ナタリー PowerPush - Ryu☆
“サウンドデザイナー”という生き方
おばあちゃんが歌えるメロディを作れれば大丈夫
──確かに「Plan 8」ってインスト主体なのに一緒にメロディを歌えるアルバムだなって思いました(笑)。
そこだけは外さないようにしている感じですね。今の世界的なダンスミュージックの潮流として、覚えづらいメロディが増えているなっていう実感があって。特にEDMなんかが典型だと思うんですけど、メロディもラップ的というか、単音でリズムを刻んでいく楽曲が多いと思うんですけど、どうにもハマりづらいところがありまして。もっと日本人的な叙情性というか、上から下に美しく流れていくようなメロディを作ることだけは譲りたくないんですよね。
──EDMには興味がない?
いやもう大好きですよ! ただ、ZEDDはすごくメロディアスなトラックを作るなあ、なんて思いつつも、SKRILLEXとかっておばあちゃんには聴かせられない感じがするというか(笑)。
──判断基準はそこ?(笑)
自分の作るトラックについてはそうですね。親やおじいちゃん、おばあちゃんって童謡とかミリオンヒットした曲とか、そういうすさまじくいいメロディの曲じゃないと口ずさまないですから。昔、実家で曲を作ってる頃、母親が台所仕事とかしながら鼻歌を歌ってて。「あれ、そのメロディなんかよくね?」って思ったら実は自分が部屋で作ってた曲だったことがあって(笑)。「だから自分は大丈夫」って思ってる部分はすごくあります。BPMが100だろうと200だろうと、書く曲書く曲「聴いた人はとりあえずサビだけでも覚えて帰ってくださいねー」みたいなノリ。とにかく頭にこびりつくメロディを作ろうっていう感じなんです。
自分はアーティストではなくデザイナー
──具体的にRyu☆さんにとって「いいメロディ」とは?
皆さんがいいと思ってくれるメロディですね。皆さんが求めているもので、かつ自分も「いいな」と思いながら作ったものが融合する瞬間、リスナーのニーズと自分の好きなものを重ね合わせることをずっと追い求め続けてるので。
──「市場のニーズはさておきオレのやりたいことを全力でやりたい」みたいな欲求は?
まったくないですね。また大学時代の話になっちゃうんですけど、自分が出た学校っていうのはドイツのデザイン学校「バウハウス」の日本版っていう感じで始まった学校。アーティストじゃなくて、デザイナーを育てる学校で、自分はそこで鍛えられたんです。デザイナーなのであくまでユーザー第一。自分のアーティスティックな側面はあとから付け足せばいい。そういうもの作りばかりをやってきていて。しかも音楽ゲーム用の楽曲制作でプロとしてのキャリアを始めているので、自分にとってリスナーさんに受け入れられないプロダクトっていうのは全然ダメなものなんです。自分の肩書きは何か?って聞かれたら、それはたぶんアーティストではなく、サウンドデザイナーなんですよ。だからさっきは「リスナーのニーズ」と「自分の好きなもの」を重ね合わせたいって言ったんだけど、実は全部一緒なのかもしれない。リスナーのニーズに応えることが自分の一番好きなことですから(笑)。
5枚目と20作目の原点回帰
──「Plan 8」ではリスナーにどのようなプレゼンを?
2009年に「starmine」っていう1stアルバムを出しているんですけど、それに帰れる感じというか。今回の「Plan 8」でアルバムは通算5枚目になるので、ちょうどキリもいいし、一回原点に立ち返ってみよう、と。この5作の間に培ったノウハウやテクニックを全部吐き出してみようっていうところが大きかったですね。
──それがなぜリスナーのニーズに合致するという判断を?
今稼働している最新の「beatmania」って20作目になるんですけど、コナミさんより、それをリリースするにあたって「20作目という節目のタイミングから、過去作を振り返る」ってコンセプトを聞きまして。で、そのビーマニの最後の曲、ゲームがうまい人しかプレイできない曲の発注を自分が受けた。それがアルバム表題曲の「Plan 8」なんです。クライアントさんが過去のビーマニに回帰しようとしているんなら、自分も過去に回帰してみよう、と思って作った曲が「Plan 8」。そしておかげさまで「Plan 8」はプレイヤーさんの間で評価していただけた。だったらアルバムも、その曲をリードトラックに据えつつ、ビーマニのトラックメーカーとして始めた自分のキャリアを振り返るような内容にすれば、皆さんに喜んでもらえるんじゃないかなって思ったんですよね。それでさまざまなダンスシーンを意識した楽曲もあれば、過去の作品の延長線上にある、もしかしたらちょっとオールドスクールに感じられるかもしれない楽曲もあるって構成にしてみた感じですね。
「ワンパターンだね」すらホメ言葉
──とはいえどの曲の音も古くはない。
それもやってみたかったことなんです。今回は「NEXUS」っていうソフトシンセをメインに使ったんですけど、専用のエクスパンションボードというかプラグインに90年代シンセの音色集があって。その音を出してみたら「確かに90年代の音なんだけど、でもなんかちゃんと2013年の音だわー」と(笑)。過去作の延長にあるような曲もこのプラグインなんかを使ってリファインすれば原点回帰的であって、でもちゃんと最新の音になってくれるんじゃないかなって思ったんですよ。
──あと単なる最新の音じゃなくて、ちゃんとワンアンドオンリーな音になっています。変な話、シンセサイザーって誰が鍵盤を押したって同じ音が鳴るのにちゃんとRyu☆サウンドになるのはなぜ?
やっぱり音の組み方やエフェクターの使い方の違いじゃないですか。たまに言われてうれしい言葉に「どの曲を聴いてもRyu☆のだってすぐにわかるよね」っていうのがあって。もしかしたら「ワンパターンだね」って叩かれてるだけなのかもしれないんだけど(笑)、自分としてはけっこううれしいんですよ。ちゃんと自分の音になっているわけだから。今回のアルバムでも当然自分の音を目指したし、それをきちんとできたのかな、とは思ってます。自分でも「ああ、ちゃんとRyu☆の音が鳴ってるなー」と思ってますから。
収録曲
- It's my Miracle(Ryu☆Mix) / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga [REFLEC BEAT colette]
- Affection / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga
- Plan C / Ryu☆
- 405nm / Another Infinity
- Artemis / Ryu☆
- Fly you to the star(Extended Mix) / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga [beatmania IIDX 20 tricoro]
- Kira Kira / Ryu☆
- Ailes / Ryu☆
- Never Land / Ryu☆
- RaveR / Ryu☆
- TENKU / Ryu☆
- 405nm(Ryu☆Mix Extended) / Another Infinity [beatmania IIDX 20 tricoro, jubeat saucer]
- Lightning / 雷龍
- Blade / 青龍
- Plan 8(Extended Mix) / Ryu☆ [beatmania IIDX 20 tricoro, jubeat saucer]
Ryu☆(りゅう)
男性ダンストラッククリエイター。2000年、コナミの音楽ゲーム「beatmaniaIIDX 3rd style」の公募に送った楽曲が同ゲームに採用され、以来「beatmania」シリーズの主力トラックメーカーとして活躍。現在に至るまでゲームのサントラを多数手がけている。2009年にRyu☆名義の1stアルバム「starmine」を発表し、翌年の2ndアルバム「AGEHA」はオリコン週間アルバムランキング最高17位をマーク。2011年には3rdアルバム「Rainbow☆Rainbow」、2012年には4thアルバム「Sakura Luminance」をリリースする。またその一方でトラックメーカーStarving Trancerとプロデューサーユニット、Another Infinityを結成。「beatmania」シリーズに楽曲を提供するほか、女性ボーカリストDaisy×Daisyの歌うテレビアニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「永久のキズナ」を制作し、Another Infinity feat. Mayumi Morinaga名義のアニメ「ゆゆ式」エンディングテーマ「Affection」を発表している。そして2013年7月、ソロ5作目となるアルバム「Plan 8」をリリースした。