ナタリー PowerPush - さかいゆう
ストーリーはここからはじまる 世界基準の高純度ポップス「Yes!!」
1千億円持っててもカレー
──ソロシンガーの中には、アレンジにそこまで深入りしない人もいれば、1から10まで全部自分でという人まで、さまざまなタイプがいると思います。さかいさんはアレンジにも細かいところまでこだわっている印象があるのですが、実際はどうですか?
うーん、そこは状況に任せてますね。今は自分で細かくやってるけど、絶対そうじゃないとダメっていうわけじゃないですよ。
──ものすごくこだわりのある人なのかなと思ってたんですけど、そんなことはない?
音に対する責任感はすごくあります。自分の作る音に関しては。でもその方法は、そのときどきの状況だったりするから、自分が全部やればいいというわけじゃない、という時期も来るんだろうなって思ってます。
──メジャーレーベルからの1stアルバムを作り上げた今、これからどういう姿勢でやっていこう、という指針は見えていますか? 今までの話を聞くかぎりでは、これからの流れによってどんどん変わっていくのかなと思いますが。
ちゃんと進化していきたいですね、常に。多くの人に聴いてもらえるってのは望ましいことですから、やっぱり励みにもなるし。ゴッホみたいにね、1枚しか売れなくて死んでから評価されるっていう人もいますけど、表現する側からすると、それってちょっと不幸ですよね。生きてる間は辛いっスもんね。そりゃ生きてるかぎりはピカソのほうがうれしいに決まってますけど、そんなことまで考えてられないですからね(笑)。だから、しっかり1個1個生み落としますよ。進化したものを。
──例えばこの先ものすごく売れて、自分でもよくわかんないぐらいの状況に立たされたとしても、気持ちはブレないと思いますか?
今、急に1千億円が自分の手元に入ったら、今と同じことしてるかってことですよね? ……同じことしてますね。カレー食って(笑)。
──1千億円持っててもカレー(笑)。
あと、僕がやろうとしてることはお金がいくらあっても足りないことだから。お金がもし何十億も何百億も入ったところで、その使い道はもう決まってるんですよ、僕。自分のレコーディング環境を整えるために相当な額が必要になってくるから。でも整えらんなくても、それはそれで楽しいんですよ。だからあんまりお金でグジャっとなるのは想像できないですね。
──「大スターの生活」みたいなのものとは無縁そうな感じですもんね。
オフィスオーガスタの先輩たちだって、フツーの人ですからね、みんな。
──あー、そうですね。オーガスタのみなさんはいわゆる“人気アーティスト”ばっかりなのに、良い意味でフツーのお兄ちゃんお姉ちゃんというか。
ホントに人としてバランスが取れてる人たちばかりですね。
──そう考えると不思議な集まりだけど、そこにさかいさんが入るのはすごく自然な感じがしますね。
“類友”なんじゃないですかね。卓弥さん(大橋卓弥/スキマスイッチ)は「ミュージシャンになったら一瞬で億万長者になるかな」って思ってたんですって。でも現実は全然違ってて、ショックを受けたって(笑)。でもみんなすごく楽しんでるし、そういう先輩が身近にいるから自分も勉強になります。
──今後はさかいさん自身の楽曲で、オーガスタのみなさんと一緒にプレイする機会もあるんじゃないでしょうか。
あるでしょうね。飲みながら「こういうのやりたいね」って話してそのままやっちゃうこともあるでしょうし。そういうクリエイティブレベルでつながれる人たちだし、何よりも、ここに入る前から尊敬している人たちですからね。山崎まさよし、スガ シカオ、スキマスイッチ……みんなのCDを僕は買ってたんですけど、それを伝えてもみんな信用してくれないんスよ(笑)。試聴機でスキマスイッチの1stを聴いて「お、ヤベェじゃん」って(笑)。んで買って友達にも聴かせて「これヤバくない?」って言ってたってことを、未だに信じてもらえないですから。「さかいは虚言癖がある」とか言われる(笑)。でも、そうやってリスペクトできる先輩が身近にいるってのは幸せなことですね。うん。
「土佐の猛犬」ですから
──ここまで話をお聞きして感じたのですが……どうも努力の影が見えないというか(笑)、ものすごく軽々と才能を発揮してるような感じがするんですよ。この異常に美しいメロディと歌声はどこから生まれてくるのだろう、っていう。
だから先ほど申し上げたとおり、バカなんですよ(笑)。実際。
──でも、ただ単にスコーンと抜けた“バカ”の一瞬のひらめきだけでは、それを1つの曲として組み立てるのってきっと困難だと思うんですよ。どうやってこの1曲1曲の世界観が生まれているのか、話を聞いていて見えてきたような見えてこないような……。
それはレコーディングに来ればわかりますよ(笑)。
──はははは(笑)。実際にどういう作業を経て曲が完成しているのか気になります。
楽しくやってますよ。あんまり煮詰まることないですね。どうしても疲れは出ちゃうんでね、そういうときはすぐ撤収するんですよ。「今日はもうダメだねー」って。
──ある意味芸術家肌ではないというか、煮詰まって何度も紙をクシャクシャ丸めて捨てちゃう昔の文豪みたいな感じではないんでしょうね。そのへんのカラッとした感じ、日本人らしくないところはどこから来てるんでしょう?
どうなんですかね。苦労して作ったもので満足できたものが、今までそんなになくて。それは簡単にできるって意味じゃなくて、できるだけ少ないテイクで、できるだけ茶々が入んない曲のほうが満足できるというか。どうしようかなーって悩みながら弾いてると、タッチに出ちゃいますから。
──自分の作ったものを客観的に見られるタイプ?
客観的に見られるほうだと思います。最初から客観的ですね。こういうメロディができた。やった! けどなんかテンポ遅いなー、こうすると聴きにくいかもしれないなーとか。
──ストレートな言い方をすると“天才”に見えちゃうんですよね。一口に“天才”って言ってしまうのもおかしいですけど、おそらく人がものすごく苦労しそうなところを軽々と飛び越えてるように見えてしまうんですよ。
いや、バカなんじゃないですか(笑)。土佐の猛犬ですから! 僕のことは土佐の猛犬だと思ってください。自由ですよー。噛みついてきますからね。
生活の片隅に置いてほしい、僕の分身
──このインタビューで初めて「さかいゆう」というアーティストを知る人もいるかもしれません。そういう人に自己紹介をする場合、どういうふうに自分のことを伝えますか?
土佐のマルチーズ! アハハハハハハ(笑)。
──こういうインタビューだといろんな方向から話ができますけど、テレビなどのインタビューではよく「このアルバムの魅力をひとことで!」なんてザックリと訊かれますよね。もしも今回のアルバムについてそういうふうに訊かれたら、どう答えます?
なんだろうなぁ、うーん。リリースされたあとは自分の曲というよりも、聴いてくれる人の曲だと思うので「生活の片隅に置いてください」という気持ちですね。でもこの質問って「どう聴いてほしいか」みたいなそういうことなんだよね。えーっと……全力で作った、僕のすべてが詰まったアルバムなので……これ本当に悩んでますマジで。
──ひとことでなんてそうそう言えないですよね。でも今おっしゃった「生活の片隅に」というのは、確かにこのアルバムの性格がすごく表されていると思います。きっとそれってポップスのあるべき姿だと思うんですよね。聴いてる人それぞれの生活に溶け込むもの、というのは。
そうですね。みんなの生活に溶け込めるのかは僕にはわかんないですけど、生活の片隅に置いてほしい、僕の分身って感じですね。でも1曲1曲全部違いますからね、言ってることも。……あ、「ポップス!!」じゃないですか? ひとことで言うと(笑)。「僕の100%を出したポップスなので、聴いてほしいです!!」という感じでどうでしょう?
CD収録曲
- N.A.M.E.
- ストーリー ~album ver.~
- おはようサンシャイン
- ウシミツビト
- ラビリンス
- ↓
- Yeeeeahs!!
- まなざし☆デイドリーム ~album ver.~
- Room
- 週末モーニン
- ティーンエイジャー
- train ~album ver.~
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。
2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。同時期より作曲活動も始める。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2006年に発表したミニアルバム「ZAMANNA」がFMチャートの上位を記録したほか、収録曲の「Midnight U…」がiTunes Storeの「今週のシングル」に選出され好評を博す。2008年1月にフルアルバム「YU, SAKAI」を発表し、2009年10月にシングル「ストーリー」で満を持してメジャーデビュー。
胸に打ち響く歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え熱く支持されている。また客演も多く、これまでにPUSHIM、マボロシ、KREVAなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。