sajiがニューシングル「ハヅキ」をリリースした。
本作にはテレビアニメ「SHAMAN KING」の第3弾エンディングテーマである表題曲や、ハロウィンソング「Pumpkin Wars!!」、男性目線の失恋ソング「SHE is.」といった毛色の異なる3曲が収録されている。主に10代リスナーに向けて音楽を届けてきたsajiは、それぞれの楽曲にどんなメッセージを込めたのか。「ハヅキ」の制作秘話やバンドのあり方、さらにはプレイヤーを目指す若者たちへの思いも語ってくれた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 入江達也
ユタニがエゴサした結果
──2021年はフルアルバム「populars popless」のリリース、そしてsajiとして2度目のワンマンライブ「saji Live 2021~夜の兎は眠らない~」もあり、かなり精力的に活動されています。まず、8月に開催されたワンマンの手応えはいかがでしたか?
ヨシダタクミ(Vo) 去年のツアー(「saji 1st Tour 2020」)が中止になったことを受けての2年ぶりの有観客ライブだったので、メンバー3人とも、コロナ禍における環境の変化に適応できるのかっていうことが、まずは不安としてあったんですよね。お客さんが声を出せず、席の間隔が空けられている状態で、しかも配信もあるっていう新しい様式のライブをどうやっていけばいいのか、最初はわからなかった。なので、いつも以上にMCの組み立てや演奏の見せ方を事前にきっちりと詰めたんですけど、いざライブが始まってみれば、いい意味で前と変わらずライブができたと思います。配信に関しても、僕やユタニがMCをするときにもギャップは感じなかったですしね。目の前にいる人や、カメラの先にいる人に自分の思いをただ伝えていけばいい。それを今も昔も変わらずできていれば、それでいいのかなと思えました。
──すごくシンプルなことですよね。
ヨシダ そう、そこに変な気負いがあるわけでもなく、僕らは変わらず、ここに居続ければいいんだなって。自分の中で今後何をすべきかが、あのワンマンを通して少し見えた気はしました。ありがたいことに僕らは、このコロナ禍でほかのアーティストさんに比べると大きな影響は受けていないと思うんですよ。コンスタントに作品も出せているし、数々のアニメタイアップもやらせていただけて、皆さんの目に触れる機会は多かったと思う。お客さんも新しい方が増えたし。それなら、自分たちに出会ってくれた人が人生のどこかで疲れたときに、僕らを心の拠りどころにしてくれればいいんじゃないのかなって。そういうことを思いながらライブをやっていました。あと単純に、楽しかったです(笑)。
ユタニシンヤ(G) そうだね(笑)。楽しかった。僕の中でも「ライブのやり方ってどんなんだっけ?」とか、「どうなるんだろう?」という不安がライブをやる前はあったんですけど、やっぱりお客さんを目の前にして、満足してくれている顔やちゃんと受け止めてくれている顔を見ていると、純粋に「楽しいな」と思えました。あと、ライブを終わったあとにめっちゃエゴサしていたんですけど(笑)。
──(笑)。
ユタニ エゴサした感じでも、観てくれた人たちの満足度はすごく高そうだったので、うれしかったですね。
──ヤマザキさんはワンマンを振り返ってみてどうでしたか?
ヤマザキヨシミツ(B) 初心に帰るというか、改めて、デカい音を出す楽しみや喜びを感じることができたライブでした。
──ヤマザキさんにとって、それはすごく大事なことですよね、きっと。
ヤマザキ そうですね(笑)。単純なんです、デカい音を出したら楽しい。
ヨシダ バンドとしては大事なことだよ。
──話は戻りますが、ユタニさんは頻繁にエゴサするんですか?
ユタニ します! MVが公開されたり、何かあったら絶対にしますね。YouTubeにライブの動画も公開されているんですけど、それのコメント欄も毎日チェックしていましたから。
──エゴサという形で世間の声を見てみたときに、気付くことはありますか?
ユタニ コメントで多いのは「タクミさんの歌が素敵」っていうことで、僕のことは全然書いてないです。
一同 (笑)。
昔の自分が好きでいてくれるようなアーティスト
──ずっと一緒にバンドをやられていて、ユタニさんとヤマザキさんは、ヨシダさんの歌に変化を感じたりはしますか?
ヤマザキ 声も変わっていると思うけど、一番変わったなと思うのは、歌詞ですね。なんて言えばいいんだろう……「明るくなった」という言葉ではしっくりこないんだけど、でも、ポジティブな方向に変わっているような感覚はあるんですよね。
ユタニ わかる。なんというか、より包み込むようなものを僕は感じますね。
ヨシダ 2人が言わんとしていることはわかりますよ。自分本位で書いていた歌詞が昔は多かったんです。「自分はこういう人間です」「こういう人間がここにいますよ」っていう。10代の頃はそれが等身大でよかったんですよね。でも、僕はもう30代になるんですけど、自分が伝えたい等身大の思いと10代の頃の自分の思いにはギャップがあるんですよね。僕が今抱えている葛藤は、sajiを聴いてくれている人たちにとっては、もうちょっと先の未来の話だと思う。だとすると、今、僕が等身大の自分を表現することは、僕が意図する音楽の形とはちょっと違うんです。そういう違和感は、ここ数年すごくありました。なので、書く歌詞も変わっていったんだと思いますね。優しくなったと思う。例えば10代の頃って、今よりも夢というものに対して、いい意味で幻想を抱いていたんですよ。将来がはっきりと見えていなかったからこそ、無邪気に夢を追いかけることができたんですよね。でも、今はそうじゃない。だからこそ、どうやって夢を描いていくのかということをより深く考えるようにもなったし。
──ヨシダさんはご自身の実年齢に関わらず、10代のリスナーという存在を意識しながら曲を書き続けているということだと思うのですが、それはなぜなんですか?
ヨシダ すごくシンプルで、10代の頃に出会った音楽は一生好きでいてくれると思うからです。僕もご多分に漏れず、中学高校くらいで出会った音楽がいまだに自分の音楽の好き嫌いの基準なんですよ。もちろん大人になってから好きになった音楽もあるけど、自分の人生までは変えてくれない。だからこそ、僕らの音楽を聴いてくれる人とできるだけ早い時期に出会って、その人にとっての心の支柱になれたらいいなと思って曲を書いているんです。それは、「僕がそうだったから」なんですよね。昔の自分が好きでいてくれるようなアーティストでいたいから、僕は10代のリスナーを意識して楽曲を作っています。
──sajiは、バンド名が変わったり、ドラスティックな変化を遂げながら進んでいるバンドですけど、10代の頃の記憶とか、そのときの衝動を守りながら音楽を続けているんだろうなと思います。変わらないでいるために、変わり続けているというか。
ヨシダ それ、いい言い方ですね(笑)。でも、本当にそうだと思いますよ。どうやって自分たちのやりたいことを続けていくのか、何を守るのかということは、すごく考えるんです。昔は「音楽がやれたらいいな」と思いながら漠然と生きていたし、実際に才能と才覚だけでやっていけた面もあったけど、大人になった今はもう、自分の音楽をどう伝えていくかもちゃんと考えていかなきゃいけなくて。でも、これは“アーティストあるある”なんですけど、ある程度大人になったアーティストが、「俺は有能だから裏方のこともわかっている」なんてことを言い出してしまうと、それはだいたい失敗する(笑)。僕らのような人間は、あくまでも表舞台に立つ人として、どういう姿勢を見せるかが大事ですからね。例えば、頭の中に浮かんだ「今ってこういう曲がウケるよな」というものを表面的に形にしたところで、上滑りするだけなんですよ。長く続けているバンドって、自分たちがやっていることや、それが世間に受け入れられる理由を、ちゃんと言えると思うんですよ。自らの音楽活動を客観視できるかどうか、それが問われるフェーズに僕らも入ったなと、最近思っています。これができるかどうかで、一生の仕事になるかどうかが決まる気がしていますね。
──フルアルバムの「populars popless」というタイトルがとても気になっていたのですが、これはどのような経緯で付けられたんですか?
ヨシダ 今言ったように、新たなフェーズに入ってからは特に、10代の方に届けたいと思って音楽を作っているんです。なので、同世代に共感されるものを目指して作るのは違うし、かと言って「こういうものが売れそうな曲じゃない?」と言ってポピュラーなものを作ろうとしても、そういうのって僕の中では見識が浅い部分なので、届かないんですよ。「大人が思う、高校生の恋愛の歌」みたいな浅はかな曲になってしまう。なので、みんなに愛してもらえる作品を目指しながらも、決して大衆に迎合しているわけではないっていう意味で、否定の「less」を付けたんです。ポップでありながらも、ポップに迎合しているわけではないっていうことですね。
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実はキャラの名前が入ってる