斉藤朱夏「イッパイアッテナ」特集|言いたいことがいっぱい!あふれる感情を注いだアーティスト活動3周年シングル (2/3)

自分の思いをちゃんと伝えたいし、どうしてもあきらめたくない

──ちなみにサビの「いざ試行錯誤のコミュニケーション 面倒くさくとも降伏しねえぞ」と最終的にコミュニケーションをあきらめないというところまでメモには書いていたんですか?

いや、メモにはトゲトゲした感情しか書いてなかったです(笑)。

──じゃあサビはケイさんからのメッセージみたいなところもあるのかもしれませんね。

それはあるかもしれないです。この怒りをそのまま楽曲にしてしまったら、たぶんよくないと私自身も感じていましたし。でも、ケイさんのフィルターを通したら柔らかくなるとわかっているからこそ、私は歌詞のプロットでは嘘をつかないんです。

──デビューから3年間ずっとケイさんとタッグを組んできて、信頼があるからこそ。

そうですね。めちゃめちゃ信頼してるし、どんな言葉が書いてあろうがケイさんだったら受け止めてくれると私は思ってるので。3年間一緒に音楽をやり続けているからこそ、こうやって自分が思っていることをちゃんと歌にしてくれるし、さらにそこにケイさんから私へのメッセージもあったり。そういったキャッチボールの中で、聴いてくださる皆さんへのメッセージを楽曲に込めています。

──個人的には、どれだけコミュニケーションの難しさを感じていてもそこであきらめないと歌っているのが朱夏さんらしいなと感じたんです。大人になったら「伝わらなくても言葉ってそういうものだよね。別々の人間だし」とあきらめてしまう人も世の中には多いと思うので。

私、たぶんしつこいんです。やっぱり自分の思いをちゃんと伝えたいし、どうしてもあきらめたくない。「こういうことだからこうなってるんだよ」というのをちゃんと理解してほしい。結局は思いを口にしないことには、伝わらないなと思っていて。

──「喜怒哀楽 余すことなく伝えれりゃいいのに」というフレーズも、常々「私のことを知ってほしいし、君のことを知りたい」と積極的に人とのコミュニケーションを求めてきた朱夏さんの姿勢に重なりました。

でも、このフレーズは、喜怒哀楽がすごく出るようになった今だからこそ歌えるのかもしれない。昔は感情を出すのがけっこう苦手で、泣くのも怒るのも抑えていたので。

──アーティスト活動を始めてからここ数年、朱夏さんが泣いているところをライブなどでよく見るなと。

私、本当はすごく涙腺が緩いんですよね(笑)。Aqoursでいるときは、その中での自分の役割をすごく考えているんです。だから元気で明るい女の子というイメージができたんだろうなって。でも、アーティスト活動を始めてから、自分自身の感情がすごく出るようになったというか。

──先日、Aqoursの東京ドーム公演の最後のMCでも泣いていましたよね。ここでも涙を見せるようになったんだと、ちょっとびっくりしまして(参照:Aqoursが“18人”で立った2度目の東京ドーム、さらなる未来に向けて約束交わす)。

うちのメンバーと「ラブライブ!サンシャイン!!」のスタッフさんも驚いてましたね。「朱夏、どうしたの?」って心配されました(笑)。本当はひと言だけ言って終わりにするつもりだったんです。メンバー9人みんな同じ気持ちだし、私がそれ以上に言っても違うなと思ったから。でも、話しているうちに「やっぱり無理かも」みたいな。あれは私もびっくりしましたね。「あれ? なんか私泣いてない?」って。

──きっとそれは朱夏さんにとっていい変化なんでしょうね。

そうですね。ずっと応援してくれている人は、「ここでも涙を見せてくれたことがうれしかった」と言ってくれて。こういう自分も受け入れてもらえるんだな、というのを改めて知れて、すごくうれしかったです。

斉藤朱夏

ラップだけど、ラップじゃない

──「イッパイアッテナ」はテンポの速いアッパーチューンで、特にたくさん言葉が詰まっているAメロでは、まくし立てるような歌い方をしていますが、レコーディングはいかがでしたか? 資料のケイさんのライナーノーツによると、A、Bメロはメロディを乗せるというよりは、ほぼラップをしながら曲を書いていたとか。

最初にデモを聴いたときはテンポが速すぎてびっくりしましたね。「これ、歌えるのかな?」って。レコーディングをするときも「ラップっぽく歌ってほしいんですけど、ラップではなくて」と難しいことをケイさんに言われて。そこまでメロディに合わせず、気持ちいいところで全部合わせるという。でも、私は最近キャラクターソングでラップを歌うことも多くて、ラップにあまり苦手意識はないんです。「ラブライブ!サンシャイン!!」のチームの方に言われたんですけど、どうやら私のキャラソンのガヤのノリがヒップホップっぽいみたいで。そう言ってもらって、ラップを歌う機会も増えたから、私自身YouTubeとかでラップの曲をよく聴くようになったんです。そういう経験も生かして、「イッパイアッテナ」ではラップだけどラップじゃないという、間のところをうまく探して歌っていきました。ものすごいスピードでいろんな言葉を歌って、なんだかすごくすっきりしましたね。あとこの曲って、歌っていてなんだか元気になれるんです。

──フラストレーションをぶちまけてますけど、曲調的にも歌詞の内容的にもポジティブな形で昇華されていますしね。

メモにはネガティブなことを書いていたんですけど、それを明るく前向きな楽曲にしてもらえてありがたいです。私自身、「あのときはあんなに怒ってたけど、まあなんかどうでもよかったかな?」と思えるようになりました。「イッパイアッテナ」という曲に救われましたね。この曲で新しい自分の一面が聴いてくださる皆さんにもきっと伝わると思うし、今までとはまたちょっと違う感じのライブで遊べる曲が生まれたので、みんなに喜んでもらえたらうれしいです。

──「イッパイアッテナ」というタイトルは、「言いたいことがいっぱいある」というところからきているかと思いますが、「ゼンシンゼンレイ」「セカイノハテ」に続く、カタカナシリーズがまた増えました。

カタカナのタイトル、多いですよね。タイトルは1回ひらがなで書いてみたりカタカナで書いてみたりして、どれが一番しっくりくるのか考えています。「イッパイアッテナ」も1回ひらがなで「いっぱいあってな」にしてみたんですけど、ちょっとおバカな感じがあるかなと思って(笑)。カタカナのカクカクさがいいなと思ったから、「イッパイアッテナ」になりました。

──ちなみに「イッパイアッテナ」にちなんで、この特集を読んでる読者に“言葉で伝えたいこと”はありますか?

えー! 言いたいことかあ。すごくたくさんあるんですけど……みんな、自由にわがままに生きてほしいなって。最近、そう思うことがよくあるんです。世の中の状況もあるとは思うんですけど、その中でももっと自由に羽を広げて、みんな飛び立ったら違う景色が見えてくるのかなと。日本人は特に人に譲ったり、自分の気持ちを言えなかったりっていうのがあるけど、「もっと自由にやらない?」って思いますね。

斉藤朱夏

見えない何かと戦っているときが一番楽しい

──2曲目の「ノーサレンダー」は“戦う女の子”をイメージした楽曲だそうですね。周りから見た朱夏さん姿が反映されているような印象を受けました。

そうですね。「ノーサレンダー」はプロットを渡したわけではなく、ケイさんやスタッフさんから見た私のことが書いてある楽曲です。この曲をもらったとき、私ってこんなふうに見られているんだと思いましたし、ケイさんのライナーノーツに「朱夏さんはプレッシャーや障壁といったものと対峙しているときに輝く方だと思います」と書かれているのを見て、「えっ!」って(笑)。

──でも、ご自身でも思い当たる部分はあるんじゃないでしょうか。

めちゃめちゃあるんですよ。「斉藤朱夏はギリギリになればなるほど本領を発揮するから」ということをよく周りに言われてきたし、それは自分の中でもすごく感じていて。余裕がある自分って、なんだか違和感があるんですよね。ギリギリのときってつらくて「もう無理かもしれない」と思うけど、「どうにかしないといけない」ってそこであふれ出てくるものがあって。結局はギリギリの状況で見えない何かと戦っているときが一番楽しいんです。つらくて、楽しい。「ノーサレンダー」はライブやレコーディング中のそういう私を見て、ケイさんが作った曲なんだろうなと思います。

──これまでも朱夏さんは「いくぞー!」というような勢いのある曲を数多く歌ってきましたが、「ノーサレンダー」はサウンドの軽快さも含めて、等身大のファイトソングという印象を受けたんですよね。「オオカミ気取って月に吠える 子犬は足が震えている」という出だしから面白いなと。鋭い牙も爪もないけど、それでもファイティングポーズを取るという。

私ってこういうイメージなんだ(笑)。「格好つかなくたってファイティンポーズ」というフレーズとか。これはケイさんやスタッフさんから見た私でもあるけど、たぶんいつも応援してくれているみんなからもそう見えているんだろうなとすごく思って。「そんな斉藤朱夏でもいいんだよ」とみんなが受け止めてくれるのを、毎回ステージに立つたびに感じているんです。「どんな姿であろうと、僕たち、私たちは朱夏ちゃんのことが好きだし、受け止めます」という言葉をもらうことも多いので。どんなにカッコ悪くても、そういう自分を愛してくれてる人がいるんだったらいいかな、みたいな。今までだったら格好つけたいし完璧な姿を見せたいと思っていましたけど、みんながそう言ってくれるから、今はこういう曲も歌えますね。