音楽ナタリー Power Push - 斉藤和義
10年来の盟友チャーリー・ドレイトンと作ったロックンロールアルバム「風の果てまで」
「そうか、手クセも個性と思えばいいか」
──ちなみに今回のスタジオはどんな環境でした?
今回レコーディングは、チャーリーがよく知ってるライアン・フリーランドというエンジニアにお願いしたんですね。ボニー・レイットやエイミー・マンなどを手がけた人で、たぶん僕と同世代じゃないかなあ。彼の自宅に隣接した、ガレージを改造したようなプライベートスタジオで。防音は一応してるけど、ブース内にいても通りを走ってる車の音が聞こえるような、わりとゆるい場所でした。でも音はすごくよかった。
──それってあえて言葉にすると、どんな感じの音なんですか?
全体的にナチュラル、ですかね。細かいノウハウはわからないけど、ともかくブース内で鳴ってた音がそのままスピーカーから出てくるイメージ。これが日本だと、例えばギターアンプを細かくセッティングしてレコーディングしても、コンソールを通すとブースで聴いてた音と違って感じられることが多いんですね。だから細かい調整やイコライジングが必要になるんですが、今回そのギャップがほとんどなかった。最終的なミキシング作業は帰国してから行いましたが、ロスで録ったラフミックスの音源がすごくいい感じだったので。その空気感をなるべく残す音に仕上げてもらいました。
──海外レコーディングするにあたり、ソングライティングのやり方が前作から変わったところはありました?
いや、それは特にないですね。いつもと一緒。強いて言うなら、あまり小難しいものとかこねくり回したものにはしたくなかったので、メロディも歌詞もわりとシンプルになってると思います。30~40曲くらい作った中から、チャーリーと演奏したら合いそうなのを17、8曲ほどアメリカに持っていって。彼の叩く8ビート……普通に刻んでるのに跳ねちゃう感覚が好きなので(笑)。アップテンポの楽曲を多めに混ぜたいって気持ちはありましたね。とにかくあまり深く考えずに、なるべく簡単なのがいいなと。最近ね、身近な同世代のミュージシャンと飲んでると、よくそんな話題になるんですよ。
──どんな話でしょう?
長年この仕事をやってると、曲作りにおいても、だんだん自分の手クセが見えてきたりするじゃないですか。「あ、このサビの展開、前にもやったぞ」みたいな(笑)。壁ってほど大げさなものじゃないけど、俺は俺なりにそういうのを感じた時期があって。それをYO-KINGに話したら、「いやまあ、俺なんてもう、最近は手クセ上等でやってるよー」と明るく言われまして(笑)。
──はははは(笑)。それ、なんだかとってもYO-KINGさんらしいですね。
あの“全肯定男”が、いつもの調子でね(笑)。でもそのとき「あ、そっか」とも思ったんですよ。「そうか、手クセも個性と思えばいいか」と。それでけっこう気が楽になった。だから今回も、曲作りについてはあまり難しく考えずに。「似たような曲があったぞ」と思っても「いいの、いいの」と言い聞かせて(笑)。なるべく自然に作ってます。
シンプルは逆にハードルが高くなる
──ただ聴き手がこのアルバムから受け取る印象って、そういう手クセではないと思うんですよ。世界トップレベルのドラマーとガチでぶつかり合うことで、斉藤さんの作る楽曲の骨格がこれまで以上にソリッドに、生々しく伝わってくる気もしたんですが。
あ、ありがとうございます。もしそうなってたらうれしいけど。
──ガチンコ勝負あってこそ、手クセも輝くという(笑)。
ははは(笑)。うん。それはあるかもしれないですね。これまで通り、1人多重録音スタイルでアルバムを作ることもできたと思うけど、今はちょっと飽きてるというか……。それよりは、チャーリーと新しいやり方を試したいって気持ちが強かったので。それはほんとうまくいった感じでしたね。あと、シンプルに徹すると逆に気付くこともあるんですよ。
──へえ、具体的にはどんなことでしょう?
例えば歌詞を書くとき。最近は、1番と2番でサビの言い回しが微妙に違ったりするのは、記憶力に自信がないから避けてるんですよ(笑)。なのでアメリカンポップスの王道じゃないけど、サビは毎回なるべく同じにしようとか考えるわけ。でもそうすると、その前後の歌詞をよりしっかり作らないと曲がつながらないことも見えてくる。シンプルは逆にハードルが高くなるんだなと。今回、そんなことも感じましたね。
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- ニューアルバム「風の果てまで」2015年10月28日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤A [CD2枚組+DVD] 4752円 / VIZL-1020 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤B [CD2枚組] 3780円 / VIZL-1021 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64600 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- あこがれ
- さよならキャディラック
- 傷口
- 攻めていこーぜ!(Album ver.)
- アバリヤーリヤ
- 夢の果てまで
- 小さなお願い
- 恋
- シンデレラ
- 時が経てば
- Player
- Endless(Album ver.)
初回限定盤A・B 特典CD収録曲
- NO!
- 明日も今日の夢のつづきを
- ワンダーランド
初回限定盤A DVD収録内容
- 愛に来て
- やぁ 無情
- おつかれさまの国
- ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー
- COME ON!
- ずっと好きだった
- Stick to fun! Tonight!
- ウサギとカメ
- やさしくなりたい
- 月光
- ワンモアタイム
- Always
- かげろう
- ひまわりの夢
- カーラジオ
- 攻めていこーぜ!
斉藤和義(サイトウカズヨシ)
1966年生まれ、栃木県出身のシンガーソングライター。大学時代から曲作りを開始し、1993年「僕の見たビートルズはTVの中」でメジャーデビューを果たす。1994年にリリースしたシングル「歩いて帰ろう」が子供番組「ポンキッキーズ」にて使用され注目を集めて以降、「歌うたいのバラッド」「ウエディング・ソング」「ずっと好きだった」など数々の代表曲を生み出し多くのファンを獲得する。2011年には人気ドラマ「家政婦のミタ」の主題歌として書き下ろした「やさしくなりたい」がヒットを記録し、一般層にもその名が広く浸透。2013年10月、アニメ映画「名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)」主題歌「ワンモアタイム」、デジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-50」CMソング「Always」、映画「潔く柔く きよくやわく」主題歌「かげろう」といったシングル曲を収録したアルバム「斉藤」「和義」を2枚同時リリースする。2015年10月に2年ぶりとなるオリジナルアルバム「風の果てまで」を発表した。飄々とした飾らないキャラクターも、男女問わず愛されている。