WEAVERの河邉徹(Dr, Cho)が3月6日に小説「流星コーリング」を上梓した。作家デビュー作「夢工場ラムレス」(2018年)に続く2作目となる本作は、広島県廿日市中央高校天文部に所属する男女4人が繰り広げる物語。“人工流星”をテーマにした青春ファンタジーだ。また本作の発表に併せて、WEAVERの同名タイトルのニューアルバム「流星コーリング」もリリースされた。音楽と小説のクロスオーバーにも注目が集まりそうだ。
音楽ナタリーでは、河邉と同じように昨年小説「家庭教室」で作家デビューを果たした伊東歌詞太郎との対談を企画。音楽と小説という2つの表現方法を持つ2人に創作活動についてたっぷりと語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 後藤壮太郎
昔から「本を書きたい」という気持ちがあった
──河邉さんの2作目となる小説「流星コーリング」が刊行されました。WEAVERのアルバム「流星コーリング」とのコラボレーションも話題を集めていますね。
伊東歌詞太郎 それは最初から意図していたんですか?
河邉徹 そうなんですよ。「夢工場ラムレス」という小説を去年の5月に出したあと、「小説を書けるメンバーがいるんだから、小説をもとにした音楽を作るのも面白いんじゃないか」という話になって。サウンドトラック、映画音楽を作るのに近い感じかもしれないですね。
伊東 すごいな。小説の中の場面ごとに曲を付けていくってけっこう大変ですよね。
河邉 実はほかのメンバーが別の仕事でミュージカルの音楽を作ったことがあって。その経験も生かされてるし、1人じゃないことの強味だなと。
伊東 確かにバンドの強味ですね、それは。
河邉 バンドならではの悩みもありますけどね。……これ、もう対談始まってますか?(笑)
──はい(笑)。まず、お二人が音楽活動と並行して小説を書き始めた経緯を教えてもらえますか?
伊東 僕は昔から「本を書きたい」という気持ちがあったんです。なんでもそうですけど、“好き”というところから始まるじゃないですか。音楽を聴くのが好きだから「自分もやってみよう」と思うわけで。僕の場合、音楽に関してはきっかけがよくわからないんですけどね。物心ついた頃から、なぜか「自分は歌を歌って生きていくんだ」と思っていたので。
河邉 憧れのアーティストがいた、とかではなく?
伊東 それがまったくないんです(笑)。でも小説は昔から大好きで、めちゃくちゃ読んでたんですよ。もちろん好きな作家もいて。
河邉 年間1000冊読んだこともあるとか。
伊東 それは一番暇だった大学生のときですね。好きだからこそ「書きたい」と思ったし、5年前くらいから、何となくプロットも書き始めていて。実際に小説を書き始めたのは、去年、喉の手術を受けたことがきっかけだったんです。1カ月半くらい声を出せない状態だったんですけど、不幸中の幸いというか、小説の出版の話をいただいていたので、「ここで書けるな」と。そこから1カ月、一心不乱で書いて。
河邉 そのときに視力が落ちたってホントですか?
伊東 そうなんですよ。両目とも2.0だったのに、0.8くらいに落ちちゃって。1日15時間くらいパソコンに向かってましたからね。前半は気持ちでガツッと行けたんだけど、後半は「ヤバい、間に合わない!」という気持ちと戦いながら書いてました。
河邉 小説の執筆って、よくマラソンに例えられるじゃないですか。1カ月って、相当ハイペースですよね。
伊東 初めてだからやれたのかも。もう一度やれって言われたら、ちょっと考えます(笑)。
小説執筆は「もっと貪欲に表現に向き合いたい」という気持ちから
──「家庭教室」はもともと書いていたプロットをもとにしたんですか?
伊東 はい。ただ、2つほど誤算がありまして。プロットもけっこう厚かったし、「ここから始めれば大丈夫だろう」と思ってたんですけど、いざ書き始めてみると、プロットは全体の5%くらいに過ぎないことがわかって。もう1つは……河邉さんもそうかもしれないけど、主人公が独り歩きしはじめたんですよ。
河邉 すごい!
伊東 マンガ家の水島新司先生が、野球マンガの傑作「ドカベン」を描いているときに「相手チームがすごくがんばっていて、気が付いたら、主人公の山田太郎のチームが負けていた」とおっしゃっていて。そのときは「そんなわけあるかい! 狙ったんでしょ!?」と思ったんだけど、「家庭教室」を書いているときに(主人公に対して)「この人、こんなことしちゃうんだ!?」ということが何度もあって。それによって物語が大幅に変わったんです。まっすぐ進んだというより、紆余曲折あって結末にたどり着いた感じですね。
──なるほど。河邉さんはどうですか?
河邉 小説を書いたきっかけですよね? WEAVERではずっと歌詞を書いているんですけど、大学で哲学を学んでいたし、言葉の表現には昔から興味があって。本も好きだったし、「小説を書いてみたい」という気持ちはずっとあったんです。でも、実際に書いたことがない人はみんなそうだと思いますけど、小説を書くなんて信じられないじゃないですか(笑)。
伊東 わかります(笑)。
河邉 僕もそうだったし、歌詞太郎さんみたいにプロットを書いたこともなくて。でも、2年前のツアー中に「もっと貪欲に表現に向き合いたい」と思うことがあって、1行目を書き始めたんですよ。「こんな世界があったらいいな」というものを形にしていく作業だったんですが、歌詞と違ってメロディにしばられることもないし、100%自分の思った通りに表現できるのが楽しくてしょうがなくて、まったくつらくなかったんですよ。誰に頼まれたわけでもなく、「やりたい」という気持ちだけだったので……。歌詞太郎さんと違って、制限時間もなかったし(笑)。
伊東 はははは(笑)。
河邉 小説を書いてることは誰にも言ってなかったし、半分趣味みたいなものだったんですけどね。そのときに書き上げたのが「夢工場ラムレス」だったんです。せっかく書いたから、まず友達に読んでもらって「面白いね」という言葉で自分を高めてから、スタッフに渡して。そこでも評判がよくて、出版社につないでもらったんです。さっき歌詞太郎さんが言ってたように、僕も「好きだからやってる」ということが大事だと思っていて。アマノジャクなところもあるし、誰かに「やれ」と言われるのが苦手なんですよ。
伊東 なるほど。
河邉 バンドで歌詞を書くときも、「ここを直そうよ」という話になるじゃないですか。バンドでやってるんだから当たり前なんだけど、自分の感覚が伝わらないとやっぱり悔しいんです。もちろん、チームの中で話し合って、一番いい着地点を探すのも面白いんですけど。小説は100%自分がいいと感じる言葉だけで成立させられるし、思い切り個性を発揮できるんですよね。
──音楽と離れたところで、個人として発信できる場所を求めていたのかも。
河邉 その気持ちは強かったですね。バンドでは作詞とドラムを担当してますけど、小説家として活動できるのは、ほかのメンバーが音楽に詳しくて、しっかりしてるから。そこはすごく感謝してます。そのことを踏まえたうえで、「メロディのない言葉でどこまで伝えられるか」という挑戦でもあるんですよ、小説は。
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音楽はワープ、小説はマラソン