武内先生が作られた歌詞は本当にすごい
──劇中でスリーライツの楽曲として披露される「流れ星へ」は、90年代に放送されていたアニメ「美少女戦士セーラームーン セーラースターズ」にも登場しました。原曲はスローバラードでしたが、今回の「Cosmos」ではケンモチヒデフミさんのアレンジにより、ビートが効いた明るい印象の楽曲に生まれ変わっています。とても新鮮に感じましたが、皆さんは初めて聴いたときにどう思いましたか?
井上 ノリやすいアップテンポなアレンジで、現代の方に聴きやすいアレンジだなと思いました。ただ「流れ星へ」は、とても強いメッセージが込められた意味のある楽曲なので、アップテンポな中に「プリンセスを見つけたい」という切なさや情熱をどう込めるかは、自分の中でけっこう苦労しましたね。レコーディングは私がトップバッターだったんですけど、あんまり記憶がなくて(笑)。でも2人がものすごく歌がうまいことは周知の事実で、私も信頼しているので、自分がどんな歌を歌っても、2人の声が重なったら完璧なものになるだろうな、と期待してお任せしました。
早見 いやいや、こちらこそですよ! 私は最後だったから、コーラスでお二人の声に合わせるのが楽しかったですね。最初はこの曲をスリーライツとしてどう歌ったらいいかドキドキしていたんですけど、お二人の声を聴いたら、向かう道がもう見えていたというか、「自分はここに声を乗せるだけでいいんだな」と安心しました。完成したものを聴かせていただいたとき、バラードの原曲とはまた違うカッコよさやクールさがあって。アップテンポなのに歌詞はすごく切ないというギャップもよくて、また新しい魅力を発見した思いでした。
佐倉 こういった楽曲をあまり今まで歌ったことがなくて。完成像が見えないままに現場に行ったんですけど、最初に星野さんの声を聴いたときに、もうすっかり完成されていたので……。
井上 うーん?(照れたように)
佐倉 (笑)。なので「夜天としてかなり自由に歌っても大丈夫だろう」という安心感のもと、自由に歌わせていただきました。
──劇中では「流れ星へ」がライブのシーンで使われていて、うさぎたちもスリーライツのパフォーマンスに見入っていましたが、あのシーンはご覧になっていかがでしたか?
井上 歌の収録よりアフレコが先だったんです。なので「ここに歌が入るんだろうな」という思いでアフレコさせていただきつつ、ライブ会場を思い浮かべながらレコーディングに臨みました。アップテンポなアレンジになって、ライブでキャーキャー言われているムードにより馴染んでいるなと思いましたね。
──井上さんがこの曲を1人でアカペラで歌うシーンもありました。
井上 そうなんですよ。非常にプレッシャーが大きかったです。自分の声だけが劇場に響き渡るのか、と(笑)。ドキドキしながら歌いましたけど、歌というよりは言葉を伝えるつもりで、とにかく火球様への「見つけたい」という思いを込めて歌わせていただきました。まもちゃんがいなくなってうさぎちゃんが抱いている思いにも重なっていると思うので、武内先生が作られた歌詞は本当にすごいなと思いますね。
「付いていきます」という思いを強く持って歌いました
──オープニング曲「セーラースターソング」は、皆さんとセーラー火球 / 火球皇女役の水樹奈々さんが4人で歌われています。「Cosmos」では90年代のアニメのテーマソングとして知られる「ムーンライト伝説」が《前編》、「セーラースターソング」が《後編》のオープニングをそれぞれ飾っていますが、2014年に「美少女戦士セーラームーンCrystal」で新作アニメの制作が始まって以来、前シリーズの楽曲がオープニング楽曲として使われるのはこれが初めてですよね。子供の頃に観ていたアニメの楽曲を自分が歌い、劇場版のオープニングを飾るというのは感慨深かったのでは?
井上 役が決まったときに「歌ありき」と聞いていたので、「流れ星へ」に関してはイメージができていたんですけど、「セーラースターソング」でオープニングに自分たちの声を加えていただけるなんて、本当に夢のようでうれしかったですね。
──「セーラースターソング」は月蝕會議さんが原曲のニュアンスを生かしてアレンジした印象でした。
早見 火球様とともにあるのが我々セーラースターライツなので、「付いていきます!」という思いを強く持って歌いました。
佐倉 火球様とキーが合わなさすぎて、夜天として歌うのが難しかったです(笑)。
井上 でもあのキー、奈々さん合わせじゃないんだよね。
佐倉 そうですね。原曲合わせかと。でもとにかく高かった。セーラースターライツのキャラクターを保ちながら歌うのはすごく難しかったですね。
早見 自分の音域より高いキーも低いキーもどちらも、キャラクターとして歌うのは難しいですよね。
井上 最初に聴いたとき、高すぎて「なんてムチャぶりだろう」って思ったもん(笑)。自分がこれまで歌ってきた少年声の楽曲で一番高かった。奈々さんに歌っていただいて、我々は低音だけ担当させていただければ、と思っちゃいました(笑)。
佐倉 レコーディングで「1オクターブ下で歌っていいですか」と聞いてみたけど、もちろんダメでした(笑)。1カ所だけ1オクターブ下で歌える場所があってそこは助かったのですが、メインのサビはみんな同じキーでいくということで、かなり苦戦した記憶があります。
──皆さんの声が多層的に折り重なっていてとても聴き応えがありましたが、裏にはそんな苦労があったんですね。
早見 すごく声の厚みがありますよね。完成したときにそこは強く感じました。
井上 まさに火球様と彼女に仕える我ら戦士たち、という雰囲気ですよね。
最後はやっぱり愛なんだな
──「Cosmos」は最終章ということで、たくさんのキャラクターが登場し、多くのドラマが盛り込まれています。特に注目してほしいシーンは?
井上 ……みんなの総意で、あそこを挙げておきますか。
早見 あそこですね。レイちゃんと美奈子ちゃんのカッコいいセリフがある屋上のシーン。
井上 原作でも名シーンですけど、セーラー戦士たちの絆をずっと感じてきた身としては、映画で観て涙が止まりませんでした。
佐倉 本当に刺さりますよね。あと私は、夜天がみちるさんにめちゃくちゃ失礼なことを言うシーンが印象に残っていて。今回スリーライツはそんなにセリフが多いわけではない中、短いセリフの中で個性を出していくことを意識していたのですが、あのシーンは夜天の失礼な感じが個人的にはお気に入りです(笑)。好き嫌いの分かれるシーンだとは思いますが。
──あそこの夜天、とってもかわいかったです。
佐倉 そっち側なんですね(笑)。ありがとうございます。
早見 私はスリーライツが火球と再会してひざまずくところが好きです。とにかくカッコよくて! あと、完成した映像を観たときに思わずメモを取っていたんですけど、うさぎちゃんが「あたし達は皆 一人ぼっちの星なの」って言うところは「くぅー!」って。この世界のすべてを言い表している気がして、グッときました。
井上 私は「銀河一身分違いな片思い」というセリフ。星野さんからうさぎちゃんへの思いを表した言葉ですが、私が三石(琴乃)さんに対して思っていることに重なるんです。子供の頃から「美少女戦士セーラームーン」で育ってきた自分にとって、三石さんはまさに手の届かないプリンセスのような存在で。その距離は自分の中では、銀河ほど離れている感覚なんです。それが今、大人になって声優という職業を選んで、対話できるだけでも奇跡のようなのに、うさぎちゃんと星野として、三石さんとご一緒できる機会があろうとは。まさにこのセリフは自分自身を表しているなあと思いました。
──最終章ということで、セーラームーンは過去最高に強大なものと戦っていて、愛や意志を強く持つことについて教えてくれる作品だと思います。最後に、皆さんがこの「美少女戦士セーラームーン」という作品に携わって、得たこと、学んだことを聞かせてください。
井上 多くの作品で戦いの場面を経験するたびに、「何のために戦うのか」を突きつけられるタイミングがあるんです。使命だったり、自分でないもののためだったり、さまざまな理由があるんですけど、最終的にはやっぱり自分の愛する人のために戦うんだということを、「美少女戦士セーラームーン」に教えてもらいました。うさぎちゃんってもともとはドジで、人に支えてもらって守られて、それでも戦ってきて。そんなうさぎちゃんが大切な仲間と愛する人とともに歩んできて、最終的にはその大切な人たちを自分の手で守る。愛の力で作られている作品だし、最後はやっぱり愛なんだなと。平和とかきれいな言葉ではなく、自分が一番守りたい人のために力を尽くすことが一番強いパワーを生むんだなと感じました。
早見 生きていく中で、「これを胸にしまって、大事に持ったまま歳を重ねていきたい」と思えるようなもの。愛や人に対する思い、人を信じるということ、未来を作っていくために今を生きているということ……それら全部、この世界を自分が1人で歩いていく中で今後も必ず持っていたい大事な宝物みたいなものを、「美少女戦士セーラームーン」から受け取れた気がしています。
佐倉 大人になってからも「どこに向かっていっていいか、何を信じればいいか」と迷うタイミングって人生でいくつもあると思うんです。そういうときに道しるべになってくれる作品の集大成が「美少女戦士セーラームーン」なのかなと感じました。愛ってひと口に言ってもいろんな形があるけど、自分の人生をどのように豊かにしていくのかのヒントが、「美少女戦士セーラームーン」に出てくる個性豊かな登場人物たちそれぞれにたくさんあって。そんなたくさんのものが眠っている作品だなと感じています。
プロフィール
井上麻里奈(イノウエマリナ)
代表作に「天元突破グレンラガン」(ヨーコ・リットナー役)、「さよなら絶望先生」(木津千里役)、「図書館戦争」(笠原郁役)、「進撃の巨人」(アルミン・アルレルト役)、「僕のヒーローアカデミア」(八百万百役)、「呪術廻戦」(禪院真依役)など。
早見沙織(ハヤミサオリ)
主な出演作に「SPY×FAMILY」(ヨル・フォージャー役)、「鬼滅の刃」(胡蝶しのぶ役)、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」(新垣あやせ役)、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(鶴見知利子役)など。アーティスト活動も精力的に行っており、5月に3rdアルバム「白と花束」をリリースした。
佐倉綾音(サクラアヤネ)
主な出演作に「僕のヒーローアカデミア」(麗日お茶子役)、「新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION」(速杉ハヤト役)、「進撃の巨人」(ガビ・ブラウン役)、「五等分の花嫁」(中野四葉役)、「ご注文はうさぎですか?」(ココア役)、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」(一色いろは役)、「Charlotte」(友利奈緒役)など。