ナタリー PowerPush - 斉藤和義
孤高の“歌うたい”が明かした楽曲制作・レコーディングの裏側
昨年デビュー15周年を迎えてベストアルバムや数々のヒットシングルを連発し、一気にお茶の間での知名度を高めた斉藤和義。音楽性やスタンスはこれまでと何も変わっていないにもかかわらず、彼が作り上げてきた楽曲をさまざまな場面で耳にする1年となった。
そんな彼が通算13作目となるオリジナルアルバム「月が昇れば」を9月16日にリリース。ここ何作かと同じように、このアルバムでもほとんどの楽曲において演奏パートをひとりで担当している。ナタリーではそんな斉藤和義にインタビューを敢行。アルバム制作の裏側や多重録音の秘密、曲作りに向かう姿勢、さらには忌野清志郎への思いなど、興味深い話をたっぷり聞いた。
取材・文/西廣智一 撮影/中西求
コンセプトを決めず出来上がった曲を素直に入れた
──昨年から今年にかけて、ベストアルバムやシングルのリリースが続いて、メディア露出が増えました。だけどオリジナルアルバムに関して言うと、今回の「月が昇れば」は前作「I LOVE ME」から2年ぶりなんですね。
気がついたらそんなに経ってた感じで。僕的にはあまり時間が空いたという感覚はないですね。
──アルバムの制作にはどれくらい時間がかかりましたか?
最初は時間が空いたらスタジオでも入ろうみたいな軽いノリで、合宿で2週間くらいレコーディングしたりバンドのメンバーとやったりして。でも、本格的なレコーディングは今年に入ってからかな。半年くらいかけて録りためて、最近シングルで出した曲も入れて、ほかは録り終わった後でどれをアルバムに入れるか決めました。
──じゃあ最初にコンセプトを決めて作ったというよりは、できた曲をどんどん蓄積していって、そこから流れを決めていったんですね?
今までは1~2カ月で集中して録ってたんですけど、今回はこういうアルバムにしようとか考えずに出来上がった曲を素直に入れていきました。でも、聴いたことあるシングル曲ばかりなのもイヤなので、そのへんは大変でしたけどね。
──でも最終的には全体の流れが非常にスムーズで、ひとつの映画を観るように緩急があって気持ちよく聴けるアルバムですよね。
最初はまるっきり違う曲順も考えて。普段はせいぜい4~5パターン考える程度なんですが、今回は悩んで10パターンくらい用意しました。曲順によってだいぶイメージは変わりますよね。
同じ人間が演奏してるから同じグルーヴになる
──各曲がバラエティに富んでいる分、まとめるのは大変だったんじゃないですか?
同じ人間が演奏(斉藤自身による多重録音)してるから、全体的に同じグルーヴになるし。それもあってひとりで全部やっちゃうことが多いんですけど、曲調はどうせバラバラになるだろうと最初から思ってたので、そこはあまり意識しませんでした。
──そもそもなぜ多重レコーディングを始めるようになったんですか?
全部ひとりでやろうと決めてたわけじゃなくて、たまたま。初期の頃は曲に合ったメンバーで録ったりしたけど、僕はデモテープとかあまり作らないでその場で録っていっちゃうから、メンバーを呼んでるタイミングがないんですよ。
──思いついたらそこで作業を進めちゃう?
そう。できたてホヤホヤのが入ってるんで、そのほうが雰囲気がいいんですよね。その流れに慣れちゃってるから、作業も速いし。でも、ひとりでやるのもそろそろ飽きてきたので(笑)、次はバンドで録りたいと思ってます。
歌詞を読み返したら「月」という単語がよく出てきた
──「月が昇れば」というタイトルですが、これは歌詞に出てくるフレーズですよね。なぜこれをタイトルに選んだんですか?
最初は考えるのが面倒で、2009年に作ってたから「2009」でも、13枚目だから「13」でもなんでもいいと思ってたんです。でも、なんとなく日本語がいいなと思っていて、歌詞を読み返したら「月」という単語がよく出てきたので、だったらあまりアルバムタイトルっぽくないのがいいなと。
──ここ何作かは力強く具体的なタイトルが多かったので、今回は抽象的というか、いろんな意味に取れるタイトルだったんで意外でした。
うん、そうですね。なんとなく全体の感じで、日本語らしい雰囲気の言葉がいいと思ったんです。
CD収録曲
- COME ON!
- LOVE & PEACE
- 映画監督
- ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー
- 後悔シャッフル
- やぁ 無情
- 天国の月
- Phoenix
- Bitch!
- Summer Days
- ハローグッバイ
- アンコール
初回限定盤:ブックケース&豪華フォトブックレット付き
斉藤和義(さいとうかずよし)
1966年栃木県出身。大学の頃から曲作りを始め、1993年「僕の見たビートルズはTVの中」でデビューを果たす。シングル「歩いて帰ろう」がテレビ番組「ポンキッキーズ」で注目を集め、その後も「歌うたいのバラッド」などのナンバーで多くのファンを獲得。シングル「ウエディング・ソング」は、リクルート「ゼクシィ」CMソングとしても話題に。また、音楽以外でも映画「八月のかりゆし」に出演するなど、その素朴なキャラクターのファンも少なくない。