ソニー・ミュージックレーベルズ内のレーベル、SACRA MUSICが世界各地で「SACRA MUSIC FES.」と銘打ったライブイベントパッケージを積極的に展開していることは、過去の特集でも繰り返しお伝えしてきた通り、その勢いは依然とどまるところを知らない状態だ。前回の特集では本国から遠く離れた南米・ブラジルと欧州・ドイツで行われた公演について紹介したが、今回は日本からほど近いアジア圏において昨年末から今年頭にかけて開催された3公演のレポートを掲載する。
文 / ナカニシキュウ
シンガポール「AFA×SACRA MUSIC FES.」レポート
2023年11月24日から26日にかけてシンガポールのサンテック・シンガポール国際会議展示場で開催された「Anime Festival Asia Singapore 2023」では、最終日にスペシャルステージ「AFA×SACRA MUSIC FES.」が行われた。「AFA」は2008年よりシンガポールを中心に開催されている東南アジア最大規模のジャパニーズポップカルチャーイベントで、SACRA MUSICからはFLOW、ASCA、halca、スピラ・スピカ、特別ゲストの玉置成実の5組が出演した。
シンガポールのアニソンファンにはペンライト文化がすっかり浸透していると見え、客席のほぼ全員が色とりどりのブレードをその手に携えていた。今か今かと開演を待ち受ける聴衆の前に「SACRA MUSIC FES.」のオープニングムービーが映し出されると、早くも盛大な歓声が飛び交う。そこへトップバッターのhalcaが元気よく姿を現し、「時としてバイオレンス」で華々しくステージの幕を開けた。シンガポールの国旗をイメージしたという赤白の鮮やかな衣装で、終始笑顔を弾けさせながらまっすぐに歌を届けていくhalca。懸命な身振り手振りも加えつつ日本語と英語をフレキシブルに織り交ぜる言葉使いで朗らかにオーディエンスとのコミュニケーションを図りながら、「センチメンタルクライシス」「告白バンジージャンプ」など全10曲の濃密なステージを完遂した。
次に登場したスピラ・スピカも、負けじと天真爛漫なステージングを展開。幹葉(Vo)は「リライズ」「燦々デイズ」といった持ち曲を軸に、「ブルーバード」「空色デイズ」「紅蓮華」などアニソンカバーを多数盛り込むセットリストで観客を魅了していく。MCでは英語と徳島弁をミックスさせた独特の言語で「アイ・ラブ・シンガポール・ごっつい大好きじゃ!」などと喜びを表現。さらには“ジャパニーズトラディショナルダンス”こと阿波踊りを観客とともに楽しむなど、スマートな歌唱とコミカルなトークのコントラストで大いにオーディエンスを喜ばせた。
続いて3組目のアクトを務めた玉置成実は、2名のダンサーを引き連れて登場。スポーティな装いで軽快なダンスパフォーマンスとクールな歌唱を披露し、会場の空気を一変させた。「Realize」「Reason」などの「機動戦士ガンダムSEED」シリーズ関連楽曲を中心に、スタイリッシュなダンスナンバーを次々に繰り出しフロアをヒートアップさせていく。MCでは、これが自身初のシンガポールでのライブであることを流暢な英語で語り、デビューから20年以上にわたり活動を続けてこれたことへ感謝の気持ちを表明。そして彼女にとって最大のアンセムとも言える「Believe」をラストナンバーとして投下し、ハイテンションなユーロビートでフロアを熱狂させた。
妖艶なアジアンテイストのワンピース衣装で現れたASCAは、のっけから「セルフロンティア」「RESISTER」といった「ソードアート・オンライン アリシゼーション」関連の楽曲を立て続けに披露してオーディエンスのハートをがっちりキャッチする。MCで4年ぶりにシンガポールへ戻ってきた喜びを英語で伝えると、デビュー曲「KOE」から最新曲「私が笑う理由は」までを含む幅広い選曲で聴衆を魅了。「Real Dawn」では盛大なシンガロングを巻き起こし、真っ赤に染まったペンライトの海を波打つようにうねらせる。高揚するフロアに感化されてか、終盤へ差しかかるにつれてASCA自身のボーカルもオーバーロード気味にエモーショナルなものになっていった。
そして大トリを務めるのは、昨年メジャーデビュー20周年を迎えたベテランバンド・FLOWだ。ザクザクしたギターリフで始まる「Steppin' out」でライブの火蓋を切ると、「Sign」「COLORS」といったアンセム級の代表曲を惜しげもなく連発。圧巻のパフォーマンスで格の違いを見せつけると、KEIGO(Vo)が観衆に向けて「僕たちは普段遠く離れていても、アニメと音楽でつながっている」という熱いメッセージを英語で伝え、大きな喝采を浴びた。中盤にはメンバー紹介パートも設けられ、IWASAKI(Dr)のドラムソロ、GOT'S(B)のベースソロに続いてTAKE(G)がギターソロを披露するかと思いきや派手な電飾をまとってオタ芸を披露するなど、遊び心満載のパフォーマンスで楽しませる。そして「GO!!!」「GOLD」といった代表曲はもちろん、ライブ当日時点での最新曲「GET BACK」も飛び出すなど、FLOWはその後も濃密なステージを展開。最後にはこの日の全出演者がステージに呼び込まれ、FLOWの演奏をバックに全員でORANGE RANGE「ビバ☆ロック」をカバー。ピースフルなムードで大団円を迎えた。
香港「SACRA MUSIC FES.2023 IN HONG KONG」レポート
2023年12月3日に香港・KITEC-STAR HALLにて行われた「SACRA MUSIC FES.2023 IN HONG KONG」は、既存の現地イベントにパッケージとして組み込むスタイルではなく、単独イベントとして「SACRA MUSIC FES.」を開催するという海外では初の事例となった。本公演にはFLOW、安田レイ、ASCA、halca、スピラ・スピカ、Who-ya Extendedの6組が出演。会場には熱心なアニソンファンが多数詰めかけ、現地イベントの力を借りずともライブを成立させられるSACRA MUSICアーティストたちのポテンシャルの高さを証明した。
トップバッターの安田レイは、クレハリュウイチ(Key)による電子ピアノの生演奏も交えてパフォーマンスを披露した。香港でのライブは初だという安田は、透き通った歌声と力強い歌唱表現で「Brand New Day」「Tweedia」「Mirror」といった楽曲群を着実に客席の1人ひとりの胸に届けていく。中盤ではライブ初披露となるピアノバラード「声のカケラ」を歌唱。これは中国アニメ「烈火澆愁」の日本語吹替版エンディングテーマとなっており、安田は「初めてライブで披露できてうれしい」と顔をほころばせる。ラストは「Not the End」でシリアスさと清涼感の混在するステージが締めくくられた。
続くスピラ・スピカはシンガポール公演同様、アニソンカバー中心のセットリストでライブに臨んだ。「STAND UP TO THE VICTORY ~トゥ・ザ・ヴィクトリー~」「紅蓮華」「ブルーバード」といった選曲で会場を熱狂させる一方、持ち前のほがらかなトークも炸裂。ここ香港では、幹葉得意の徳島弁と英語に加えて広東語という新たな武器も獲得し、弾ける笑顔とほとばしる熱意で理屈を超えたコミュニケーションのあり方を提示した。また、シンガポール公演と同じく阿波踊りのレクチャーが繰り広げられたことも言うまでもない。ラストには「燦々デイズ」を畳みかけ、会場の空気を徹頭徹尾ハッピームード一色に染め上げるステージとなった。
halcaが3組目のアクトとしてステージに現れると、客席には「halca」ロゴが輝くライトを掲げる何人もの熱心なファンの姿が。強い歓迎ムードの中、halcaは笑みを浮かべながら「センチメンタルクライシス」でライブをスタートさせる。続くMCでは今回の香港訪問についての感慨を話し始めるも、なぜか朝食の内容を詳細に解説して和やかな空気感を作り出すことに成功した。そしてhalcaは「恋愛ミリフィルム」を皮切りにアニメ「彼女、お借りします」関連曲を続けざまに畳みかけ、ポップかつスイートなステージを展開。ラストナンバー「誰彼スクランブル」披露前には、「いつかワンマンライブで香港に帰ってくることを夢見ています。ビッグドリーム!」との宣言も飛び出した。
4組目に登場したWho-ya Extendedは、クールかつスタイリッシュなデジタルサウンドで会場の空気を一瞬にしてがらりと入れ替えてみせた。「Q-vism」「Synthetic Sympathy」といった「PSYCHO-PASS サイコパス 3」楽曲で幕を開けたステージは、さながら都会的なクラブのようなムードだ。「香港で歌うのは初めて。みんなに会えてとてもうれしい」と英語で告げたWho-ya(Vo)は、その後もエッジィな楽曲を立て続けに投下していく。「ここで悲しいニュースがある。次の曲で終わりだ」と告げて客席から「ええー!」の声が上がるという日本でもよく見られる定番の光景が繰り広げられたのち、「呪術廻戦」オープニングテーマとして世界的人気を誇るキラーチューン「VIVID VICE」でフィニッシュを決めた。
続いてのアクトはASCA。シンフォニックな「凛」で文字通り凛としたパフォーマンスを届けると、シンガポール公演と同様に最新曲「私が笑う理由は」からデビュー曲「KOE」まで新旧織り交ぜた選曲でオーディエンスを歓喜の渦に飲み込んでいく。MCでは、伝えたい内容を広東語に翻訳してもらった文章が書かれているノートを手に、ひと言ひと言丁寧に気持ちを口にするASCA。デビュー6周年を迎えられた感謝の思いをしっかりと広東語で伝え、大きな声援を浴びた。そしてラストは「セルフロンティア」「RESISTER」といった「ソードアート・オンライン」関連楽曲を畳みかけてフィニッシュ。情熱的な歌声で香港のアニソンファンを大いに熱狂させた。
この日もやはり大トリを務めるのはFLOW。いきなりの「Sign」で盛大なシンガロングを巻き起こすと、息をつく間も与えずに「COLORS」を披露。冒頭2曲で早くも会場のボルテージを最高潮まで引き上げたかと思うと、KOHSHI(Vo)が「こんばんは、クリス・ペプラーです」とボケを繰り出して和ませるなど、緩急を自在に操るステージングで聴衆を魅了した。中盤にはアニメ「烈火澆愁」日本語吹替版のオープニングテーマとなった最新曲「烈火」や、「ドラゴンボールZ」のオープニングテーマとして世界的アンセムになっている「CHA-LA HEAD-CHA-LA」のカバーも披露して客席を一体にしていく。さらに「GO!!!」ではウェーブをKEIGOの解説で練習・実践するなど、観客参加型のパフォーマンスをふんだんに盛り込んだステージングで会場のムードを完全に掌握。するとKEIGOが「またここへ戻ってくるよ!」との約束を絶叫し、ラストナンバー「GOLD」へ。最後には、写真撮影のために全アクトがステージ上に集結。「SACRA MUSIC FES.」初の単独海外公演は、客席も含めたそこにいる全員のアニソン愛と笑顔に包まれてその幕を下ろした。
マレーシア「SACRA MUSIC FES.2024 IN MALAYSIA」レポート
2024年2月3日には、マレーシア・Zepp Kuala Lumpurにて「SACRA MUSIC FES.2024 IN MALAYSIA」が開催された。上記の香港公演に続く2例目の「SACRA MUSIC FES.」単独海外開催となり、FLOW、ASCA、スピラ・スピカ、Who-ya Extended、あかせあかりの5組が出演。「SACRA MUSIC FES.」に限らず、本格的なアニソンフェスがマレーシアで行われること自体が初だという。会場はこうしたイベントを心待ちにしていた熱心なアニソンファンで埋め尽くされ、熱狂の一夜が繰り広げられた。
オープニングアクトとして登場したあかせあかりは、テレビアニメ「その着せ替え人形は恋をする」のエンディングテーマ「恋ノ行方」でライブをスタートさせた。同作のヒロイン・喜多川海夢のコスプレ衣装に身を包み、緊張した面持ちで歌声を届けていくあかせだったが、MCでは「初の海外ライブでコスプレでステージに立てることがうれしい」と喜びを語った。続いてカバー曲を披露することを告げた際には、ClariSやYOASOBIといったワードを出すだけで大きな歓声が上がるなど、日本のアニメイベントとまったく変わらない光景が繰り広げられた。
マレーシアでのライブは2度目になるというスピラ・スピカのステージは、「セカンド・タイム・カミング・トゥ・マレーシア! トゥ・シングしに来ましたー!」という幹葉のはつらつとした挨拶とともに「リライズ」で幕開け。中盤に披露された「ピラミッド大逆転」ではサビの振付をオーディエンスとともに楽しむべく、幹葉得意のミクスチャー言語で「カナン(マレー語で右)・ハンドをレイズ・ユアしてもろて」などと懇切丁寧に解説する場面も。その意図を完璧に汲み取って見事なリアクションを見せるハイスペックな観客の姿には幹葉も感心しきりだった。その後は他会場と同じく阿波踊り指南のくだりも当然のように繰り広げられ、ラストは「燦々デイズ」でフィニッシュ。爆笑の絶えないジョイフルなパフォーマンスで現地ファンを楽しませた。
続いてのアクトはWho-ya Extended。香港公演と同じく「Q-vism」「Synthetic Sympathy」から入るセットリストで、瞬時に場内の空気を塗り替える。MCでは日本語と英語を使い分けて語りかけるWho-ya(Vo)に対し、そのすべてに正しく反応する語学力の高さを垣間見せるオーディエンスたち。そんな彼らへ向け、Who-yaは「初めてのマレーシアで、今年最初のライブができることをうれしく思う。2カ月前に新曲をリリースしたので、それを聴いてください」と英語で告げ、「Prayer」をしっとりと歌い上げた。そして「Repentance Dance」「Killing My Fear」「A Shout Of Triumph」とアグレッシブなアッパー曲を連発して聴衆を踊り狂わせると、「今日ここで会えたことを幸せに思っています。またマレーシアに帰ってきます!」と高らかに宣言。ラストナンバーの「VIVID VICE」で熱狂のステージを締めくくった。
壮大な世界観のEDMナンバー「Stellar」で幕を開けたASCAのステージは、彼女のひと言ひと言に地鳴りのような歓声が上がるほど熱狂度合いの高いものとなった。アグレッシブなアニソンロック「Howling」、梶浦由記による味わいあるミディアムバラード「雲雀」、激情のシンフォニックロック「凛」など、硬軟自在のセットリストでさまざまな表情のボーカル表現を響かせていくASCA。「マレーシアへ帰ってくるのは2度目。1人ひとりに全身全霊で歌を届けたい」と意気込んだ通り、鬼気迫るパフォーマンスを展開した。終盤の「Real Dawn」ではおなじみの「Lalala La」シンガロングを巻き起こして会場をひとつにまとめ上げ、オーラス曲には「RESISTER」をチョイス。焦燥感と解放感を併せ持つ王道アニソンロックナンバーでフロアを沸騰させたASCAは、満足そうにステージをあとにした。
大トリは、このイベントでももちろんFLOWだ。アイリッシュトラッド風味のミディアムナンバー「風ノ唄」での比較的穏やかな滑り出しに続き、「Sign」「COLORS」を投下するという鉄板の構成で会場全員のハートをわしづかみに。FLOWとしてマレーシアでライブを行うのは実に9年ぶりとのことで、KEIGOが「ひさしぶりにマレーシアに帰ってこれてうれしい」と喜びを語る一方、KOHSHIは「9年も経つと、歳を取ったなあと思う」と観客を笑わせた。そして「DAYS」「烈火」が投下されたあとには、怒涛の「NARUTO -ナルト-」ナンバー連発ゾーンが用意されていた。まずは昨年リリースのカバーアルバム「FLOW THE COVER ~NARUTO縛り~」にも収録されたKANA-BOON「シルエット」のカバーを繰り出して聴衆を驚喜させると、間髪をいれずに「GO!!!」へ。9年ぶりのマレーシアライブであっても「Oli Oli Oli Oh」のシンガロングは当たり前のように自然発生し、ギターソロ時のウェーブももはやお手のもの。爆発的な盛り上がりを見せるオーディエンスに対し、KEIGOは万感の表情で「また絶対来るからな!」と高らかに告げ、ラストナンバー「GOLD」へと突入した。そして最後には、シンガポール公演と同じく全アクトが集結しての「ビバ☆ロック」が披露されフィニッシュ。そのピースフルな演奏は会場全体を温かな幸福感で包み込んでいき、こうしてマレーシア初のアニソンの祭典は盛況のうちに幕を閉じた。
SACRA MUSIC(サクラミュージック)
ソニー・ミュージックレーベルズ内のレーベル。国内のみならず海外にも活動の場を広げているアーティストを中心とした音楽レーベルとして2017年4月に発足した。LiSA、Aimer、FLOW、SawanoHiroyuki[nZk]、TrySail、ReoNa、ASCAら多数のアーティストが所属している。設立5周年を迎えた2022年には千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールにてライブイベント「SACRA MUSIC FES. 2022 -5th Anniversary-」が開催された。2023年9月よりゲーム音楽プロジェクト「SACRA GAME MUSIC」を始動。同年より海外で主宰ライブイベントを精力的に展開している。