斉藤朱夏|走り続けて“君”と出会った、私の道のりについて

“笑顔”のイメージを少し壊したかったんだろうな

──「よく笑う理由」はポツリポツリと本当の気持ちをこぼしていくようなバラードで。ここまで自分の内側の弱い部分をさらけ出して、“笑顔の理由”を明かすのはかなり勇気が必要だったのでは?

めちゃくちゃ勇気がいりました。みんながどう受け止めてくれるのかがまだわからないので、ちょっと不安もあるんですが、私はこの曲に書いてあることをすごく言いたかったんです。2年前だったらたぶん言えなかったけど、自分が見せたいものを見せないとアーティストとしてやっている意味がないし、発信しないことには人には伝わらないぞと思って。どう思われてもいいから、今は自分の気持ちをストレートに伝えてみたかった。ここまで紡いできたファンの方々との絆があるからこそ、書けたことだと思います。

──よく笑う理由を「泣きそうになるから」「強い人って思われたくて」「弱い自分を誤魔化して」と赤裸々に綴っていて。今までも「誰よりも弱い人でかまわない」や「ヒーローになりたかった」など内面を見せるような曲はありましたが、朱夏さんが自分の内側にある弱さをこうして自ら言葉にするのは大きなことだなと……。

そうですよね。みんなに「えっ!」とびっくりされるようなことも書いてあるかもしれないんですけど、マイナスな理由で笑っていたというよりは、ただ私が勝手に弱い自分が嫌だったというか。強がりたかっただけなんです。

──自分をどう見られたいかというのが、きっと朱夏さんの中で確立していたから。

そう。だからこそ泣いている姿を見せたくなかった。泣きそうになる瞬間があっても、「あっ、ダメだ! 笑わないと!」と思ってきたんですよね。でも、「ワンピース」のレコーディングのときもそうですけど、ここ最近は泣きたいときはめっちゃ泣くんです。泣いている姿を見せていいんだということにようやく気付いたといいますか。この曲の歌詞にも書いてるんですけど、これまで自分自身が孤独だと思う瞬間が多くて、勝手に1人で傷ついていたんです。まっすぐに道を走って、その道にはトゲがあって、それでもそのトゲトゲの道を全力疾走して傷だらけになって、痛い!みたいな。

──その孤独というのは、周りに強い人だと思われたくて、本当の自分を見せられないからこそ生まれたものなんですかね?

というのもあると思うんですけど、正直この孤独に関しては、私自身もどこから生まれているのかわからないんです。本当にいろんな人に支えられてここまできてるのに。でも、今はそんな自分をちょっと笑えるくらいには前に進めるようになったし、自分の居場所がやっと見つかったような気がするんです。

──そういう気持ちが2番のサビの「君と出会って気づいた ここにいていいんだね」というところからラストの大サビまでに書かれていますね。

はい。やっぱり私にとって“君”という存在が本当に大きいんですよね。ファンのみんな、スタッフさん、家族……本当にいろんな人たちと出会ったから、自分の居場所がわかった。自分を見失いそうなときもあるけど、君がいて、君が笑ってくれるから、こんな私でもいいんだと思えるようになりました。

──弱い自分を隠してきたこれまで、そしてそんな自分を受け入れて“君”と一緒に歩いていくこれからが1曲を通して書かれています。この曲を書いたことで、少し気持ち的にラクになれたところはありますか?

ああ、ラクになれました。たぶん自分の“笑顔”のパブリックイメージを少し壊したかったんだろうな。やっぱり笑顔のイメージが強すぎて、それはすごくありがたいことなんですけど、そんな自分ばっかりではないんだよなと思ってしまうところがあって。ちょっとした反抗期なのかも(笑)。本当はここまで自分をさらけ出さなくてもいいのかもしれないけど、それでもさらけ出したかったのは、1人のアーティストとしてもう1つ階段を上がりたかったから。アーティスト活動をしている中で、“歌う理由”というのが自分の中でずっと引っかかっていて。「なんで歌うんだろう? これからどういう歌を歌っていくんだろう?」と考えていたんですけど、最近は自分の人生を歌うアーティストもいいなと思ってるんです。

“君”との約束の言葉

──9曲目の「またあした」では、次に“君”と会う約束の言葉として“またあした”というワードが繰り返し使われていて。6月の東京ガーデンシアター公演で次のツアーの開催を発表して、「みんなと次に遊ぶ約束ができてうれしい!」とおっしゃっていた、今の朱夏さんの状況そのものですよね(取材は7月末に実施)。

そうですね。「またあした」もケイさんとお話をしていく中で生まれた曲です。次のライブがあって、みんなと会う約束ができるのがとにかくうれしくて。あと、“またあした”って、大人になるとなかなか言わなくなってしまった言葉だなと思って、ちょっと寂しくなったんです。

──確かに昔はよく学校の帰りに友達に言ってましたよね。「また明日ね!」って。

毎日言ってましたもん。そういう話をケイさんとしていたんですけど、この曲は絶対にラブソングにはしたくないということは伝えさせてもらって。もちろんラブソングに振ることはできるんでしょうけど、自分の中で「またあした」という言葉と恋愛が結びつかなかったので、そこは避けてもらいました。

──デビュータイミングから朱夏さんは「ちゃんと言葉にして相手に伝えたい」「言葉にしないと伝わらない」と、言葉で伝えることの大切さを話していました。“またあした”という何気ない言葉に着目して、こうしてちゃんと相手に伝えようとするのは、朱夏さんならではの発想なのでは?

私が1日に対して全力すぎるのかもしれない(笑)。「明日もしかしたらこの人がいなくなってしまうかもしれないから、だったらこの言葉をかけよう」と思いながら、人と話してるんですよね。未来ってどうなるかわからないし、悔いを残したくない。だからDメロの「当たり前って当たり前じゃないから ちゃんと大事にしなくちゃ」というところは、私がよく言っていることで。“また”がくること自体が奇跡的なことだから、その機会を1つひとつ大事にしたい。重たいかもしれないですけど、そういうことも考えながら聴いてくれたらすごくうれしいです。

我が道を走ればいいんだ

──アルバムを締めくくる「声をきかせて」は、ファンの方々への気持ちがストレートに込められた曲ですね。例えば「私のハートを強くする 君が居れば なれるのさ 強く 強く 強く」というところは、まさにこの前朱夏さんがライブのMCでおっしゃっていて印象的だった言葉です(参照:「みんなひさしぶり!」斉藤朱夏が1年半ぶりワンマンライブ、大好きなみんなへの思いあふれた再会の日)。

「声をきかせて」は6月のライブを観たうえでケイさんが書いてくれた曲なんです。だから私がライブのMCで言った言葉が歌詞のもとになっていますね。「私のハートを強くさせてくれるのはみんなです」というのは、あのときあの瞬間に思ったことでした。リハのMCとは内容が違って、みんなの顔を見ていて自然と出てきた言葉です。

──この曲のサビでは「ありがとう」という言葉が繰り返し使われていますが、ライブでも朱夏さんは最後まで何度も「ありがとう」とファンの皆さんに伝えていました。

ライブができなかった1年半、「ありがとう」と直接伝えられる機会がなかなかなかったので。不安がある中で会場に来てくださった方に対してはもちろん、来たかったけどコロナ禍で参加を断念せざるをえなかったという方も周りの人のことを思って考えて決断してくれたことだから、そこに対しても「ありがとう」と思うし、いろんな「ありがとう」の気持ちがありました。1年半みんなに会う機会がなかったのに、それでもずっと応援し続けてくれている方々がいるのって、本当にすごいことだなと思うんです。だからこそ自分もライブを通して何かを返したい。それで、あれだけ「ありがとう」という言葉を何回も繰り返したんだろうなと思います。

──そういうお話を聞くと、この曲の「ありがとう」にもいろんな感謝の気持ちが含まれているんだろうなと。

実はレコーディングのときも1つひとつ違う「ありがとう」にしたいと話していて、若干ニュアンスを変えているんです。そこは聴きどころかなと思います。

──「『君』と書いて『いきるりゆう』と 読んだっていいと思うのさ」「全身と全霊をかけた恩返し」と、なかなか重ための言葉を使っているのも印象的です。そういう言葉を使えるくらいの、思いの強さと覚悟を感じて。

たぶん、あの日のMCでケイさんがそう感じたんでしょうね。私はいつもずっと“君”という存在に助けられてるし、「『君』と書いて『いきるりゆう』」というのは本当にそうだなと思っていて。ステージに立ち続けるのが私の生きる理由ではあるんですけど、それって“君”がいるからなんです。“君”に何かを返したいし、“君”のことが知りたいから私はステージに立ち続けているので。

──レコーディングではそういった感情を全部注ぎ込んで歌ったんでしょうか?

はい。6月のライブ映像を見てからレコーディングに臨んだので、よりライブの光景が頭の中にあって、「ああだったな、こうだったな」と思いながら。あと「声をきかせて」に関しては、6月のライブで一緒にステージに立ったバンドメンバーのみんなに演奏してもらっているんです。バンドメンバーの音を感じながら歌って、特に大サビはエモ散らかしています(笑)。

──今の朱夏さんは弱さも不器用さも自ら全部さらけ出して、素の自分で音楽活動に向き合ってる感じがしますね。

だから今すごく楽しいです(笑)。最近、朱夏チームのスタッフさんたちと話していたときに「斉藤さんはとにかく全速力で走っていけばいいです」と言われて、それでもっとラクになったんですよね。「じゃあ私、このまま突っ走っていいんですか?」という。私が書く歌詞って重たいかな?と思っていたけど「そう思わないでいい」って。

──この道をまっすぐ行け、という。

そう。我が道を走ればいいんだって。本当はずっと走りたかったんですよ、自分の道を。ただ、もしかしてこのまま走り続けたら誰かがいなくなってしまうかもしれないとか、いろんな怖さがあったんです。でも「走っていい」と言われたし、「パッチワーク」というアルバムで全部さらけ出して、このまま突っ走っていこうと腹をくくれたといいますか。まあ、正直これからも何回もつまずいて転んで泣くのは、私の性格上、一生変わらないと思うんですけど(笑)。

──それでも朱夏さんは走り続けるんでしょうね。

うん。だから最終的に「もう無理、でも走る」に戻るという(笑)。

──(笑)。腹をくくった朱夏さんが、これからどういうふうに道を進んでいくのか楽しみにしています。

私自身も、自分がこれからどうなっていくのかが楽しみなんですよね。これからの斉藤朱夏、大注目です!(笑)

斉藤朱夏(サイトウシュカ)
2015年に「ラブライブ!サンシャイン!!」の渡辺曜役で声優デビューし、作中のスクールアイドルグループAqoursのメンバーとしての活動をスタートさせる。2018年11月にはAqoursとしてライブ「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 4th LoveLive! ~Sailing to the Sunshine~」で東京・東京ドームのステージに立ち、12月に「第69回NHK紅白歌合戦」に出演した。2019年8月にミニアルバム「くつひも」でソロアーティストとしてデビュー。11月に東京・TSUTAYA O-EASTで初のソロワンマンライブ「朱演2019『くつひもの結び方』」を開催した。2020年11月に2ndミニアルバム「SUNFLOWER」を発表。2021年2月に2ndシングル「セカイノハテ」をリリースした。8月に1stフルアルバム「パッチワーク」を発表し、11月にホールツアー「朱演 2021 HALL TOUR 『つぎはぎのステージ』」を大阪・グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)と神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催する。FM NACK5で毎週水曜深夜24:30よりレギュラーラジオ番組「斉藤朱夏 しゅかラジ!」がオンエア中。