ナタリー PowerPush - さかいゆう×横山剣(クレイジーケンバンド)
“歌”についての語らい
いろんな地域性を感じながらゾクゾクするのが好き
さかい 剣さんはアメリカっぽいですよね。なんか土地が広い感じする(笑)。イギリスじゃないですよね。
横山 そうですね。まあイギリスも好きなんだけど、アメリカ仕様のイギリス車とか、フランス映画で見るアメ車とか、結局アメリカが入ったものが好きですね。
さかい じゃあアメリカを基調としてるんですね、かなり。
横山 まあ大雑把にはそうです。だから韓国とか中国とかアジアも好きですけど、アメリカの中のコリアンタウンとかチャイナタウンが好きで。あとリトルトーキョーや、チカーノが住んでる一帯とか。余計濃くなるんで。そこのいろんな地域性を感じながらゾクゾクするのが好きですね。
さかい あれはどうですか? アメリカの音楽に影響を受けたイギリスの音楽。
横山 ああ、IncognitoとかThe Brand New Heaviesとか。
さかい はい。リズムアレンジひとつ取ってもアメリカとイギリスでは違いますよね。アメリカの音楽はキックとスネアだけが大事っていうくらいドンッて行くんだけど、イギリスはちょっとアレンジに凝るというか。剣さんはどちらかというとアメリカの音楽が好きなのかなと思ったんですけど。
横山 どっちのスタンスも好きですよ。好きなのは、アメリカ期、イギリス期、アジア期、あと黒人期、白人期とか……傾倒する時期がいろいろ巡って来るんで自分でもわからないですねえ。
さかい いろいろあるんですか。でも隔たりがないのが一番いいですね。だからやっぱりこぶしが効いてて、ハーモニーから土の匂いもちゃんとして。あ、でもあまりにも田舎臭すぎる音楽はどうですか? 僕はけっこう好きなんですけど。The Metersとか。
横山 The Metersですか。コード進行的に、テンションがないっていうだけでちょっと聴かなくなっちゃったときもありました。セブンスばっかりだとやっぱりどうしても。
さかい ああ、なるほど。リフとかよりもコードと歌のメロディとのハーモナイズ。そこはやっぱり横浜の人らしいですね。
横山 そうですか(笑)。
さかい そう思います。僕ね、田舎っぽい音楽もノスタルジーを感じて好きなんですけど、上京して東京とか横浜近辺の町並みを見て、ビルにはやっぱりメジャーセブンスとかマイナーナインスのハーモニーが合うと思ったんですよね。で、ニューヨークまで行くと、その組み合わせがもっと転調したり、最近だとロバート・グラスパーとか、音の調が合ってないぐらい変わってて。だから環境と音の嗜好は絶対あると思うんですね。それで言うと剣さんはやっぱり田舎の人ではないですよね。すごい正直な方だなって。
小学5年で中古レコードの実演販売
さかい 今回は、剣さんが今の歌い方になるまでの紆余曲折というか、ルーツを聞きたいですね。
横山 小学5年のときに、同級生のお父さんの植木屋で働いてたんですが、途中で中古レコードの実演販売に移籍したんですよ。
さかい あははは(笑)。
横山 近所の豆腐屋の軒先にサウンドシステムがあって、親父さんがエコーを飛ばしながら啖呵売ってっていうんですか? 寅さんみたいにやっていたんですね。で、寅さんの世界では、ストリートカルチャーの共通点である“韻を踏む”っていうことをしていたので、僕もマイクを奪ってやってみたんです。そしたら「おまえ働け」ってなって。それがルーツですかね。
さかい すごい。本当にストリート上がりなんですね(笑)。その当時好きだった歌手とかはいるんですか?
横山 麻丘めぐみっていう女性アイドルがいて。その人のプロダクションは、和音の積みがなんともほかとは違うんですよ。それが筒美京平だとわかって、京平さんのコードの特徴を勉強しましたね。トップノートは変わらず下だけ動かすジャジーなピアノのフレーズとか、自分で鍵盤で音を取ってみて。譜面は読めないんですけどね。
さかい 僕もそうですね。
横山 同じ独学ですよね。
さかい けっこう聞き取れる耳で、そこらへんは助かってるんですけど。
横山 それは一番いいですね。
さかい ……あれ? でもそれが小学5、6年のとき? 早熟すぎるでしょ(笑)。
横山 ははは(笑)。なんでかわからないけど、なんか音が違うなってわかったのはその頃ですね。で、あとからだんだん音楽的に理屈がわかってきて。
さかい ああ、でも本当なんでしょうね。子供でも耳は変わらないから。
横山 だから自分で歌いたいよりも、作曲家になりたかったんですね。作曲家になればきっと葉山とか逗子にでっかい豪邸を建てられると思っていたんです。京平さんの豪邸があったから(笑)。
さかい なるほど。若くしていい感じにスケベ根性がちゃんとあったんですね(笑)。
横山 そうですね。やっぱりマニー(Money)をね。
さかい 素晴らしいですね(笑)。
クリエイティビティとビジネスのバランス
横山 さかいさんの発言の端々にも、クインシー・ジョーンズと同じで、クリエイティビティとビジネスのバランスっていうのを非常に感じますけどね。音楽の繊細さとは反対に、そこはむしろワイルドで、したたかで。
さかい それは絶対大事だと思います。バッハだって、モーツァルトだって、レオナルド・ダ・ヴィンチだって一緒ですからね。自分から作ろうと思って作ったわけじゃなくって、王様に命令されて作ったものばかりなんですから。きっと家族なんかの前ではアドリブで好きに弾いてただろうけど、商品になるときはやっぱり考えていたと思います。たぶんノーギャラだったらやってないから、バッハも(笑)。
横山 そうですよね。ある条件の中でいいものを作るっていうことが、個性になったり、アイデアの見せどころになったり。そういう意味ではポップフィールド、あえて自由すぎないようにやったほうが個体の差が絶対出ると思うんですよね。
さかい 60年代にフリージャズの波があったけど、やっぱり商業的には成功してないですからね。あとサイケデリックに行きすぎても、これについてこれるのは一部の人だけだと。それでもっとみんなも踊れるファンクになったりして。だから僕は、ビジネスとクリエイティビティの2つを両立できる立場にいるのを自覚して、恥ずかしがらずにそれをやっていこうと思いますね。
横山 それを言えちゃうのがカッコいいですね。みんなキレイ事言うけど、そうやってバーンと言っちゃうほうがむしろ清らかに思います。淀んでない感じ。
さかい 剣さんはそのへんのバランスどうなんですか?
横山 僕はCMを観て、CMをやってる会社に「どうやったらそのCMに曲使ってもらえるんですか?」って電話したんですよ。中2か中3のときに。それで「代理店に聞いてください」って言われて、電通やら博報堂に電話して「すみません、どうやったら就職できますか?」とかね。もうハナから商業音楽をやりたかったんですよね。さかいさんのように、自由の限られた中でアイデアを出すことこそが面白い。
さかい そうですよ。だって最初から自由だったら、ダニー・ハサウェイの「Someday We'll All Be Free」(邦題:いつか自由に)もない。自由がないから自由を叫んでるわけで、もともと鳥だったらあんなこと言ってないわけだから。
横山 抑圧されることから生まれるものもあるんですよね。
- 3rdアルバム「Coming Up Roses」/ 2013年1月15日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤[CD+DVD] 3990円 / AUCL-146~71
- 通常盤[CD] 3059円 / AUCL-148
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収録曲
- She left(作詞・作曲・編曲:さかいゆう)
- 薔薇とローズ(作詞・作曲・編曲:さかいゆう)
- Life is feat. Emi Meyer(作詞:さかいゆう、Emi Meyer / 作曲・編曲:さかいゆう)
- きみなんだ(作詞・作曲・編曲:さかいゆう)
- EMERGENCY(作詞:横山剣 / 作曲・編曲:さかいゆう)
- オトコFACE feat. KREVA(作詞・作曲:さかいゆう、KREVA / 編曲:さかいゆう)
- 愛するケダモノ(作詞・作曲・編曲:さかいゆう)
- キミのいない食卓(作詞:谷穂ちろる / 作曲・編曲:さかいゆう)
- イバラの棘(作詞:岡本定義 / 作曲・編曲:さかいゆう)
- ピエロチック feat. 秦 基博(作詞:さかいゆう、秦基博 / 作曲・編曲:さかいゆう)
- 僕たちの不確かな前途(作詞:森雪之丞 / 作曲・編曲:さかいゆう)
- 時季(とき)は巡る(作詞:谷穂ちろる / 作曲・編曲:さかいゆう)
初回限定盤DVD収録内容
「Sakai Yu Best of Clips」- ストーリー
- まなざし☆デイドリーム
- train
- Room
- AHEAD
- 君と僕の挽歌
- 僕たちの不確かな前途
- 薔薇とローズ
- ピエロチェック feat. 秦 基博(Shooting the Recording Session on 2013.8.19)
- さかいゆう TOUR2014 "Coming Up Roses"
- 2014年4月10日(木)
宮城県 darwin
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2014年4月12日(土)
北海道 札幌KRAPS HALL
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2014年4月22日(火)
福岡県 福岡DRUM Be-1
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2014年4月24日(木)
愛知県 APOLLO BASE
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2014年4月25日(金)
大阪府 サンケイブリーゼ
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2014年4月27日(日)
高知県 X-pt.
OPEN 17:00 / START 17:30
- さかいゆう TOUR2014 "Coming Up Roses" SPECIAL
- 2014年6月15日(日)
東京都 渋谷公会堂
OPEN 17:30 / START 18:00
※ゲストあり
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え厚く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2014年1月には、シングル「僕たちの不確かな前途」「薔薇とローズ」を含む3rdアルバム「Coming Up Roses」をリリース。4月からは全国ツアー「さかいゆう TOUR2014 "Coming Up Roses"」を行う。
横山剣(よこやまけん)
1960年横浜生まれ。クレイジーケンバンドのリーダーで、作曲、編曲、作詞、キーボード、ボーカルを担当。小学校低学年の頃より「脳内にメロディーが鳴り出し」独学でピアノを弾き作曲を始める。中学2年生でバンド活動を開始して以来、地元横浜を中心に数多くのバンドで活躍し、1981年にはクールスRCのコンポーザー兼ボーカルとしてデビューを果たした。以後、ダックテイルズ、ZAZOU、CK'Sなどのバンドを経て、1997年春にクレイジーケンバンドを発足。作曲家としては、堺正章、和田アキ子、藤井フミヤ、SMAP、TOKIO、関ジャニ∞、一青窈、グループ魂、ジェロほか数多くのアーティストに楽曲を提供している。さらにm-flo、RHYMESTER、MIGHTY CROWN FAMILYらとジャンルの壁を超越したコラボレーションを実現するなど、その音楽活動は多岐にわたる。2009年にはユニバーサルミュージック・ジャパン内に新レーベル「ダブルジョイインターナショナル」を設立。2013年5月にはクレイジーケンバンドの14thアルバム「FLYING SAUCER」を発表した。