斉藤壮馬インタビュー|新作「my beautiful valentine」で紡ぐ、閉じた世界の物語 (2/3)

タイアップ、お待ちしています!

──この取材にあたりこれまでリリースされた楽曲を振り返っていてふと思ったのですが、斉藤さんはこれまであまりタイアップ曲を発表されてないですよね。「ヒカリ断ツ雨」(テレビアニメ「活撃 刀剣乱舞」のオープニングテーマ)くらいで。

そうですね。あの曲だけですね。

──きっとレーベルの方がそうしようと思えば、もっとタイアップを増やすこともできたはずではないかと感じていて。そうしないのは、斉藤さんの内から出たものを尊重するためなのではないかと思ったのですがいかがでしょう?

本当にそうで、タイアップをつけずにリリースするってビジネス的に考えたらなかなかないことだと思うんです。言っていただいたように、これまでは「楽曲自体に専念したいです」とSACRA MUSICの方に伝えていたんですが、今回の「my beautiful valentine」で一度そこをやり切ったなと思っていて。閉じた世界を表現したので、次は逆に開かれた表現をしてみたい。普通は自分でタイアップをやりたいと言って簡単に取れるものではまったくないですけど、この先にご縁があったらいいなと。お待ちしています!(笑)

──「ヒカリ断ツ雨」は斉藤さんの作詞作曲ではなかったので、今後タイアップの機会があった際にどんな表現をされるのか楽しみにしています。では「my beautiful valentine」の話に戻って、1曲目の「ラプソディ・インフェルノ」から伺わせてください。TRI4THの織田祐亮さんがトランペット、藤田淳之介さんがサックスで参加されていますね。

この曲はもともとアイリッシュパンク、The Poguesのようなイメージでした。サビで大所帯で歌ったり、間奏でみんなでカズーを吹いていたり。アレンジャーのSakuさんにホーンセクションを入れたいですとお伝えしたらすごく素敵なアレンジをしてくれて。歌詞は、「どんな困難な状況でも笑うことが大事だよ」みたいなことではなくて、「ただこの人たちは地獄で踊っているだけ」というような内容ですね。バンドチックなノリの楽曲で、言っていることは尖っているみたいなことがやれればいいなって。

──楽器隊のレコーディングには立ち会われました?

フルで立ち会うことは難しかったんですけど、さっきお話したカズーのパートとハンドクラップはみんなで録りました。一緒に録れるというのはすごくありがたいことですよね。楽しかった。狭いライブハウスやカフェで大所帯のバンドが演奏しているようなイメージにしたかったので、よりみんなで収録できてよかったですね。

──そのイメージが伝わってくる、グルーヴ感のあるサウンドに仕上がっていますね。2曲目の「ないしょばなし」は、「ちゃっかり」「がっかり」「なったり」など、歌詞の当てはめ方や韻の踏み方が気持ちいいなと感じました。

この楽曲は16ビートのグルーヴがあって、意外と歌詞を書くのが難しかったですね。リズムや聴き心地のよさを重視していきたいんだけど、それだけだとどんどん歌詞の内容が崩壊していってしまうので、そのバランスをどうしようかなと考えていました。レコーディング中も「この歌詞でよかったんだろうか」と思っていたんですけど、できあがった曲を聴いていたらだんだん馴染んできたなという感じがしました。この曲はリズムを楽しんでもらえたらうれしいですね。

──語感を取るか意味を取るかというのは難しいところなんですね。ちなみに普段制作される際は曲先行ですか? 歌詞先行ですか?

今は曲先行が多いですね。

──ではこの「ないしょばなし」も?

そうですね。だからどうってことはないと思うんですけど、曲と歌詞が同時に生まれるのが一番理想的ではありますね。無理がないから。同時に生まれなくても、その歌詞だからそのメロディが生まれるし、そのメロディだからその歌詞が乗るという状態に持っていけるように努力していますけど。たまにあるんですよ。最初から同時にできることが。

──これまでに同時に曲と歌詞が生まれた曲はありますか?

今回の作品にはないかな。今までだと「デート」や「carpool」は同時ですね。「デート」は家から電車に乗ってスタジオに行くまでの間にもう脳内でワンコーラスできてましたね。面白かったです。

斉藤壮馬

白昼夢だからしょうがない

──「(Liminal Space)Daydream」は、タイトルを読むときに括弧の中は読まないんですね。

はい。以前「sunday morning(catastrophe)」という曲を書いて、これも括弧の中を読まないんですけど、ラジオで曲をかけるときに「あれこれ読むんだっけ?」と僕もわからなくなってしまって(笑)。今回は読まないということで!

──“Liminal Space”というのは日本語で言い表すのがなかなか難しい言葉ですよね。この言葉通り不気味というか、サウンドは明るくさわやかな感じなのに歌詞の内容やアウトロは不穏で、相反する印象の曲でした。

白昼夢だからしょうがないですよね(笑)。ラストは非常にこだわって作ったのでそう言っていただけてうれしいです。あるアーティストさんの曲を聴いて、「こういうふうにやってほしいです」とSakuさんにお伝えして。この曲は楽器のレコーディング現場に行きまして、一応僕がリズムギターを弾いています。収録中にラストのところをどうしようかと話していたときに、みんなで「どうすればいいんだろう」と悩んでいて。普段はいただいたものに対してそこまで口を出すほうではなくて、このときもお任せしようかなとしばらくは黙ってたんです。だけど「こういうこだわりがあって」「フェードアウトしてピアノの音だけ残る感じに」とお話ししてやってもらいました。みんなめっちゃ笑ってましたね。「わーこわーい!」みたいな(笑)。歌詞はなんていうか飛んでしまってるような内容だと思いますけど、意外と親切な気がするというか、言ってる通りですよね。「バグってるんだって」と言ってからちゃんとバグっていくみたいな。曲としてはインディポップ的なところを狙っていたので、みんなで演奏できて楽しかったですね。

──普段Sakuさんにアレンジをお願いするときはどんなふうにニュアンスを伝えているんですか? リファレンスを渡しつつ?

そうですね。お渡ししますし、あとはデモの段階である程度詰めています。「(Liminal Space)Daydream」はほぼデモ通りかなと。そういう曲もあれば、Sakuさんが素晴らしいアレンジをしてくださる曲もあって。「ラプソディ・インフェルノ」はデモとはけっこう違いますね。Sakuさんがいつもどの曲も最高のアレンジをしてくれるのでありがたいなと思っています。

──今回の作品はSakuさんが6曲編曲を担当されていますし、お二人がタッグを組まれてるような感じですね。次の「幻日」はストリングスの音色や斉藤さんのハイトーンボイスが美しい楽曲です。制作はどのように進めていきましたか?

最初にイントロのループコードを思い付いて、なんとなく冬みたいなコード進行だなと感じました。「my beautiful valentine」の中では遅めにデモを作った曲なんですけど、そこからはわりとするするとできましたね。この曲から歌詞を書き始めて、1日で歌詞が書けました。丁寧に歌詞を書いていこうと決めて書いた曲で、ちょっとユーミン(松任谷由実)さん、GARNET CROWさん、スピッツさんみたいな音楽をやりたいと思った楽曲です。自分としては今回の作品ではなくてアルバムに入れられたらいいかなくらいの感じだったのですが、SakuさんやSACRA MUSICの方が「これはすごくいい曲だと思う」と言ってくださってうれしかったですね。

──この曲はミュージックビデオを制作予定とのことですが、撮影はまだでしょうか?(取材は1月上旬に実施)

はい。一応どういうふうに撮るかはあらかた決まってるんですけど、たぶんシスターフッド的な物語になると思います。