斉藤朱夏|素顔をさらけ出して、届ける言葉

泣いてもいいんだ

──4曲目「誰よりも弱い人でかまわない」は、斉藤さんがケイさんとの話し合いの中で「強くなりたい」「強い人になりたい」と言っていたことから生まれた曲だそうですね。これは普段から思っていることなんですか?

うーん……強がりというのもあるし、私の中で自分をどう見せたいかが確立してしまっているというか。本当は全然なよっちくて弱い人間なんですけど、人には強く見られたいから、無意識にそういうふうに振る舞ってしまっているんだと思います。

──「強く見られたい」という考え方は、どういった経験から生まれたものなんでしょうか?

どの経験からというよりは、小さいときから自然と根付いていた考えのような気がします。ステージでは泣かないというのを、いつの間にか勝手に決めていたり。本当は何回もステージで泣きたいときや、自分の感情があふれ出そうなときもたくさんあったんですけど、それをどこかで押さえるという作業をしていた。多分みんなも私のことを弱い人だと思っていないからこそ、そのイメージを壊さないようにしてきたところがあったと思います。だから、ケイさんとの打ち合わせでも「強い人間でいたい」と何回も話していたのに……。

斉藤朱夏

──「誰よりも弱い人でかまわない」という真逆の曲がきましたね(笑)。ケイさんのライナーノーツには“意地悪心”と書かれていますが。

もう、なんちゅう曲を書くんだと、びっくりしましたよ。「私、『強い人になりたい』って言ったんですけど!」みたいな(笑)。

──そうですよね(笑)。

でも、本当にこの曲の通りで……私はなんであんなに「強くならないといけない」って思っていたんだろうと、改めて考えさせられたし、「自分ともっと向き合え」と言われている感覚になりました。これまでいろんな仮面をかぶった状態でステージに立って、自然と“斉藤朱夏”を演じているときも多々あったのかなって……。

──この曲と出会って「誰よりも弱い人でかまわない」と歌えたことは、斉藤さんの人生の中で大きかったんじゃないでしょうか。

本当に大きかったですよ。「弱い人でかまわない」と歌ったときに、「ああ、泣いてもいいんだ。弱くてもいいんだ」と自然に思えて、すごく心が緩まったというか。実は昨日、スタッフ陣と打ち合わせをしていたときに「私はこのスタッフさんたちの前だったら泣けます」という話をしたんです(笑)。これまでは人前で泣くということを全然してこなかったけど、心を開いている人の前では泣けるなって思います。

自分が一番輝ける場所

──5曲目の「リフレクライト」は“反射光”の意味を持つ造語ということで。

ケイさんいわく、そうらしいです。

──斉藤さんの「ステージで輝く存在になりたい」「誰かの世界を照らしたい」という思いがストレートに反映された、アップテンポなポップチューンになっています。

一番明るい楽曲が来たなと思いました。ミニアルバムの中でもこれまでみんなが見てきた私のイメージに近い曲だから、肩の力を抜いて聴いてもらえるんじゃないかな。

斉藤朱夏

──斉藤さんがステージに立つ理由がここに書かれていますよね。

もともとソロデビューするにあたって「なんでアーティスト活動をしたいの?」という話から始まったんですけど、私ってステージに立っているときが一番生きている感じがするんですよ。自分が一番輝ける場所だと思ってる。でも、もちろん私1人だけで輝けるわけじゃなくて、みんながいて、スタッフさんが陰で支えてくれているから、ライブが成り立っている。みんながいないと輝けない。ケイさんにもそういう話をしたと思います。

──まさにステージから光を放っていくように、晴れやかに歌われています。

レコーディングではライブをイメージして、いつも応援してくださる皆さんの顔を思い浮かべながら歌いましたね。最初にレコーディングした曲だったんですけど、肩の力を抜いた状態で歌えたと思います。この曲はライブでやるのがめちゃめちゃ楽しみですね。

──ファンの人との関係性を表した曲を、ファンの人の前で歌うという。

この曲をみんながどう捉えてくれるのかは、私的にはけっこう気になるところです。「そっちできたか!」と思うのか、「やっぱそうだよね!」と思うのか……ライブで答え合わせをすることで、私とファンの人との関係性がわかるような気がしています。

仮面の下にあるものを見せないとダメなんだ

──そしてミニアルバムは「ヒーローになりたかった」でエンディングを迎えます。ケイさんが斉藤さんに「なぜアーティストとして活動を始めるのか?」と聞いていく中で「ヒロインよりも ヒーローになりたかった」というフレーズが浮かんできたそうですが、斉藤さんから直接的にそういう発言をしたんですか?

私からは言っていないので、ケイさんが私との会話の中で「この子はヒロインじゃなくてヒーローになりたいんだろうな」と感じたんでしょうね。自分でも私はヒロインという柄ではないので、どちらかというとヒーローなんだろうなとは思います。

──ケイさんから見た斉藤さんの印象がそのまま歌になっている感じがしますね。

「ヒーローになりたかった」はソロアーティストとして最初にいただいた楽曲なんですが、この曲の歌詞を見たとき、「私はこう思われてるんだ……!」ってちょっと恥ずかしかったんですよ。でも、本当にこの歌詞の通りだなと思って。特に2番のAメロの「本当に壊したいものは 自分のこんな気持ちなんだよ」というところとか。自分の負の気持ちはもちろん、明るい気持ちでも壊したくなるときってたまにあるんです。なんでこんなに自分はハッピーにしゃべってるんだろうと思ってしまったり……。

──「背中のファスナーが隠せない」というフレーズもあり、斉藤さんが普段見せない弱さや繊細さを感じる曲になっています。

ソロ活動をしていく中で、やっぱり自分の弱さだったり、仮面の下にあるものを見せないとダメなんだと思って……今まで見せてこなかった私の素の表情を、楽曲を通して全部見せています。

──ケイさんは斉藤さんとの会話を通して、まさに仮面の下にあるものを見たんだなと。

本当にケイさんは長い間打ち合わせを重ねて、私のことを読み解いてくださいました。こういうことを言いたくて、こういうことを曲にしたくてっていうのを、ケイさんは全部わかってくれている。ケイさんもずっと「内に秘めてるものを取りたい、見たい」と言っていたので。

──そしてこのミニアルバムは「もしもすべて脱ぎ捨て向き合えたら 君は僕を見て笑うかなあ 僕の涙も拭ってくれるかなあ」というフレーズで締めくくられます。

強がったり、自分の仮面を外せなかったりするけど、結局は誰かに涙をぬぐってもらいたいという。この曲を聴いたみんなが、私の涙をぬぐってくれたらいいなという気持ちもありますね。

斉藤朱夏

──このミニアルバムを携えて、10月には初のワンマンライブがありますね。

えっ、あと3カ月しかないんですか!? 大丈夫かな……(取材は7月下旬に実施)。

──自分の内面を見せるような作品を作ったからには、ライブでも自分をさらけ出す必要が……。

そうなんですよ。ちゃんと自分をさらけ出せるのかという課題があって。でも、ライブはナマモノだからこそ音源とはまた違うものになるかと思うので、楽しみにしていただけたらうれしいです。あと3カ月しかないということに今気付いてしまって、どうしようと思ってるんですけど(笑)、私もすごく楽しみです!

ライブ情報

斉藤朱夏「朱演2019『くつひもの結び方』」
  • 2019年10月13日(日)東京都 TSUTAYA O-EAST