斉藤壮馬インタビュー|新作「my beautiful valentine」で紡ぐ、閉じた世界の物語 (3/3)

「いさな」よりも重たくダークなシューゲイザー

──5曲目の「埋み火」はシューゲイザー調のサウンドが印象的で、歌詞は先ほどコーマック・マッカーシーを想起させるような内容とおっしゃっていましたね。

この曲もわりと素直な歌詞だなと思いますね。こんなはずではなかったのにどんどん自分の思いが燃やし尽くされて灰になってしまうような感覚というか。自分としては本来はこの曲がリード曲だろうなというイメージでした。ただ切り取り方が難しい曲なので、めんどくさいからリードにはしなくていいやって思ったんですけど(笑)。今回の作品の中では一番よく書けた曲だなと思います。

──先ほどライブで「いさな」の演奏が素敵だったとお伝えしましたが、「埋み火」のライブアレンジも楽しみだなと思いました。

ありがとうございます。「いさな」もシューゲイザー感があるんですけど、きれいなシューゲイザー、美しいシューゲイザーだったので、もう少し重たいダークなシューゲイザーをやろうかなと思って作ってみたのが「埋み火」で。僕が行ったときはほぼ録り終わってたんですけど、楽器レコーディングにも立ち会えました。ドラムがカッコよすぎてプロの技を感じましたね。自分のデモをこんなにカッコよく仕上げていただけてうれしかったです。

──楽器はもちろん、ボーカルの重なりも味わい深かったです。

自分の楽曲はボーカルを重ねることが多くて。「埋み火」はシューゲイザーなので、1つの歌声のパワーで押していくというよりは複数の歌声が重なって空間的な演出ができればいいなという考えはありましたね。

──ここまでの5曲はレコーディングに楽器隊の方が参加されていますが、6曲目の「ざくろ」はバンドサウンドから離れた形で。あまり強く歌いすぎないようなボーカルアプローチも印象的でした。

楽曲ごとに合う歌い方が存在すると思っているので、今回も「my beautiful valentine」の中でいろんなボーカルアプローチをしました。「ざくろ」はあまりはっきり歌いすぎると違うと思ったのでそこは意識しましたね。けだるそうな感じというか、退廃的な感じが歌声にも乗ればいいなと。

──ボーカルのアプローチについてはどんなことを意識していますか?

声優として歌わせていただく機会もあるので、そういう場合は可能な限りキャラクターを大事にしつつうまく歌えるようにと思っているんですけど、自分の歌になると、心のどこかで「うまく歌いすぎないほうがカッコいい」みたいな謎のロジックがあって。そことのせめぎ合いはありますけど、基本的には楽曲が一番いい形になるように歌えればと思っています。例えば「ラプソディ・インフェルノ」みたいに感情を乗せてアジテートしていく歌い方もあれば、「ざくろ」は自分が終わっているんだよということを書いているので、歌い上げる必要はないのかなとか。

──「my beautiful valentine」は1曲ごとにそれぞれ主人公がいるような物語性があるので、曲ごとにアプローチが異なると聞いて納得しましたし、声優さんの作品というよりは1人のアーティストが作り上げた作品という印象が強まりました。

そう言っていただけてすごくうれしいです。ありがとうございます。

斉藤壮馬「my beautiful valentine」初回生産限定盤ジャケット

斉藤壮馬「my beautiful valentine」初回生産限定盤ジャケット

各楽曲の魅力が伝わる聴き方

──今回の作品には今までにない新しい試みを盛り込んだとTwitterで投稿されていましたが、それはパッケージのみに収められているシークレットトラック「クドリャフカ」のことですか?

いくつかあって、MVを作るけど自分が出ないことや演奏をしていることもそうですね。でもそのシークレットが一番大きいです。この曲は編曲や演奏まで自分でしているので。編曲したと言うほどの曲ではないですけど、自宅のパソコンで作った音をそのままお渡ししました。歌は録り直してるんですけど。デモ自体はけっこう前に送っていたんです。「my beautiful valentine」の制作スケジュールがタイトになってきて、隠しトラックはどうしようかとみんなで話していたときに、この曲がいいんじゃないかという流れになって。ある意味一番個人的というかミニマルな曲かもしれないですね。

──内省的な感じがしますね。

まさしく。

──「my beautiful valentine」というタイトルと「クドリャフカ」の関連性からしても、この曲まで聴いてこそ作品が完成するというような気がします。

「チョコレート」という言葉も出てきますし、一番バレンタイン要素がありますからね。おそらく「my beautiful valentine」を聴いていただくと、4、5、6曲目で暗くなったという印象を持ってもらえるのかと思うんですけど、そのあとにさらに暗い曲がくるという。今の時代からすると古いかもしれませんけど、やっぱり自分は1つの作品を曲順通りで聴くのがすごく好きだった世代なので、パッケージを手に取ってくださる方には1曲目から7曲目まで曲順通りに聴いてもらえたらうれしいですね。その流れで聴いてもらうと一番各楽曲の魅力が伝わるのではないかなと思っているので。

斉藤壮馬「my beautiful valentine」通常盤ジャケット

斉藤壮馬「my beautiful valentine」通常盤ジャケット

──ありがとうございます。最後に今年の6月にアーティストデビュー5周年を迎えられるということで、今後の展望を教えてください。

本当にいろいろな方に支えていただいて5年間やってこられたので、まずは感謝をお伝えしたいです。今後の展望としてはいろいろ案はあります。情勢がどうなるかはわからないですけど、ライブ関連のこともやれるかもしれないし、ここしばらくは自分で書いた曲を歌ってきたのでそうではない形も面白いのではないか、いろんな方に曲や歌詞を書いていただいて歌ってみるのも面白いんじゃないか、とか。あとはボーカリストの方とコラボしてみるとかもいいですよね。いろいろな展望はあるんですけど、5年目以降はもし叶うのならば世に開かれていくような展開の仕方をしていけたらいいなと思っています。

プロフィール

斉藤壮馬(サイトウソウマ)

4月22日生まれ。山梨県出身。2013年より81プロデュースに所属。2014年に放送されたテレビアニメ「ハイキュー!!」の山口忠役で注目を浴びた。これまでの出演作は「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」(夢野幻太郎役)、「うちタマ?!~うちのタマ知りませんか?~」(岡本タマ役)、「ピアノの森」(一ノ瀬海役)、「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(太刀花ユキノジョウ役)、「アイドリッシュセブン」(九条天役)など。2017年6月にはSACRA MUSICから1stシングル「フィッシュストーリー」でアーティストデビュー。2018年12月には1stアルバム「quantum stranger」をリリースした。2020年12月に2ndアルバム「in bloom」を発売。2021年4月から5月にかけて初のライブツアー「We are in bloom!」を開催した。2022年2月に新作音源「my beautiful valentine」をリリースした。