sajou no hanaが12月26日に配信シングル「あめにながす」をリリースする。
sajou no hanaはLiSAやTrySail、三森すずこなどに楽曲提供を行ってきた渡辺翔、ソロアーティストとして活動しながら、ベーシストとしてサポート活動、作家として楽曲提供も行うシンガーソングライターのキタニタツヤ、テレビアニメ「モブサイコ100」のオープニングテーマを歌唱した経歴を持つボーカリストsanaからなる3人組バンドだ。音楽ナタリー初登場となる今回は、メンバー全員へのインタビューを実施。3人にはバンド結成の経緯から、新曲の制作におけるエピソードなどを語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝
“すごい歌を歌う少女”と数年後に邂逅
──sajou no hanaは渡辺さんを中心に結成されたバンドです。まずはバンド結成の経緯から聞かせてください。
渡辺翔 僕は作曲家としてずっと活動していたんですけど、一方でそれとは別に何か面白いことをやりたい、自分でイチから作る音楽をやりたいと思っていて。それをここ何年かで周りの人にずっと話したり相談したりしていたら、所属事務所のスマイルカンパニーの方にsanaちゃんとキタニくんを紹介してもらったというのがざっくりした成り立ちです。
──そのときのお二人の印象は?
渡辺 sanaちゃんに関しては、実は彼女がスマイルカンパニーのボーカルオーディションを受けたときから知っていて、たぶん当時はまだ……。
sana 中学生でした。
渡辺 そのときから「すごい歌を歌うな」と思っていたんですけど、何年か経ってアニメ「モブサイコ100」のオープニングテーマを歌ってるのを聴いて(sanaは2016年にMOB CHOIRのボーカリスト・37名義でデビューした)、「めちゃくちゃ成長してる!」と驚きまして。で、キタニくんに関しては、彼がスマイルカンパニーに作曲家として入ったときに本人のソロ名義の楽曲を聴いて「これはすごい個性だな」と。なんか、作家っぽくないんですよ。
キタニタツヤ どのへんがですか?
渡辺 媚びてないっていうか、こんなに主張が激しい作家は珍しいし、少なくとも僕の中では異質で。まあ、会ってみたら人柄もだいぶ異質だったんですけど(笑)。
キタニ ははは(笑)。
渡辺 作家というよりはむしろアーティスト向きで、かつプロデューサー的な素養もあると思ったので、相乗効果でよいものが作れるんじゃないかなって。
キタニ 翔さんは作家として知名度も才能もある人なんで、誘われたときは「なんか面白そう」と思って二つ返事で乗っかりました。
sana 私は小さい頃から「絶対に歌の道に進みたい」と思っていて、それでスマイルカンパニーのオーディションを受けたんですけど、ずっとソロのシンガーを目指してたんです。だからバンドっていう形態は正直予想外だったんですけど、何事も挑戦だと思って。
キタニくんはアレンジで食いにかかってきてる
──メンバーがそろった時点で、渡辺さんとしてはバンドのビジョンは見えていたんですか?
渡辺 むしろメンバーが決まってから方向性を考えましたね。もともと自分自身に「こういう音楽がやりたいんだ」という強い思いがあったわけじゃなくて、集まった人たちによってどんな音楽が構築できるのかを模索し始めたというか。なおかつ、それを今の音楽のトレンドに寄り添える形で、自分もみんなも「いい」と思える状態でお出しするにはどうしたらいいのか。作曲家としても、僕はわりと自分自身が普段聴けるような曲を作ることを目標にしているので、それはバンドの活動でも変わらないですね。
キタニ 僕としては、翔さんはメロディと歌詞のよさでのし上がってきた人なので、それを自分のサウンドで乗っ取りたいっていうのはありましたね。
渡辺 あはは(笑)。キタニくんはアレンジでマジで食いにかかってきてるよね。実際「食われたな」って思う曲もあるし。
──sanaさんはこのバンドに対して期待したことはありました?
sana 私は、学ばせてもらってばかりです。
渡辺 謙虚だね。彼女は歌に対して常に100%かそれ以上の力で臨んでくれるので、そこを逆に、僕らがセーブさせるみたいな舵取りをやってる感じなんです。だからこちらとしては楽ですよね。つまり100%に届かない人に対して、どうにか届かせるように指示するのって、歌っている当人にとっても辛いじゃないですか。そうじゃなくて、ホントは楽々超えられるけど、あえて留まらせているっていうのが気持ちいいというか、今後もより可能性を残したまま活動できてるのがすごい楽しいですね。もちろん、100%の力が必要なポイントでは存分に出してもらいつつ。
キタニ sanaさんは普段だったら最初からフルパワーで歌う人なんですけど、1stシングルの「星絵」のときは我々が「サビまで待って! サビまで待って!」って(笑)。
渡辺 「そんなに口を開けなくていい! 開けなくていいから!」みたいな感じで(笑)。実は、小学生のsanaちゃんが歌を歌っている動画を見せてもらったことがあって、そのときの抑え気味の歌声がびっくりするぐらいよかったんですよ。それをどうしてもsajou no hanaに取り入れたくなっちゃって。
キタニ sanaさんの隠れてしまっていた引き出しを見つけたわけですよね。
作家モード、アーティストモード
──では、今回の配信シングルについて伺います。表題曲「あめにながす」は渡辺さんの作詞作曲ですが、普段作家として、つまり発注ありきで曲を書くときと、アーティストとして自分のバンドの曲を書くときで違いはありますか?
渡辺 例えば「星絵」はアニメ「天狼 Sirius the Jaeger」のエンディングテーマだったので、作家的な側面を出しながら自分のやりたいことやってたんですけど、この「あめにながす」はバンドを立ち上げたときに書いた楽曲でして。だから実はもう1年ぐらい前に原型はできてたんです。
キタニ 「星絵」に至るまでにいろいろ曲を作っていて、その中の1曲ですよね。たぶん、アレンジ含めて最初に完成までこぎつけた曲じゃなかったかな?
渡辺 そう。だから半ば手探りで、さっき言ったようにsanaちゃんの歌声と、キタニくんのサウンドメイキングに、自分のメロディと歌詞をどう組み合わせればいいものができるのかみたいなことを考えながら、確か2番目に書いた曲ですね。ちなみに最初に書いた曲は突拍子もない、実験的すぎる曲だったので形にはなっていません。いずれにせよ2人のために曲を書くという意味では、作り方としては作家に近い。
キタニ でも、仕事じゃないから我を出せるっていう部分はありません?
渡辺 そうかもね。特に歌詞は、もともと自分自身がそんなに明るい人間ではないし、このバンドにもただ明るいだけの歌詞は似合わないとも思ったんで、わりと素の自分のままというか。やっぱり普段は曲を提供するアーティストさんに合わせて言葉をチョイスするんですけど、「あめにながす」では全然気にせず思うがままに書いちゃいましたね。
キタニ 僕は渡辺翔という作家を「作曲家らしい作曲家」だと思ってたんですけど、「あめにながす」を聴いたときに「アーティストとして曲を書いてきたな」っていう驚きがあって。
渡辺 10年ぐらい作曲家として活動してきて、やっぱり「自分らしさってなんだろう?」みたいなことを考えた時期もあったんですよ。そのとき意外にも、周りの人からは「いや、気にしなくても翔くんらしさ出てるよ」って言われて。それ以来、あんまり自分らしさというものを気にしなくなったんですけど、たぶんsajou no hanaでは普段より色濃く出てるんだろうなって感覚はあります。
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“バンド然としていないバンド”の強み