ナタリー PowerPush - さかいゆう
新作「How's it going?」に込めた 生きることへの思いと友情
「みんなは何を考えてんのかな?」
──そしてこの「~挽歌」が書けてからは、ほかの曲も出てきたわけですか。
そっからはもう、いろいろ出てきましたね。まあ今回、僕が歌詞を書いてるのは何曲かしかないんですけど、いろんな人に助けられて。ぜひ僕以外の人の言葉を歌ってみたいということで。
──あえて言葉を他者に委ねてみたと。それがこのタイミングになったのはなぜです?
「みんなは何を考えてんのかな?」と思ったんですね。だから知ってる人にしかオファーしてないですし。あ、森(雪之丞)さんは、ちょっとチャレンジングでしたけどね。僕の青春の「ドラゴンボールZ」を書いたお方ですから。
──そうですね。同じ森さんの歌詞でも、「ペテン師と臆病者」はともかく、「サンバ☆エロティカ」は、さかいくんにしてはちょっと……。
若干のチャラさがありますね(笑)。僕、実は森さんのことは詳しくは知らなくて、どういう方なのかはあとで知ったんです。ただ、うちの社長が森さんとすごく仲良くて。僕は僕で(今西)太一さんとか、ふかわりょうさん、小谷美紗子さんとかにオファーしたんですけど、せっかくだったら僕の知らない人にも書いてもらいたいなと思って。それでいろいろ考えた中で、やっぱり森さんに頼んでみようと思ったんです。
──先程の「みんなは何を考えてるのかな?」というのには、震災のこともあるんでしょうか。
そうですね。僕が書いても、たぶん「~挽歌」みたいな曲ばっかりになるなあって。ちょっとそんな気になりまして。
──うん、さかいくんが書いた「もしも あの朝に…」も、やっぱりそこにつながってますよね。
うんうん、これは震災にもつながる曲だったりしますけど。でも、別にそうじゃなくても、いいし。
──そう、違うふうにも取れますね。歌詞をオファーするときには、それぞれの人に何か伝えました?
「今思ってることを書いてほしい」ということと、「べつにメッセージソングじゃなくてもいいよ」ということは伝えました。で、中にはメッセージソングの人もいるし、森さんみたいな仕上がりになったものもある、という感じですね。
軽い曲も重い曲も含めてテーマは「生きていくこと」
──ふかわさんも、いい詞を書いてますね。
そうですね。ふかわさんは今思ってること、それも大きな意味でのLOVEみたいなものしか書かない人なんです。それはROCKETMANでもそうなんですけど、すごく大きなテーマが好きなんですよね。ふかわさんの根底にあるものは、いい意味で、すごくベタに人のことが大好きだということだと思います。お笑いでは微妙なニュアンスを表現しているけど、元々持ってるハートは、この曲にあるようなピカピカなんだと思いますね。だから多分根暗じゃないと思いますよ。すごい真っすぐで、悲しいことがあると人の前でも泣ける、みたいな。そういう人だと思います。
──アルバムでは、一番最後の3曲がすごく残るんですよ。今西さんの「されど僕らの日々」、それに「~挽歌」と、小谷さんの「パズル」。
ああ、重いですね(笑)。3曲とも。その理由は、この3曲を最初のほうに持ってきたら空気感が合わなくなるからなんですけど(笑)。最初のほうは文体とか肌触りが明るい感じの曲が続いて。後ろに重い曲を持ってきたっていうことです。
──どちらかというと、曲調でこの並びになったと。ただ、この3曲とも生きること、人間が生きていくことがテーマになっていますよね。
そうですよね。でも僕は、今までもずっと、それをテーマに書いてきたと思います。軽い曲も重い曲も含めて。それに僕が好きなミュージシャンは、そういう歌を書いている人だし。だから似てきますよね。「されど僕らの日々」なんて、僕が書いてもおかしくないような曲ですからね。
──わかります。ただ、それだけじゃないと思うんですよ。なぜ似たのだと思います?
多分書いてくれる人が「さかいゆう」を意識してくれているからでしょうね。僕の性格も知ってると思うし……ということじゃないでしょうか。本当は思いっきりブチ壊してほしい! という意味も込めて依頼したんですけど、僕のことを深くは知らない森さんが書いてくださった歌詞のほうが化学反応は起きてますよね。でも「されど~」や「パズル」はすごく自分の気持ちを歌ってくれてる、描いてくれてる。そんな気がしますね。
“自分教”に助けられてる
──ちょっと大きな視点での質問なんですが、さかいくんがこのアルバムの制作を通じて発見したこと、気付いたことって、どんなことです?
うーん、何だろう……生と死については自分の中で決着がついてるのかな、ということですね。だから音楽なんでしょうね。自分の中の神様は。
──それはどういう意味ですか?
「~挽歌」も、それから「LOVE & LIVE LETTER」という曲も、ある種“自分教”みたいなところがあるんです。さっきも言いましたけど、「寂しさがあるのは生きてる証拠なんだよ」と勝手に思い込んでいるおかげで自分は死なずにいられる、みたいなところがあるんですよ。おかげで死なずにいる方法を知ってるんだな、と。だから音楽に助けられてる、自分の書く歌詞に助けられてるなと思いますね。僕、自分が音楽も何も作ってなかったとしたら、けっこうキツいだろうなと思います。
──そうなんですか? もしそうだったとしたら、どうなってたと思います?
うーん、何らかの支えが必要でしょうね。それは、たとえば宗教でも、坊さんの説教でも、親やおばあちゃんからの言葉でも、なんだっていいと思うけど。つまり音楽はそれだけのものになりうるな、と思ってるんです。
──人を支えるようなものに。
そう。音楽って、すごくいろんな人が聴くから、好き勝手に歌っていいものかもしんないですけど。ただ、内容は好き勝手でも、自分が思ったことを魂込めて、責任持って書かないと絶対にいけないなって、さらに思うようになりましたね。言葉により焦点を当てて書かないとな、と。だって曲はいろんな人に届きますからね。とくに今回のようにパーソナルな曲を歌うと……人の生きる死ぬって、すごくセンシティブな問題ですから。
──そうですよね。その死生観についての自覚は、このアルバムに出てると思いますよ。
出てたらうれしいですね。音楽は、いつも自分が思ってることより曖昧なんです。だって、思ってることを全部は表せないですからね(笑)。でも作品として、すごくいいアルバムになったと思います。とくに「~挽歌」と「LOVE & ~」のリリックは今までの僕の曲の中では最高傑作ですね。一番「ああ、これこれ! これだったんだよな」というものが書けました。そのぶん「これ(=歌を歌っていくこと)は大変だなあ」と、より思いましたけどね。
CD収録曲
- Intro
- Jammin'
- パスポート
- LOVE & LIVE LETTER
- もしも あの朝に…
- Lalalai
- ペテン師と臆病者
- How Beautiful ~English ver.~
- サンバ☆エロティカ
- されど僕らの日々
- 君と僕の挽歌 ~Album ver.~
- パズル
初回限定盤DVD収録内容
「さかいゆう Live in New York 2011」
- 上を向いて歩こう
- ROCK WITH YOU
(カバー / Original:Michael Jackson) - Train
- 故郷(ふるさと)
他 New Yorkでのインタビューやドキュメンタリー映像も収録
LIVE INFORMATION
さかいゆうTOUR 2012
"How's it going?"
- 2012年5月23日(水)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月26日(土)
福岡県 福岡DRUM SON
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月27日(日)
高知県 高知X-pt.
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月29日(火)
大阪府 心斎橋JANUS
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月31日(木)
宮城県 仙台MACANA
OPEN 18:00 / START 18:30 - 2012年6月3日(日)
東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN 17:00 / START 17:30 - 2012年6月6日(水)
北海道 札幌cube garden
OPEN 18:00 / START 18:30
Office Augusta 20th Anniversary
「Augusta Camp 2012 in YOKOHAMA」
- 2012年8月4日(土)~ 5日(日)
神奈川県 横浜赤レンガパーク野外特設ステージ
OPEN 12:00 / START 14:00 / END 20:30(予定) - <出演者>
杏子 / 山崎まさよし / COIL(※佐藤洋介は病気療養中の為欠席)/ 元ちとせ / あらきゆうこ / スキマスイッチ / 長澤知之 / 秦 基博 / さかいゆう
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2006年に発表したミニアルバム「ZAMANNA」がFMチャートの上位を記録したほか、収録曲の「Midnight U…」がiTunes Storeの「今週のシングル」に選出され好評を博す。2008年1月にフルアルバム「YU, SAKAI」を発表し、2009年10月にシングル「ストーリー」で満を持してメジャーデビュー。胸に打ち響く歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え熱く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2012年5月23日にメジャー通算2枚目となるフルアルバム「How's it going?」をリリース。