音楽ナタリー PowerPush - さかいゆう

“作品至上主義”な男が夏の終わりに贈る新作

大事なのは作品の生命力

──この5年、いろいろな曲を出してきましたが、さかいさんの中で特に印象に残ってる作品はありますか?

さかいゆう

「薔薇とローズ」ですね。CMを通して親にわかりやすく届いた初めての曲で、それによって「あー親孝行できてるな」って思ったりしたので。親自身が一番好きな曲は「君と僕の挽歌」みたいですけどね。でもあの曲は……そんなにね、売れてないよね、あれ(笑)。

──そうですかね?(笑) 売れた売れないは別として、存在感の大きな曲ではあると思いますよ。

CDが売れると、僕は変わらないんだけど周りが変わっていくのがわかるんですよ。「君と僕の挽歌」もずっと書きたかった曲だから、これを書くために今までやってきたのかなとは思ったりしましたけど。

──それに対して「薔薇とローズ」は……。

けっこう変わりましたね。ただ僕は別に何も考えてなくて、そのときのベストを尽くしてるだけ。そういう意味ではこれからもずっと変わらずにやっていきたいですね。こういうクリエイティブな作業をする人は作品がすべてだから。結局作品しか後世に残らないと思うんです。ランキングで1位だったものも、8位だったものも、死んでしまえば全部一緒なんですよね。ピカソは「人はどう生きたかが重要だ」って言ってるけど、僕はそうは思わなくて、作品だなと思う。大事なのは作品の生命力。

──ということは、さかいさんは永続的に聴かれる作品を作っているという自信がある?

僕ですか? いや……ないですね。ベストを尽くしてる自分が好きで、自分がいいと思うものしか作れないから。それでいいかなって。もちろんそれで評価されればものすごいうれしいですけど。

──そうか。不思議な感覚ですね。

結局100年経つと風化されて何もなくなるから、作品しか残んないなと思うんですよ。だからやっぱり作品が大事で、物を……ちゃんとした物を作ろうってずっと思ってます。そのときのベストを尽くすこと。それはずっと変わってないですね。

ゴールはない

──毎回ベストを尽くして作品を作り続けるモチベーションってどこにあるんでしょうか?

こうやってメジャーデビューさせてもらって、CDを売ろうと思う一番のモチベーションは、いいスタジオを使いたいとか、レコーディングにお金をかけてもらいたいとか、そういうことだったりします。一度お金をかけても、そこそこ結果出さないと次にかけてくれなくなっちゃうから。まあ僕は、キャリアから見ればけっこうお金をかけてくれていると思います。それは、周りの人たちがクリエイティブなものに対するリスペクトがあるからで。

さかいゆう

──すごく幸せな環境だと。でも、曲を作る、売る、さらにいいスタジオでいい機材を使えるようになる、また曲を作る、というターンを繰り返していくわけですよね。

ゴールはないです。きっと、いいスタジオでできて、機材もそろって素晴らしいエンジニアもいてってなると、それはそれで何か別の欲求が出てくるんじゃないかな。結局僕は3カ月ぐらい先のことしか見通せないので、目の前のものに対してがんばるしかない。ただ、他のミュージシャンとやる場合はもうやってみないとわかんないんですよ。やってみないとわかんないことをやってるって、けっこうドキドキもんですけどね。

──その点、今作で言えば気心知れた人たちとだから信頼できる?

うーん。でもね、毎回、うまくいく自信は全然ないですよ。うまいミュージシャンとか気心の知れた人を呼んだって「あれっ?」っていう経験、今までありますからね。さらに、こっち側が「いい」と思っても、みんなが好いてくれるような曲かどうかは出すまでわかんないじゃないですか。僕はわかんないんですよ(笑)。「これ売れそう」とか思って売れなかったもの、今までたくさんあるから。

──そうですか。

だからその点においては自分の目は節穴だと思ってますね。売れるかどうかわからないけど、自分の中で“いい”ものを作ろうって思ってます。

世界ツアーやりますよ!

──そんな作品至上主義のさかいさんが前々から言っていることで、「僕の歌は歌いづらいって言われるから、みんなが口ずさめる曲を作りたい」というのがあります。その目標は達成できそうですか?

できないですね。

──え(笑)。

今回も無理だと思う(笑)。

──それは残念。

うん。まあ、半分ポーズで言ってるとこもあるんですけどね。憧れだから。

──でもやっぱり大ヒット曲を出してほしいし、生み出す技量と才能は備わっているんじゃないかと思います。

もっとね、自分の夢は低かったんですよ。音楽でごはん食べていければよかったし、10年前とかは「このバイトもう辞めたいわー」って思ってたから、それは達成できてる。僕、人よりデビューしたのも遅いし、いろいろなことに気付くのも遅いから、ゆっくりやっていければと思いますね。世間の評価やヒットしたかはあくまで世の中が決めることだなと思うんですよ。だって僕らはいつもベストを尽くしてるじゃないですか。毎回最高だと思ってる。

──じゃあ今後の作品も、さかいさん自身の中でそのときベストだって決めたものしか届かない。その点は安心して聴いていいということですよね。

そうですね。もっと面白いこと言いたいですけどね。

──いや、わざわざアーティスティックなことを言う必要はないし、大丈夫ですよ。

大きいこと言ったほうがいい? 世界ツアーは、やりたいというよりやりますけどね。

──おおー(笑)。

40……はすぎてると思いますけど、世界ツアー僕やりますよ!

さかいゆう
ミニアルバム「サマーアゲインEP」/ 2014年9月3日発売 / 1500円 / アリオラジャパン / AUCL-166
収録曲
  1. サマーアゲイン
  2. あの夏の僕にグッバイ
  3. Headphone Girl
  4. 時季(とき)は巡る(Remix at big turtle STUDIOS)
  5. 薔薇とローズ(Remix at big turtle STUDIOS)
  6. サマーアゲイン(backing track)
ライブ情報
さかいゆう TOUR ONLY YU #4
  • 2014年9月13日(土)沖縄県 桜坂劇場 ホールB
  • 2014年9月20日(土)栃木県 悠日カフェ
  • 2014年9月24日(水) 北海道島田音楽堂
  • 2014年9月29日(月)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2014年9月30日(火)三重県 M'AXA
  • 2014年10月2日(木)滋賀県 SHIGA U★STONE
  • 2014年10月3日(金)愛媛県 松山キティホール
  • 2014年10月5日(日)熊本県 CIB
  • 2014年10月7日(火)岡山県 MO:GLA
  • 2014年10月14日(火)福島県 創空間 富や蔵
さかいゆう 5th Anniversary SPECIAL LIVE
  • 2014年11月20日(木)大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
  • 2014年11月22日(土)東京都 中野サンプラザホール
さかいゆう

さかいゆう

高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え厚く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2014年1月には3rdアルバム「Coming Up Roses」をリリースし、その後全国ツアーファイナルで渋谷公会堂ワンマンライブを成功に収めた。同年9月にミニアルバム「サマーアゲインEP」を発表。10月に全国公開される音楽ドキュメンタリー映画「LOVE SESSION」にはレーベルメイトであるOKAMOTO'Sとともに出演し、RIP SLYME、島袋寛子、Crystal Kay、吉田美奈子とのセッションを繰り広げている。