ゲームファンに愛され続ける「サガ」の音楽の魅力とは?“イトケン節”で知られる伊藤賢治が語る2本立てインタビュー

DESTINY 8インタビュー

「サガ」好きが集まったDESTINY 8

──まずはDESTINY 8とはどんなバンドなのか、具体的に教えてください。

上倉紀行(Key) 「サガ」シリーズは2019年に30周年を迎えまして、それを記念して2020年に楽曲をバンドアレンジしようじゃないかという話になったんです。「サガ」シリーズは何作も出ていますから、楽曲数もものすごい。これまでもアレンジアルバムはありましたし、オーケストラアレンジ、コンサートもありましたが、DESTINY 8はバンドアレンジかつ、ロック色の強いところが特徴です。そこを魅力にしつつ、ファンの方たちに「サガ」の音楽をより楽しんでいただくために結成したバンドになります。

DESTINY 8。左から森空青(G)、池尻晴乃介(B)、伊藤賢治(Key)、上倉紀行(Key)、岡島俊治(Dr)、坂田善也(G)。

──DESTINY 8というバンド名にはどんな由来があるのでしょうか?

上倉 わかりません(笑)。名付け親である「サガ」シリーズ 総合ディレクターの河津さんや「サガ」シリーズ プロデューサーの市川雅統さんしか知らないんですよ。DESTINYというと「ロマンシング サ・ガ」に出てくる宝石“デステニィストーン”を連想するけど関係あるのかな?とか、メンバー6人なのになんで「8」なんだろう?とかいろいろ考えるんですが、僕たちも知らなくて(笑)。

坂田善也(G) ネット上でファンの方々がバンド名について考察しているのを面白く見ています。最初は6人だけど、追加の仲間があとから2人来るのでは?とか(笑)。

上倉紀行(Key)

上倉 謎を残す感じも「サガ」や河津さんらしいかもしれない(笑)。

──確かに(笑)。バンドメンバーの選定基準などはあったのでしょうか?

上倉 まず伊藤さんありきの企画でしたので、伊藤さんは決定済みでした。そして僕が最初にこのお話をいただいたときには、すでにハードロック、ヘヴィメタルなテイストでいこうという方向性を考えていたんですね。そして、その方向性が確定すると、すぐにドラムの岡島さん、ベースの池尻くん、ギターの森くんにお願いしました。理由としては以前から面識があったこと、そして「サガ」シリーズが好きなことを知っていたからです。坂田くんは、森くんの紹介でしたね。

──森さん、坂田さんはDESTINY 8に参加するとなったとき、どんな思いがありましたか?

森空青(G) 上倉さんからビデオチャットで「どう?」って聞かれたんですけど、その話を聞いた瞬間固まってしまって(笑)。「サガ」シリーズが大好きだったので、その公式企画に参加できる喜びもあれば、緊張感もものすごく大きかったです。

上倉 本当に固まってました。パソコン画面が固まったのかと思うくらい(笑)。ただ、それだけ光栄なことだと思ってくれたんだなと。その熱量が演奏に表れていると思います。

坂田 僕は森さんから紹介されたわけですが、森さんと同じく聞いた瞬間びっくりしすぎて「どうしよう!?」って(笑)。「サガ フロンティア」で初めて「サガ」シリーズのゲームをプレイして以来、「サガ」はずっと大好きなゲームなんです。そこに関われるなんて、これ以上ないことでした。

──しかも、バンドの仲間が「サガ」ファンからして見れば、神の1人である伊藤さんであると。

 それが一番の驚きでした。これまでもお仕事ですれ違ったりしたことはあるのですが、まさか一緒に演奏することになるとは思いもしなかったです。

坂田 お話をいただく直前にも「サガ フロンティア」のサウンドトラックを聴いているくらい好きだったので、伊藤さんと同じバンドを組むなんて、まさに夢のようです。

伊藤賢治(Key)

伊藤賢治(Key) いやいや、大変ですよ。彼らはギターのスペシャリストで、僕はあくまで作曲家であって奏者ではないので、彼らのスキルに付いていくのがやっとです。

──そんなDESTINY 8の魅力とは、どんなところにあると思いますか?

上倉 DESTINY 8は、2020年11月末の「ロマサガRS」の2周年記念公式生放送でオンラインライブ配信を行いましたが、まだ皆さんの前に生で現れたことはありません。ただ、DESTINY 8はライブでより持ち味が出るとオンラインライブで感じました。メンバーそれぞれがソロで活動していることもあり、個々で磨いているテクニックの部分や音楽性が、ライブでより光っているなと思ったんです。もちろんアルバムでも、そういった個々のパフォーマンスの部分は感じてほしいところですね。

伊藤 自分は作曲者なので置いておくとして、メンバーが全員「サガ」シリーズが大好きで、「サガ」シリーズのBGMをリスペクトしてくれてるんですよ。それが演奏や人となりの部分で、ファンに刺さってくれてるんじゃないかなと。

 伊藤さんが言うように、何よりもメンバー全員が「サガ」が大好きなのが大きいと思いますね。しかもメンバーそれぞれに思い入れの強いタイトルや曲も違うんです。「サガ」は何度もバトルを繰り返すので、僕はバトル曲への思い入れが特に強くて、ほかの音楽を演奏するときとは違う熱が入りますね。そういう情熱がメンバー全員にあるバンドなんじゃないかなと思います。

坂田善也(G)

上倉 確かに。ただゲームの楽曲をアレンジするために集まったバンドとは、ひと味違いますからね。全員が「サガ」シリーズ好きだからこその、持ち味も出せるのかなと。例えば「DESTINY 8 - SaGa Band Arrangement Album Vol.2」の中で、「Besessenheit」という「サガ フロンティア2」のバトル曲を演奏していますが、坂田くんが曲中でバトルに勝利したときのフレーズを少しだけ入れて演奏してくれたんです。これはニクい演出だなと、僕自身思いましたから。

坂田 レコーディングしながら、あるとき“閃き”ましたからね。

上倉 うまい(笑)。そういう発言も含めて、ファンの方々に刺さってくれるとうれしいですね。

伊藤 DESTINY 8は上倉くんが編曲してくれたデモテープを聴いてレコーディングに臨むわけですが、たまにケアレスミスでメロディや音程がほんの少し原曲と違う部分があったりして。そうすると森くんたちは原曲から聴き込んでいるので、すぐに気付いて「上倉さんここ音程違いますよ!」とか指摘が入るんですよ(笑)。

上倉 ありますね(笑)。原曲を聴きながら耳コピで作っているのですが、デモはざーっとラフにアレンジしたものなので、細かいメロディが違ったりする点がどうしても出てくるんですよね。すると「ここ原曲と違いますけど、このままでいくんですか?」って言われたりして。いや、僕のほうが間違ってるから、原曲でいきます……と(笑)。

森空青(G)

 アレンジの狙いどころなのか、こちらは判断つきませんから、そりゃあ1回1回聞きますよ(笑)。

上倉 ごめんなさい(笑)。

──上倉さんは編曲を担当する上で、どういった点に気を付けているのでしょうか?

上倉 当時の思い出をよみがえらせつつ、その記憶を増幅させたいと考えているんですが、ゲームファンの思い出に残っているのは、やはりゲームから流れた音楽だと思うんですよ。ですから、1ループするまでは原曲のメロディを楽しんでもらつつ、1ループしてからは原曲のよさを踏襲したうえで、バンドアレンジを加えていくように意識しています。あとは「自分がもし『サガ』の曲のアレンジが聴けるなら、こういうものが聴きたいな」と考えて作ることもあります。

──伊藤さんは上倉さんのアレンジについて、いつもどんな感想を持っていますか?

伊藤 本当にいつも原曲に忠実になるように、気を遣ってくれているなと。僕としては、もっと破壊するレベルでアレンジしてくれてもいいし、演奏しやすいように変更を加えてくれてもいいんですよ。でもそうやってこだわりを持って、原曲を大事にしてくれていて、ありがたいですね。

──サガ」シリーズには伊藤さんの楽曲だけでなく、植松伸夫さんが手がけた「魔界塔士サ・ガ」などの楽曲や、浜渦正志さんが作曲した「サガ フロンティア2」などの楽曲もあり、DESTINY 8ではそれらも演奏されていますよね。ほかの作曲家の方々の楽曲を演奏することについて、伊藤さんはどんなお気持ちなんでしょうか?

伊藤 自分の曲以上に気を使います……。

上倉 伊藤さんは自分の曲ならいいけれども、ほかの人の曲は間違えると本当に失礼だからって、自分の曲以上にすごい練習してくるんですよ。

伊藤 ご本人と、ご本人のファンを敵に回すわけにはいきませんから(笑)。