ナタリー PowerPush - さかいゆう

ストーリーはここからはじまる 世界基準の高純度ポップス「Yes!!」

子音文化とシンコペーション

──メジャーデビューシングルの「ストーリー」は今回のアルバムにも入っていますが、最初にこの曲を聴いたとき、本当に大きいショックを受けたんですね。バート・バカラックなどに代表される欧米のポップスに近いものを、表面的な部分でなく、骨格の部分に感じて。日本のポップスの情緒とはかけ離れた音楽というか。

僕の曲は、ビートに対してシンコペーションが多くなっちゃうんですよね、どうしても。カラオケで歌った人からは「歌えない」って苦情がきますけど(笑)、今のところ自分以外の人が歌うことを考えて作ってないから。でもやっぱり、みんなで歌える曲も書きたいですよ。みんなで一緒に歌ったり、人が歌ってくれることによって意味を成す曲も絶対にあるから。

──確かに実際に歌ってみると難解ですけど、基本的な聴こえ方はすごくポップだと思うんですね。

それは僕がサラッと歌ってるからだと思うんですけど……人それぞれのビートの間って、その人それぞれの環境によるものだと思うんですよ。英語をずっと喋ってたら、どうしても子音文化の影響を受けるから、母音文化である日本語とはメロディと歌詞の乗せ方も全然違うし。子音文化の英語圏のほうがシンコペートしやすいんですよ。

──子音文化のシンコペートに日本語を当てることには抵抗はないですか?

やっぱりアレンジを加えないとダメですね。「君」の「K」をちゃんと発音しないとダメだとか、「だ」は「DA」じゃないとここには合わないとか。それは“音(おん)”としてすごく意識します。

──2ndシングルの「まなざし☆デイドリーム」ではそれがより顕著になっているように感じました。さらにポップな印象を受けるのに、メロディラインはますます複雑で。これはちゃんとポップに聴こえるように計算して作ってるんですか?

計算はしてないですね。音のつながりは、やってるうちに勝手に浮かぶ感じです。そんなに難しいわけじゃないですよ、曲を作ること自体は。ただ、それを演奏するみんなに伝えるときが難しいんですよね。レコーディングやライブをするときは自分だけがわかってればいいってわけじゃないので。

“名刺代わりの1枚”ではない

──“メジャーデビューアルバム”を作るにあたって、初めにどういうものをイメージしていましたか?

あー、ないですね、それは。全くゼロですね。無計画。作ったっきり。

──メジャーデビューアルバムって、アーティストにとってのちのち特別なものになると思うんですよね。そこは特に意識しなかった?

あれでしょ? よく言う「名刺代わりの1枚になった」っていう。「全部名刺に決まってんだろ」って僕は思いますけどね(笑)。

──もともと作ってた曲は何曲ぐらい?

50曲ぐらいあって、そこから「どうしようかなぁ。全部アップテンポでもキツイし……こういうのもあるけどどうしよう?」と。そこから選曲していった感じです。

──全体の構成には苦労しましたか?

そこは結構相談して決めましたね。ひとりよがりにならないように。もちろん全曲じっくり聴いてほしいんだけど、それをみんなに望むのは不可能だから。耳休めのために、中盤に「↓」(読み:つなぎのワルツ)という曲を入れたんですけど、別になくてもいいんです(笑)。ただ僕が聴いてて、そこに1回休みを入れたいなって思いまして。

──A面からB面に切り替えるような。

そんな感じです。アルバムを通して聴くと、ちょっとその前の「ラビリンス」はコーラスが厚いから、ここのあとに耳休めがあるといいかなって。

──コーラスといえば、「ストーリー」の発売記念ライブのときに、その場でレコーダーを回して即興でコーラスを重ねるパフォーマンスを見せてくれましたよね。さかいさんの楽曲は結構複雑なコーラスワークが多いと思うんですけど、あのときスイスイと3声を入れてたのがすごく印象的で。

ボーカリストの中でも、コーラスを重ねるのが得意な人と不得意な人がいて、僕はたぶん得意な部類に入るんだと思います。他の音を聴きながら、ちゃんとハモる音で歌うっていう。それってリードボーカルをうまく歌うのとはまた別の作業だったりするから、それはそれで面白いんですよ。

──ボーカリストとしての才能とはまたちょっと別のものになるかもしれないですね。

コーラスを重ねてるときは“ミュージシャン”って感じですね。アンサンブルを全部意識するから。ハモる音とハモんない音ってやっぱあるんですよ。そういうのを聴き分けながら歌う作業なんです。

──自分なりのコーラスに対するこだわりは持ってますか?

うーん……ないですね。曲に必要だから入れてるだけで、必要じゃなかったらできるだけ入れないほうがいい。カオスな要素を入れるためにコーラスを重ねてるときは楽しいっスね。

──さかいさん自身のルーツであるジャズやファンクの先達からの影響をベースにしながら、今の音楽、ヒップホップのようなやんちゃな音楽の要素も取り入れてますよね。

ヒップホップは普段から聴いてるので、どうしてもその要素は出ちゃいますね。でも最近、そんなにクラブに行かなくなったから、ヒップホップ感は如実になくなってます。3年ぐらい前はよくクラブで飲んだりしてたんで、そういうビートも作ってたんですけど。だからある意味、生活に忠実ですね、僕は。普段の生活にモロに影響される。だから、もしのどかな田舎町に住んだら、たぶんエレクトロ的な要素は一切消えると思います。

「みんなもライブやればいいのに」って

──タイトルの「Yes!!」にそのまま表れているように思うんですが、アルバム全体にポジティブな空気が流れていますよね。これはさかいさんの資質なんでしょうか。

うーん、僕に暗い曲を書く才能はないんじゃないかな、たぶん(笑)。暗い曲を聴いたときは、自分とは違う才能を感じますね。得体の知れないものというか。でもハッピーであるかどうかは、僕にとってはそんなに重要なことじゃなくて。「暗い気持ちになるよりはハッピーなほうがいいんじゃないか」ぐらいにしか考えてないですね。「Yes!!」っていう言葉はすごくエネルギーがあって、人に元気を与えられるフレーズだと思ったので、これをタイトルにしました。

──ライブで観たときのさかいさんの印象が、まさにこの「Yes!!」というタイトルの持つ雰囲気に近いものだったんですね。ピアノ1本で切なくてさびしい歌声が響いていても、客席にはすごく幸せなムードがあふれているような。

ライブでは日によって違ったりもしますけどね。その場にいる人の気分や感情で自分の声が反応しちゃうんですけど、ライブはそこが面白い。「ライブってホント、生き物だな」って思いますね。誰かの笑顔が見えると、それに反応して音がブライトなほうに行くし、それに今まで静かだったお客さんが反応して、結果的に盛り上がるっていうのもあるのかもしれない。

──さかいさん自身がすごくライブを楽しんでるのが観ていて伝わってくるんですよね。

うん。だから「みんなもライブやればいいのに」って思いますけどね。

──あはは(笑)。でもその感覚はきっと、実際ステージに立ってみないと見えない景色かもしれないですよね。

歌がうまいとかうまくないとか関係なく。どれだけ自分が心を閉じてるか、開放できてるかっていうバロメーターになりますから。

メジャー1stアルバム「Yes!!」 / 2010年6月23日発売 / 3059円(税込) / Ariora Japan / AUCL-32

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CD収録曲
  1. N.A.M.E.
  2. ストーリー ~album ver.~
  3. おはようサンシャイン
  4. ウシミツビト
  5. ラビリンス
  6. Yeeeeahs!!
  7. まなざし☆デイドリーム ~album ver.~
  8. Room
  9. 週末モーニン
  10. ティーンエイジャー
  11. train ~album ver.~

さかいゆう

さかいゆう

高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。
2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。同時期より作曲活動も始める。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2006年に発表したミニアルバム「ZAMANNA」がFMチャートの上位を記録したほか、収録曲の「Midnight U…」がiTunes Storeの「今週のシングル」に選出され好評を博す。2008年1月にフルアルバム「YU, SAKAI」を発表し、2009年10月にシングル「ストーリー」で満を持してメジャーデビュー。
胸に打ち響く歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え熱く支持されている。また客演も多く、これまでにPUSHIM、マボロシ、KREVAなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。

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