愛こそすべて!斉藤朱夏がキャリア史上もっとも壮大なテーマ「愛」に向き合ったミニアルバム (2/2)

うれしいことも悲しいことも共有したい

──続く「はんぶんこ」はカントリー調の心温まるような楽曲です。

私の中で、この曲は夕日の情景のイメージがあります。

──帰り道をゆっくりと歩いているような雰囲気がありますね。

幼稚園くらいの小さい子と一緒に、手をつなぎながら歩いているような風景が頭の中にありました。この曲には母性みたいなイメージも含まれていますね。

──「はんぶんこ」が収録されていることによって、ミニアルバムの愛というテーマの幅が広がっていると思います。

そうですね。「はんぶんこ」は恋愛や友情の楽曲とも受け取れるんですけど、個人的には親子愛の楽曲でもあるなと思っているので、世の中のお母さん、お父さんたちにも刺さったらうれしいです。お子さんと一緒に歌ってくれないかなって。最近、お子さんが生まれたというファンの方も増えているので。

──報告を受けたりします?

めちゃめちゃいただきます。この前、SNSで「子供が生まれました。名前を“朱夏”にしました」って赤ちゃんの写真を送ってくださった方がいて。

──へえー!

「朱夏さんみたいな明るく元気な子になってほしくて名前を付けました」と言ってくださったんです。「私でいいの……?」と思いながら、「ありがとうね!」という気持ちでいっぱいになって。そういうパパ、ママになった方々にもこの曲がグッと刺さったらいいなと思います。

──この曲の作詞、作編曲はハヤシケイさんです。資料によると、もともとはレコーディング現場でのスタッフさんの「自分の人生だけを背負って一生すごすのはつらい。同じ1の人生なら自分1人で1の人生より、誰かの人生の2分の1をお互い負担して1の人生を過ごしたい」という発言がきっかけで生まれた曲だそうですね。朱夏さんもその場にいたんですか?

いました! 「そうなんだ……!」と思って。

──その考え方には共感しました?

うーん、これはすごく難しいんです。この曲の歌詞にあるように、もちろんうれしいことや悲しいことは共有したいし、おいしいドーナツを見つけたらはんぶんこしたい。でも「すてきな歌を見つけたから 耳を貸してイヤホン はんぶんこ」というところは、私だったらたぶん曲のURL送っちゃうなって(笑)。

──手っ取り早い(笑)。

「雨ふり 傘を忘れたなら こっちに入りなよ はんぶんこ」というところも、「濡れてない? 大丈夫? もっと入りな!」って気を遣いがちな性格がたぶん出ちゃう。なんだか申し訳ない気持ちになると思うんですよね。だから私はまだ“はんぶんこ”する領域までいけてないんですけど、ライブではみんなと全部を“はんぶんこ”しているなといつも感じています。ステージに立っているときは、自然とそれができるんですよね。みんなとうれしいことも悲しいことも共有したい。

──「君のことを知りたいし、私のことも知ってほしい」と、朱夏さんはファンの方々に言い続けていますよね。

みんなといろんなことを共有できるライブって、すごく特別な瞬間だなって。そう考えると、“はんぶんこ”にするってすごく素敵なことだなと思います。

──この曲では、歌のアプローチについてどんなことを意識しましたか?

「歌のお姉さんみたいな感じで歌ってください」というディレクションがあったので、1つひとつの言葉をはっきり歌うことを意識しました。いつもの自分の歌い方ではなかったので難しかったですね。「愛してしまえば」は壮大な曲ですけど、「はんぶんこ」は隣の人に向けてしゃべっているような距離感の曲で。歌のお姉さんのように言葉の1つひとつを立たせて歌いつつ、「隣にいる人に対して、こんなにはっきりとしゃべるのかな?」と考えたら、「いや、違うよな」と思ったり。そのバランスが難しかったです。歌いながら探っていった楽曲ですね。

歌っていて、主人公を応援しているような感覚がありました

──「伝言愛歌」は目まぐるしい展開で進んでいくポップな恋愛ソングです。好きな人に気持ちを伝えられない女の子の歌で、歌詞はPanさんとハヤシケイさんの共作、作編曲はPanさんというクレジットになっています。

Panさんがデモの時点でワンコーラス分の歌詞を書いていたんですよ。「ちらり ちらり」「ふわり ふわり」とか、歌詞がかわいかったので、このままでいいんじゃないかという話をケイさんとして。そこからケイさんとPanさんの間でちょっと言葉を変えたりして、歌詞ができあがりました。

──個人的にはこの曲の主人公、朱夏さんと重なるなという印象があったんですよね。「ちょっと たんま 無理っぽい やっぱ こんな顔 見せらんない」のような、朱夏さんっぽい言葉遣いがそう思わせるのかもしれません。

そこはケイさんが私の言葉遣いをよく知ってるからこそ出てきた言葉なのかなと。あと、この曲はドタバタ劇みたいな展開がすごくて。私も猛スピードで突き進んで、転んで立ってを繰り返すタイプなので、曲調が自分っぽいなと思いますね。

──同じAメロでも2番はジャズ調になっていて、1番とは全然アレンジが違います。Bメロはファンシーな感じかと思えば、そのままサビで疾走感のあるロックパートに突入という。

たぶんPanさんにも私がドタバタな人に見えているんだと思うんですよ。いろんな音が入っていて、いきなり全然違う雰囲気になるし、「ここで転調するの?」というところもある。だから歌うのは大変でしたね。「この曲、ライブでどうしよう?」って、思わずPanさんにも言っちゃいました(笑)。でも、歌っていてすごく楽しい曲なので、そのこともお伝えしましたね。

──「伝言愛歌」の主人公の女の子にはどういう印象がありますか?

すごく一生懸命ですね。「押してもダメなら 引いてみよう」とか。

──あらゆる手を使う。

すっごいがんばるじゃんって。女の子って恋愛をすると、あんまり積極的なタイプの子じゃなくても、いきなり前に足を踏み出すタイミングがあるんですよ。それって恋の力だなと思うんです。この曲の女の子も、最後には「でも 伝えたい 届けたい ありえないぐらいに 君が好きです」と気持ちを伝えていて。顔を真っ赤にしながら一生懸命気持ちを伝えている様子が頭に浮かぶんです。だから歌っていて、この女の子のことを応援しているような感覚がありました。

──曲の展開が目まぐるしいだけに、レコーディングプランも相当練ったんじゃないでしょうか。

めちゃめちゃ考えましたね。この曲に関しては、演技要素が含まれているというか。「ちくり ちくり」のところはシュンとなる感じで歌いたいとか、自分の中にしっかりとビジョンがあって。「手応えないやいや」とか「すっ転んで あいたたた」のところはちょっとギャグっぽくてもいいのかなと思ったり。

──「誰か助けて」というところで「キャー!」という声が入っていたり、ラブコメ的な雰囲気がありますよね。

ここで「キャー!」って声が入ったら面白いよねという話になって。「鼓動がうるさい」の「うるさい」も最初は普通にメロディが付いていたんですけど、「叫んでみてください」というディレクションがあって、「いいね、これにしよう」と叫ぶ形に決まりました。レコーディング現場で、もうちょっとこうしてみよう、ああしてみようとアイデアが出ることが多かったですね。楽曲の展開がコロコロ変わるので、歌も遊んでいこうという気持ちがありました。

斉藤朱夏

斉藤朱夏

愛ってすごくいろんな形があるんだな

──ミニアルバムの最後を飾る「夏唄」は、1990年代を彷彿とさせる懐メロソングですね。ダブリングの感じが、例えばMy Little Loverのような。

懐かしい雰囲気がありますよね。

──朱夏さん的には、こういったサウンドは新鮮なんでしょうか? それともお母様の影響で自分の世代よりも少し前の曲も聴いているから、わりと聴き馴染みがある?

私としては聴き馴染みがあって、新鮮さよりも懐かしさが大きかったですね。デモを聴いた瞬間に「この感じ、めっちゃいいじゃん! なついね!」と思いました。私は自分の世代よりちょっと前の1990年代や2000年代の曲が好きで。カラオケに行っても、同世代の子たちが歌う曲よりもひと昔前の曲を歌ったりしてるんです。

──夏の海と青空の情景が思い浮かぶような歌詞になっていますが、レコーディングではどういうイメージで歌ったんでしょうか?

自分の夏の思い出を頭に浮かべながら歌っていましたね。小さいときに海に行ってパパと一緒に遊んだな、とか。学生時代のときは海に行ったりプールに行ったりすることがあんまりなくて。

──オーディションやレッスンの日々でしたもんね。

肌を焼いちゃいけないということもあって。そもそもそんなに泳げないというのもあるんですけど(笑)。この曲を聴いたら、リスナーの方々も「こういう思い出があったな」と懐かしい気持ちになるんじゃないかな。

──「君と描く未来は輝いているから」という歌詞など、ファンの人への思いを感じ取れる楽曲です。これまでもファンの方々との関係性を歌った曲はありましたが、一緒に夏を過ごしているような、近い距離感での描き方が新鮮でした。

そうですよね。そこは夏というテーマで歌えたことも大きいなと思っています。私は夏に曲をリリースすることが多いですし、夏にツアーがスタートすることも多くて。毎年みんなとの夏の思い出がどんどん増えていくんですよね。だからこそ「夏」という言葉が入ることによって、みんなとの距離感が近い曲になったと思います。夏が来ると、「朱夏ちゃんの季節が来たね」ってよく言ってくれるんですよ。みんなにとっても、“斉藤朱夏=夏”のイメージはあるんだろうなと感じています。

──人類愛、恋愛、親子愛、そしてファンの人への愛。今回のミニアルバムはいろんな愛にあふれた作品になりました。

愛っていろんな形があるんだなと改めて思いました。もともと自分の中では、愛にはいろんな形があると考えていたし、すべてに対して肯定していく気持ちでいるんですけど、実際に愛を歌うことによって、それがより明確に見えたような気がします。ファンのみんなにも刺さる楽曲がきっとあるんじゃないかな。

──このミニアルバムを携えたライブハウスツアー「愛のやじるし」の準備を行っているところだと思いますが、どのような内容になりそうでしょうか?

基本的にはみんなが歌える曲を詰め込んでいます。だから、私はみんなの体力が心配ですね(笑)。この間までクラップとジャンプだけだったけど、声を出したらより体力が奪われると思うから。夏だし、ライブハウスだし、オールスタンディングだし。みんな、がんばろう!

──体力を付けてきてください、という。

本当にそう。飲み物はしっかり準備してきてほしいです。声出しありになったら、みんなどうやってライブ楽しんでくれるのかなって楽しみですね。みんなで一緒にひとつの空間を作り上げられたらいいなと思っています!

ツアー情報

朱演2023 LIVE HOUSE TOUR「愛のやじるし」

  • 2023年8月16日(水)東京都 Spotify O-EAST
  • 2023年8月18日(金)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2023年8月20日(日)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
  • 2023年9月2日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO 
  • 2023年9月3日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2023年9月8日(金)宮城県 Rensa
  • 2023年9月10日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2023年9月17日(日)神奈川県 KT Zepp Yokohama

プロフィール

斉藤朱夏(サイトウシュカ)

2015年に「ラブライブ!サンシャイン!!」の渡辺曜役で声優デビューし、作中のスクールアイドルグループAqoursのメンバーとしての活動をスタートさせる。2018年11月にはAqoursとしてライブ「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 4th LoveLive! ~Sailing to the Sunshine~」で東京・東京ドームのステージに立ち、12月に「第69回NHK紅白歌合戦」に出演した。2019年8月にミニアルバム「くつひも」でソロアーティストとしてデビュー。2021年8月に1stフルアルバム「パッチワーク」を発表した。8月にアーティスト活動3周年&バースデーシングル「イッパイアッテナ」をリリースし、初の全国ツアーを開催。12月に東京・日本青年館ホールでワンマンライブを行い、2023年2月に4thシングル「僕らはジーニアス」をリリースした。8月に3rdミニアルバム「愛してしまえば」を発表し、ライブハウスツアー「朱演2023 LIVE HOUSE TOUR『愛のやじるし』を行う。FM NACK5で毎週水曜深夜24:30よりレギュラーラジオ番組「斉藤朱夏 しゅかラジ!」が放送中。