近年、国内外で盛り上がりを見せるオーディション番組。そこからは世界を股にかけて活躍するアーティストも多く誕生し、「オーディションからスターへ」は近年の音楽シーンにおいて大きな道筋となっている。デビュー前の未完成な姿から追い続けることで「成長を見守ることができる」という側面、落選者の姿も描かれるドラマ性もオーディション番組の魅力となっているのだろう。
さまざまなオーディション番組がある中で、2023年に日本テレビで放送された「0年0組 -アヴちゃんの教室-」は極めて特異なムードに満ちていた。「私立裏島音楽学院」の0年0組を舞台にした“スクール型”オーディション。教室という閉じた空間で少年たちが繰り広げる人間ドラマには萩尾望都「トーマの心臓」にも通じる神秘性があり、アーティストデビューを目指す生徒たちのリアルな現実と、0年0組という特殊な空間が醸す非現実なムードが入り混じる。その特異性を何より強めていたのは、教師としてそこに現れたアヴちゃん(女王蜂)の存在だ。“夢”に向かって邁進する若者に対し、アヴちゃん先生は残酷な“現実”を叩き付ける。「地獄へようこそ」。アーティストデビューは夢のゴールではなく、業の深い世界に足を踏み入れる地獄の入り口であること。この教室では華やかなスターではなく「ヤバい」人材を求めていること。そして最終的に結成されるグループのコンセプトは「オルタナティブ歌謡舞踊集団」。このオーディション番組における徹頭徹尾オルタナティブな姿勢は、生徒たちを大いに苦悩させた。
合計19名の生徒の中から選ばれたデビューメンバーはITARU、KENT、Ray、KEIGO、S、冨田侑暉、齋木春空の7名。彼らは「龍宮城」と名付けられ、地獄の入り口へと立った。いわゆるメンズグループ、ダンス&ボーカルグループではあるが、そこは「オルタナティブ歌謡舞踊集団」。アヴちゃんプロデュースによるひとクセもふたクセもある楽曲、コンテンポラリーダンスのような振付はシーンにおいて極めて異質だ。3月13日に配信リリースされた2作目のEP「DEEP WAVE」もまた、ダンストラックでありながらテンポチェンジの激しい表題曲「DEEP WAVE」、女王蜂にも通じるオルタナロック歌謡「BLOODY LULLABY」などクセ曲ぞろい。7人で歩みを初めてまもなく1年が経つが、メンバー自身はこの龍宮城という特異なグループをどのように捉えているのか? “地獄”を選んだ7人にじっくりと話を聞いた。
取材 / 臼杵成晃文 / 三橋あずみ
何かしらの革命を成さなければいけないという責任感
──龍宮城がデビューして1年弱。龍宮城とはいったい何者なのか、「オルタナティブ歌謡舞踊集団」という特殊なグループのコンセプトはどういうものなのか。皆さん自身もその真意を活動の中で探り、解釈を深めているのではないかと推測します。龍宮城というグループについての皆さんの考えを伺えたらと思うのですが、いわゆるボーイズグループというくくりの中で龍宮城が明らかに“異質”であることについて、皆さんはどういった考えを持っていますか?
KENT 異質ではあるけど、自分たちのやりたいことを実現できていることに幸せを感じています。
Ray 僕たちはボーイズグループの路線から大きく離れた場所でパフォーマンスをしているので、流行りのことや決められた動きをしなくていいという状況は、僕らにとってものすごくうれしいものだなと思います。ただ一方で、人とは違うことをやらせてもらっている以上、何かしらの革命を成さなければいけないという責任感、使命感も持っている。「ちょっと違うことをやってみたグループだよね」という評価だけでは終わりたくないという感情も、同時に抱えているんです。
──「流行りのことをしなくていいのがうれしい」という感覚、面白いですね。
齋木春空 流行りに乗っかるというよりは、流行を自分たちから巻き起こしたい。自分たちの表現を世界に発信していきたいという欲が強いんです。だからこそ、表現や“化けること”に対して貪欲になれるのかなとも思います。
──オーディション番組発のボーイズグループは数あれど、「0年0組」発の龍宮城はスタートからほかと大きく違いますよね。「0年0組」は女王蜂のアヴちゃんという個性の権化と言える人が“先生”として教室に立ち、候補生を“生徒”として真剣に対峙していた。現実離れした特殊なオーディションでしたが、「なんでもいいからデビューしたい」というのではなく、この特殊なムードに違和感を持たなかった、もしくはその違和感を受け入れた人たちが、今ここにいるのでしょう。ですから、そもそも曲者ぞろいなんだろうなと。
一同 あはははは。
S 先日アヴちゃん先生とレコーディングでご一緒させてもらったとき、龍宮城の今後の方向性について少しお話をしたんですけど、そのときに先生が「ここまで皆さんが、オルタナティブというジャンルを早く受け入れてくれるとは思わなかった」ということをおっしゃってたんです。「0年0組」を経てここにいる僕たちは、アヴちゃん先生に対してすごく信頼があるからこそ、なんの疑いもなしにここまでついて来られた。不安のような感情も、最初から一切なかったですね。
「ただ珍しいことをやっているだけ」では価値は生まれない
──「普通のことをやらずにいられてよかった」というのは面白い考え方ですが、それにしてもアヴちゃん先生が皆さんに与える課題は毎回非常に難しいですよね。わかりやすいところで言うと、一気にオクターブ上に飛躍する、あのアヴちゃん独自の歌唱法。曲が届くたびに毎回修行をしているような状態にあるのでは?と思いますが、そういった試練を乗り越えていく大変さを感じることはありますか?
KEIGO 僕自身もそうですが、このグループには「0年0組」に参加したことをきっかけに芸能界に入ったメンバーが多いんです。音楽に初めてしっかりと触れたのも「0年0組」なので、アヴちゃん先生から学ぶ音楽、渡される音楽が“普通”になっているというか。
──最初に目にした“親”がアヴちゃん先生だったから、普通がわからないという。
KEIGO はい。確かに難しいこともあるけれど、今まで学んできたことをしっかりと生かしながら、アヴちゃんの血を引き継ぐグループとしてオルタナティブな音楽をやっていけたらと思っています。
Ray おっしゃる通り、先生からいただく楽曲は難しいけれど、難しい楽曲は“こなす”ことができないので、絶対にやり切るしかなくなるんです。「これくらいがんばればいっか」という心の中のボーダーラインをまったく決められないからこそ、常に全力を出し切るしかなくて。それが僕たちの成長につながっているのかなと思います。
──龍宮城というグループの独特の世界観に関しては、みんなで同じイメージを共有しているんでしょうか?
冨田侑暉 自分が思うには、共通している部分もあるけれど、半分くらいそれぞれ違うイメージを持っているんじゃないかなって。その違いがあるからこそ、龍宮城独特のカラーができていると思います。それぞれのやりたいことがバラバラにあるから、課題に対していろんなアイデアを出していくことができる。そういった部分はこれからも大事にして、想像力、オリジナリティを失うことなくやっていきたいと思っています。
ITARU ただ、約1年間活動してみて、これからの課題も1つ見つかったと思っています。普通ではないことをやっているという認識は自分たちにもあるんですけど、それをどうやって世の中に浸透させていくか。流行りは自分たちにとって“判断材料”で、流行りを認識したうえで「じゃあ龍宮城はどう打ち出していくべきか」としっかり考えていかないと。「ただ珍しいことをやっているだけ」では価値は生まれないと思うので、そこが難しいところなのかなと思っています。
──ここまで活動してきて、ワンマンライブや舞台、イベントなど、さまざまなステージに立ってきたと思います。実際にお客さんの前に立ってみて、皆さんが感じていることは?
Ray 僕は龍宮城のメンバーになって、応援よりも熱狂が欲しいと思うようになりました。自分たちの表現だけで完結するのもいいと思うけど、やっぱり皆さんと一緒にブチアガりたい。そういう思いから僕らは「対戦よろしくお願いします」と皆さんに伝えさせていただいているんです。僕たちの“戦う姿”を見て、お客様がそれぞれの戦いをしてくれてもいいし、僕らと一緒にブチアガって戦ってくれてもいい。とにかく一緒に魂の叫びを感じたいという思いが、ステージを重ねるにつれて大きくなっていきました。
ITARU 僕たちはステージで、心の叫びや精神的なエネルギーを包み隠さず皆さんにさらけ出すので、そういった“生命力”が、龍宮城のライブならではの魅力なんじゃないかなと思っています。
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リーダーとしての発信力、チームのエンジン