきものがかり、木村カエラ、エレファントカシマシ、チームしゃちほこ、Superfly、back number、米津玄師などの楽曲を手がける。作詞・作曲・編曲から演奏までをこなすプロデューサーとして、ロックバンドからアイドルまで幅広くプロデュースしている。Superfly「Box Emotions」やゆず「LAND」では「日本レコード大賞」の優秀アルバム賞を受賞した。また演奏力にも定評があり、NATSUMENやEntity of Rudeなどのキーボードプレイヤーとして活躍したほか、現在は仲井戸麗市(G)、中村達也(Dr)、KenKen(B)とともにthe dayのメンバーとしても活躍。さらにJ-WAVE「THE HANGOUT」では木曜ナビゲーターに抜擢されるなど、その活動は多岐に渡る。