バンドとソロ、その最終形は……?
清 バンドはメンバーが奏でるバンドサウンドに音楽の核となるグルーヴがある。ソロではそれが難しくて、各曲各曲をつなぐベーシックなグルーヴというものがないんですよ。それがバンドに対してうらやましく思うところで、KANA-BOONの音楽を聴いていても思いますね。
鮪 「帰る場所がある」というのはありますね。それは存在としてだけではなく、音楽的な部分もそうで。「このメンバーで鳴らせばこの音が出る」という安心感。いつかはその安心感が倦怠期のようにわずらわしく、足かせのように感じる日が来るのかもしれないけど、バンドとしての核があるからこそいろんなトライができるというのが今は大きいですね。
──バンドにはその核をひたすら磨いていく面白さがある一方で、「固定された編成」があるがゆえの不自由もあるかもしれないし。それもソロでは経験できないことで。
清 そうなんですよね。特に僕は、作品によって、曲単位でもやることが変わるので、サポートミュージシャンもその都度変わってくる。その人たちならではのグルーヴ感というのを持ったバンドセットがあるわけではないんです。アーティストによっては、例えばaikoちゃんとか、ソロでもずっと同じチームでやり続けている人もいますし、そういう方だとアルバムを聴いていても核になっているグルーヴを感じますよね。僕はそういう道を選ばなかったので、うらやましいなと感じることがよくあります。
鮪 なんで固定にしなかったんですか?
清 基本飽き性なので。もうそろそろ音楽も辞めようかなと思ってるんですけど。
鮪 (笑)。
清 だから今日のような場もすごくうれしいんです。あまり接点のなかった人に会うとか、新しい出会いが僕にとっては音楽活動をするうえでのいい刺激になるので。
──これだけ作品ごとに手法を変えている人を、谷口さんはどういうふうに見ていますか?
鮪 いや、コロコロ変える人だなあって(笑)。それは全然悪い意味じゃなくて。最終的にどうなるんだろうというのは気になっていますけど。清 竜人25(清竜人と複数の“夫人”たちからなる一夫多妻制アイドルグループ。2014年9月から2017年6月まで活動した。参照:清 竜人25、夢でも現実でもない3年間のラブストーリーの結末)の活動もすごくしっくりきていたし、そのときどきで出す作品には常に説得力があるけど……最終的にどこにたどり着くんだろう?って。
清 最後はきっとダサい死に方をすると思いますよ。ユッケにあたって死ぬとか(笑)、そういう感じで途中で音楽の道が途絶えるんだろうと思ってます。
鮪 あはは。理想形を考えたことがない?
清 僕は都度都度「もういいや、音楽辞めたろ」「もうちょっと続けてみようかな」を繰り返してる感じなんですけど、死ぬまでは現役でいたいと思う気持ちもあり。ちょっと話が逸れますけど、暗黒舞踏の大野一雄さんは亡くなる直前まで車椅子で舞台に立ち続けていて、踊れていないと言えばいないんですけど、それすらも舞踏というか、今の肉体で表現できるすべてを舞台の上にぶつけていた。それは表現者としてひとつの完成形だなと思っていて。観念的ではありますけど、自分もそういうふうにいたいなと思っているところはあります。でも急にひっくり返して辞めたくなるし……まあ躁鬱なんでしょう(笑)。KANA-BOONの完成形、1人のアーティストとしての最終形は考えていますか?
鮪 バンドはある程度、そんなに激変はしない……ここから急にメンバーが20人増えることもないだろうし(笑)。
清 んふふふ。
鮪 メンバー3人が「もう嫌だ」って言って僕が1人でKANA-BOONを背負うようなことも、まあないだろうし。バンドとして「生涯現役」をどこまでやれるかってのは、バンドだと自分1人の健康状態でどうこうできるわけでもないから、そこはちょっと考えますけどね。みんな健康でいてくれよって(笑)。
清 バンドを辞めたいなと思ったことは?
鮪 1回もないです。ずっと躁状態が続いてる感じ。
清 素晴らしい。
鮪 それだけが取り柄かなと。
2人に共通する「TDの喜び」
清 音楽に携わる身として、何をしているときが一番楽しいですか?
鮪 ずっと楽曲制作をしているとき……でした。曲を作るときと、TD(トラックダウン。録音された複数のトラックを1つの楽曲としてまとめていく工程)の時間。あの時間がとにかく大好きで。アーティスト、ミュージシャンというのは、頭の中にあるものを形にするという職業ですよね。TDは頭に描いていたものがぴったんこ状態になる瞬間で、それをスピーカーやヘッドフォンで鳴らせる喜び。ギターをちょっと右に振ってみたりとか、ドラムをちょっと奥に引っ込めてみたりとか……それが頭の中とつながったときのうれしさは何物にも代えがたいんですよね。
清 わかります。
鮪 経験を積むごとに、「こうすればこうなる」ということがだんだんとわかってくるじゃないですか。それを知っていくのが楽しかったし、レコーディングエンジニアと一緒にあれこれ試すのが一番の喜びでしたけど、今は少しだけバランスが変わってきました。ライブが楽しくなってきて。どうですか?
清 音楽を結晶にするという内容のSF小説があって、今の話を聞いたときにその小説を思い出しました。音楽は何か製品のように物理的に目に見えるものではないから、こっちで「ここが完成形」という“点”を作らなくちゃいけなくて、TDはそこの最後のタイミングを定める喜びがある。「完成した」と自分の中で決着をつけるときの喜びは代えがたいものがありますよね。
鮪 なるほど、そういうことか。うまく言語化してもらえました(笑)。
清 僕はそもそもライブがあまり好きではなかったんです。ようやく最近ライブを楽しめるようになってきましたけど。人前で歌うことよりも、頭の中にあるものを緻密に作り上げていく制作過程のほうに興味があって音楽を始めたところもあるし、今でもそう思います。
アニソンとの向き合い方
──これまで接点のなかったお二人が、テレビアニメ「山田くんとLv999の恋をする」のテーマソングを担当するという形でついに交わりました(参照:KANA-BOON&北澤ゆうほ、清竜人がアニメ「山田くんとLv999の恋をする」主題歌を担当)。谷口さんはバンドで、清さんは提供曲でこれまでいくつかのアニメソングを手がけていますが、「アニソンならでは」と言える特徴や難しさはありますか?
鮪 難しさ……どうだろう、難しいですか?
清 難しいですね。自分名義でのアニメタイアップは今回が初めてだったのもあって。少し前にドラマのタイアップをやりましたけど(参照:清竜人が初の地上波連ドラタイアップ、「スナック キズツキ」のオープニングテーマ書き下ろし)、原作のある作品のアニメだと、原作ファンが持っている理想の世界観があるから、それを崩したくない。特に今回はエンディングだったので、アニメを観終えたあとの余韻として世界観を絶対に崩したくないという思いと、とはいえ自分名義の作品なので自分の声が乗る楽曲として成立させないといけないという思い。アニメ世界にも適応しながら自分の作品としても成立させるバランスにすごく苦労しました。オープニングとエンディングで難しいところもまた違うかもしれませんけど……どうですか? 簡単ですか?
鮪 簡単というと怒られちゃいますけど(笑)、難しくはなかったですね。曲作りで「難しい」と感じることがあまりなくて。
清 すご。
鮪 いや(笑)、特に深く考えながらやらないので。
清 自分の中から素直に出てきたものを?
鮪 はい。原作を読み込んで、ひとまず自分なりの考えを持って作ってみて……難しく考えずに作った結果、喜ばれることが多かったので、あまり考え込まなくてもいいのかなと思ってます。
清 それが一番いいタイアップとの向き合い方だと思いますね。マインドとして。タイアップに限らず、小難しく考えすぎてしまうとドツボにはまってしまうし、1カ月2カ月かけて作った曲より5分で作った曲のほうがよかったりもする。それが曲作りの真理なんで、ニュートラルに接するのが一番だし、精神衛生上もいいんですよ(笑)。ソロとバンドの違いも中にはあるかもしれませんけど、1人でずっと入り込みすぎちゃうといい結果にならないことが多いので。例えばスタジオに入ってジャムるとか、そういうことができたらまた違う向き合い方ができるのかなとも思いますね。
鮪 その違いはやっぱり大きいかもしれない。「ここはこいつに任せよう」みたいなことができちゃうから。その分で余裕ができた幅を自分のクリエイションに使える。1人でやってると、曲の種から膨らまし方、育て方、歌詞のこともアレンジのことも……って頭の中でいろんなことを考えなきゃいけないわけですよね。必要以上のことを考えなくていいから、苦もなく「楽しいなあ」と思えてるんじゃないかな。
KANA-BOON初の男女ツインボーカル
──KANA-BOONによるオープニングテーマ「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」はタイトルの通り、the peggiesのボーカル、北澤ゆうほさんをゲストに迎えたツインボーカル曲になっています。男女ボーカルの楽曲はKANA-BOONとしても初の試みですけど、なぜこのタイミングで?
鮪 アニメサイドから「男女ツインボーカルはどうですか?」と提案があったんです。
清 へえー。
鮪 「山田くんとLv999の恋をする」はメインキャラクターの男女どちらが主役というわけではなく2人が主人公なので、ツインボーカルでやれたら僕らとしてもフレッシュな試みになるし、楽しそうだなって。
──男女ボーカル曲と言えば、清さんは清 竜人25で活動していた3年半で山ほど制作されましたよね。キー設定の基準が違う男女のボーカルを前提にメロディを組み立てるのは単純に難しそうだなと思うのですが、どうですか?
鮪 あ、そこは難しかったですね。音楽を始めて一番難しかったかも(笑)。
清 サビはオクターブで歌ってますよね。普段歌っている自分のレンジよりだいぶ下げている?
鮪 そう。僕は普段より下げてて、お相手のゆうほちゃんは普段より高いっていう。お互いのベスト……曲にとってのベストかな。それがどのあたりかなと探る作業は、やってみて初めて「これは大変だな」と思いました。うちのベースの遠藤(昌巳)に手伝ってもらって、打ち込みの移調機能を教えてもらったりしながら(笑)。
清 難しいですよね。25のときは僕が気持ちいいところを無理やりオクターブ上で歌ってもらってたりしましたから(笑)。お相手はなんでゆうほちゃんだったんですか?
鮪 the peggiesは今活動休止中ですけど、もともと大好きなバンドで。「ツインボーカルで」という話をもらったとき、パッと浮かんだのがゆうほちゃんだったんです。それまで特に接点はなかったんですけどね。でも、別のアニメでオープニングがKANA-BOON、エンディングがthe peggiesという組み合わせが過去に2回もあって。
清 あっ、そうなんですね。じゃあ夢の共演だ。
鮪 アニメを通じて縁があるなあと思ってお誘いしてみました。
清 the peggies、いいですよね。ゆうほちゃんがヤクルトスワローズファンだから気になっていたんですよ(笑)。「ぐらでーしょん」はパッと聴いたとき“アニメオープニング”感がすごくあって。それが意識されているものなのか、自然と出てきているものなのか、どうなんだろうかと思っていましたけど、ニュートラルにやってらっしゃるんですね。たぶんアニメカルチャーというものと、KANA-BOON、谷口さんの中に流れている音楽的な血脈の親和性が高いんだろうなと。
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ラブコメの“ラブ”を担う、竜人くんの「トリック・アート」