RYUSENKEIインタビュー|新体制初アルバムで鳴らす“この時代”のシティポップ (2/2)

シティポップが夢を歌っていた頃とは時代が違う

──Sincereさんは今回、歌詞を2曲書いていますが、クニモンドさんはSincereさんに歌のイメージを伝えるために、くらもちふさこやあきの香奈といった少女マンガを渡されたとか。それもあってガーリーなフィーリングがアルバムにありますよね。

クニモンド Sincereとは世代が離れているので共通言語を探すのが難しいんですよ。彼女が絵本やマンガが好きだと聞いて、マンガだったら曲の世界観を伝えられるかなと思ったんです。それで僕がリアルタイムで読んでいた少女マンガを彼女に貸したんです。「これを読んで感じたことを歌詞にして」って。

Sincere 最初は「クニモンドさんはこの作品から何を感じ取ってほしいんだろう?」って考えながら読みました。性格的に私は少女マンガを読んでキュンキュンするタイプじゃないんですけど(笑)、登場人物の純粋な気持ちを感じることが大事なんだろうなと思って。そのうえで、歌詞を書くときは曲を聴いて感じたことをストレートに書きました。普段は自分のことを歌にしてるけど、RYUSENKEIは自分とは違うキャラクターになって歌詞を書いてみるのが面白かったです。自分の曲の歌詞には使わないようなロマンチックな表現をしたりして。

RYUSENKEI

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──クニモンドさんは、ご自身の歌詞で意識したことはありました?

クニモンド 今回の歌詞は今までとだいぶ変わったと思います。シティポップと言われるような音楽には夢や憧れを描いたものが多い。これまで流線形もそういうことを歌ってきましたが、世の中で戦争とかいろんな社会的な問題が起こっている今、そういうものは書けないと思ったんです。だから、自分が考えていることを歌詞に盛り込もうと思いました。ただ、ダイレクトにメッセージを書くのではなく、聴く人によってはそれを読み取れるような歌詞にする。そうじゃないと、自分に嘘をつくことになってしまうので。

──ポップソングに社会的なメッセージを盛り込むというのはデリケートな作業ですよね。

クニモンド マーヴィン・ゲイの「What's Going On」みたいな社会性を帯びた作品を、いつか機会があれば作ってみたいと思っていて。シティポップが夢を歌っていた頃と今では時代が変わっている。今の時代に合ったものを作りたかったんです。そして、そういった曲をSincereの声で歌うことで、ポップさを保ちながら刺さる人には刺さる作品にすることができたんじゃないかと思います。

Sincere 私も、自分が世の中に対して考えていることを曲に落とし込むにはどうしたらいいんだろう?って考えていたことがあったんです。私はストレートな表現の仕方しかできないので、このアルバムを作りながら「こういうやり方もできるのか」と勉強させてもらいました。

クニモンド Sincereにはメッセージのことは意識せずに、いつも通りに歌ってもらいました。意識すると曲が重くなってしまうので。一度仮歌で歌ってもらって、「この声でこういう歌い方なら、こういう歌詞がいいだろうな」と考えて作詞をしたので、素直に歌ってもらったほうがよかったんです。

──Sincereさんの歌声に当てて歌詞を書く。ある意味、役者に脚本を当て書きするようなアプローチだったんですね。それにしても、初めての共同作業なのに歳の差を感じさせない見事なコラボレーションですね。

Sincere クニモンドさんは、私がバカなことを言ってもそれを否定せず、むしろ乗っかってその先を見せてくれました。私に見えていないものが見えていて、いろんな相談に乗ってくれたんです。

クニモンド 彼女にとって僕は親戚のおじさんみたいな存在だと思うんですよね。自分の好き嫌いは別として、僕は若い世代のクリエイティブはすごく尊重したいと思っていて。Sincereのものづくりの姿勢はすごく刺激になりました。

RYUSENKEI

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「日本のいい音楽を海外に紹介する」という理念への共感

──アルバムの1曲目「スーパー・ジェネレイション」というタイトルは、1974年にリリースされた雪村いづみさんのアルバムへのオマージュだと思うのですが、歳の差ユニットでもあるRYUSENKEIのアンセムのようにも感じました。

クニモンド この曲は最後に作ったんです。アルファからアルバムを出すうえで何かフックになるものが欲しいと思って。雪村さんの「スーパー・ジェネレイション」は、服部良一さんの曲を次世代の雪村さんが歌って、さらに雪村さんの次世代のキャラメル・ママが演奏して、3世代にわたってアルバムを作り上げている。素晴らしい音楽が世代を超えて受け継がれているところにすごくシンパシーを感じて。僕とSincereは親子ほど歳が離れているけれど、Sincereが「New generation together!」と歌って曲を引っ張っている感じが、今の時代に合っていると思いました。

──アルファという伝説的なレーベルが再始動して、そのレーベルの影響を受けたRYUSENKEIがそこからアルバムを出す、というのも世代を超えて音楽が受け継がれるということだと思います。クニモンドさんにとってアルファとはどういうレーベルですか?

クニモンド 僕にとってすごく大きなレーベルです。A&Mと組んでYMOを海外に売り出したりする姿勢や、村井邦彦(レーベル創設者)さんの「日本のいい音楽を海外に紹介する」という理念には昔から共感していました。以前からRYUSENKEIとして海外でやりたいという気持ちがあったので、すごくいいレーベルとご一緒できたと思っているし、それもあってこのタイミングでユニット名を英語表記に変えたんです。ネイティブな英語がしゃべれるSincereをボーカルに据えて、作詞をお願いするときに英語の歌詞にしてもらったのも海外での活動を見据えてのことでした。

──アルファの理念とRYUSENKEIの方向性が一致した?

クニモンド そうなんです。思えばアルファは設立してから55年で、僕と同い歳(笑)。僕らのあとにも第2弾、第3弾アーティストが新生アルファから出てきてくれるとうれしいですね。

ちゃんと後世に残る作品を作りたい

──RYUSENKEIをシティポップでくくってしまうのは乱暴なところもありますが、「イリュージョン」にはシティポップの魅力が詰まっています。近年、シティポップは世界的なブームになっていますが、音楽としてしっかり再評価されているわけではないような気がしていて。

クニモンド 確かに。特に海外でのウケ方を見ていると、90年代に日本で流行ったフリーソウルみたいにカルチャーとして受け入れられている気がします。この前、中国でDJをしたときも、アニメの映像を流してくれと言われたりして。20代の女の子がおしゃれしてクラブに来る、みたいなノリでした。

Sincere 私もシティポップってネットカルチャーっぽいと思っていました。ネオンとか椰子の木みたいなイメージ(笑)。

──最近のシティポップは、そういったラグジュアリーなファンタジーのアイコンみたいになっていますよね。でも、本来シティポップというのは、R&Bやジャズといったグルーヴミュージックを自分たちのサウンドに昇華させようとする情熱、そして洗練された音楽性と技術から生まれる音楽だと思います。ところが、最近では手軽にシティポップ的なサウンドが作れてしまって、それがシティポップの魅力を薄めている気がするんです。

クニモンド それは僕もよくない現象だと思っているんですよ。安易なトラックが増えたし、カバーも多い。もっとオリジナル曲をやればいいのに。

──「イリュージョン」を聴くと、そこには素晴らしい演奏と、じっくり作り上げられた楽曲がある。「これが本当のシティポップだ」と世界に告げているような気がしました。しかも、ファンタジーに浸るのではなく、ちゃんと今の時代に何を歌うべきかが考えられている。そういう作品が日本から海外に発信されるというのがうれしいです。

クニモンド そう言っていただけると光栄です。サウンドは古っぽいかもしれないけど、常に先のことを考えて曲を作りたいと思っているので。「イリュージョン」というタイトルはリチャード・バックの同名小説から取ったんですけど、その小説には「世の中いろんなことがあるけど人生なんてイリュージョンだから気にするな、何にでもなれる」ということが書かれているんです。今回のアルバムでは歌詞で重いことを言ったりしているけど、しっかり考えながらも心地いい未来を目指そう、という気持ちをタイトルに込めました。

Sincere このアルバムを作っていて、「シティポップってこんなにいろんな表現ができる音楽なんだ」と思いました。すごく新しい世界が開けた気がします。

──ポジティブな気持ちにしてくれるアルバムですよね。「What's Going On」も内容は重いけどポップミュージックとしての高揚感があって、アルバムのクオリティが高いから多くの人に聴かれたわけですし。

クニモンド 僕は売れたいとは思っていなくて……と言うとアルファに申し訳ないですけど(笑)、ちゃんと後世に残る作品を作りたい。このアルバムがどんなふうに受け止められるかわかりませんが、Sincereの世代、さらにもっと若い世代の人たちにも、そして、日本だけではなく海外の人たちにも聴いてもらいたいですね。

RYUSENKEI

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プロフィール

RYUSENKEI(リュウセンケイ)

2001年に流線形として結成。2003年8月にクニモンド瀧口、押塚岳大、林有三の3人で1stアルバム「CITY MUSIC」をリリースした。2006年からはクニモンド瀧口のソロプロジェクトとして活動し、2ndアルバム「TOKYO SNIPER」、比屋定篤子とのコラボレーションアルバム「ナチュラル・ウーマン」、一十三十一と制作したサウンドトラック「Talio」、堀込泰行をゲストボーカルに迎えたミニアルバム「インコンプリート」といった作品を発表してきた。2024年2月にシンガーソングライター・Sincereを正式メンバーとして迎え、バンド名をRYUSENKEIに改名。同年4月に、新体制初のアルバム「イリュージョン」をアルファミュージックよりリリースした。