斉藤和義|キャリアに裏打ちされた 手癖ありカバーありの20thアルバム

手癖上等だよ

──楽器を演奏するうえで、昔と比べて何か変化はありましたか?

うーん、どうだろう? ドラムについてはあるかもしれないですね。昔それほど叩けなかった頃は、フィルとかのオカズを入れたいけどヨレちゃうからやめとこうとか、ここでシンバルにいきたいけど無理だなとか、そういうのがあり。それをあとから聴くと、「ちょっと普通じゃなくて面白いじゃん」と思ってたんです。でもだんだんそれなりに叩けるようになってくると、叩くのは楽しいんだけど、聴いたときには面白くないんですよね。だったらちゃんとうまい人とやったほうがいいし。それもあって前作(「Toys Blood Music」)はドラムマシンでやろうと思ったり。

──なるほど、上達することで失われるものがある。

斉藤和義

うん。ギターもそういう感じで、手癖みたいのができてきちゃって。「またこれ弾いちゃった」みたいになるとヘコむんですよね。

──手癖というのは嫌なものなんですか?

うーん、そうは言いつつ、今回はいつも弾いちゃう手癖をそのまま曲にしちゃえばいいじゃんと思ったりもして。「シャーク」や「万事休す」は、「手癖上等だよ」という感じでやりましたね。

──歌詞と同じですね。推敲すれば違うアイデアが出てくるかもしれないけど、あえてそのままでやってみるという。

そうそう。あんまり根を詰めてやるのは避けたかったんですよ。

──何かあったんですか? 苦労とか。

いやあ、なんかね(笑)、ずっと働いていて忙しかったから、夏に2カ月ぐらい休みをもらったんです。1回スイッチをオフにするぞと思って、ひたすら何もせずにボーッとしてたんだけど、それがすごくよかった。息抜きっていうか、ホントにすごくリセットできた感じがして。そのあと曲も作らないままアルバムのレコーディングが始まってどうしようと思ったんだけど、さっき言ったような手癖もね、今回のメンバーはきっと得意だし、弾いていれば曲になっていくはずと思ってました。

──実際そうなったわけで。

うん。これまでを振り返っても、例えばシングルのA面曲を作るときは、やっぱりちょっとわかりやすくしなきゃという意識がどこかで働くものなんだけど、カップリングは気負わずラフな感じで作ると、意外とよくできたりして。結果、カップリング曲のほうが長くライブでやる曲になったりもする。そういう気楽さでアルバムを作りたいとずっと思ってたんですよね。根を詰めて徹夜して、みたいなのは一旦置いといてと思って。そういう集中力も体力も、もうないよと。

──確かに徹夜は歳を重ねるにつれて、ただただ効率が悪くなりますよね。

そうなんですよ。それに、150%の力を出しても、3、4割の力でやっても気に入ったものができればどっちでもいいわけで。150%でやれば一生懸命やった満足感は得られるかもしれないけど、そこでサウンドが変わるわけでもないというのが、なんか経験上わかってきて。

──こればっかりはきっとキャリアがないとわからないですよね。それこそアルバム20枚くらい作らないと。

うん。でもそれを狙ってやるのはなかなか難しかったりもして。だからリハスタでレコーディングしてみたのは、それもあったんです。「さあ、どうぞ!」という感じで録るんじゃなくて、ずっと録音機材を回しといてもらって、リラックスしながら演奏して、「さっきのあのテイクいいな」というのを生かすとか、こういうやり方もいいなって。

斉藤和義

こんな感じでもアルバムできるんだなあ

──いいテイクって演奏しながら「きたー!」っていう手応えがあるんですか? それとも、あとから聴いてわかるもの?

あとから聴いてですかね。特に今回は歌も一緒に録っちゃったのが多いので、作りたての歌だと歌詞に意識がいっちゃって、ギターにあんまり意識が向かない。それをあとで聴くと演奏もいいじゃんと思ったり。

──バンドセッションと同じで、歌とギターが一緒だとさらに鳴り合うっていう相乗効果があるのかもしれないですね。

そうそう。歌も同じで、ちゃんとオケを用意して歌入れをすると、ピッチは正確だけど全然感じが出ないみたいなことがあったんです。あとで歌だけやり直したのもあったけど、別の歌みたいだからリハスタで録ったやつでいいやって戻したり。

斉藤和義

──このテイクにしようということは迷いなく決まるんですか?

バンドで「せーの」で録ったやつは、何テイクか録ったら聴いて、全員一致で決まりますね。そういうのは誰かが「ここ間違えちゃいましたけど」ということもあるんだけど。

──そういうの、本人的には気になるんでしょうね。

自分の演奏だとね。例えばドラムがサビ頭でシンバルにいく予定だったけど叩きそびれちゃったとか、そういうのもちょこちょこあったりするんだけど、そういうフィルのように聞こえて全然気にならないし、むしろそれが面白いときもある。それは全部の楽器に言えることで。

──そういう音を捕まえるには、この作り方がすごくよかったということなんですね、きっと。

うん、こんな感じでもアルバムできるんだなあと思った。レコーディングスタジオで録ってたときよりも早めに終わったんですよね、珍しく。2日ぐらいだけど。