ナタリー PowerPush - Ryu☆
“サウンドデザイナー”という生き方
コナミの音楽ゲーム「beatmania」シリーズの主力トラックメーカーとして知られるRyu☆がニューアルバム「Plan 8」を7月3日にリリースする。
Ryu☆の通算5枚目のオリジナルアルバムとなる「Plan 8」は、彼のキャリアの集大成的一作。書き下ろしのダンスチューンはもちろん、Another Infinity feat. Mayumi Morinaga名義で発表したアニメ「ゆゆ式」のエンディングテーマ「Affection」、人気アーケードゲーム「beatmania IIDX 20 tricoro」「jubeat saucer」への提供楽曲のリミックスバージョン、さらにはあえて過去の楽曲を意識して制作した新曲など、15のトラックが収録されている。
ゲームセンターという非クラブ的環境で最新のクラブサウンドを奏でるRyu☆とはいかなる人物なのか? そして、気鋭のトラックメーカーが今、キャリアを振り返るのはなぜか? その言葉にぜひ耳を傾けてほしい。
取材・文 / 成松哲
音楽制作のきっかけは「SUPER EUROBEAT」
──アルバム「Plan 8」を聴かせていただいて楽曲はもちろん、Ryu☆さんという人にすごく興味が湧きまして。
ホントですか! ありがとうございます。
──アルバム前半は「Plan C」のようなプログレッシブハウスや、アニメ「ゆゆ式」のエンディング曲「Affection」のような歌モノが中心。だから「あっ、ちょっとアゲめでキレイなハウスのアルバムなんだな」と思ってたら……。
9曲目あたりからアレな感じに(笑)。
──ええ、ハードダンスの「Never Land」あたりから恐ろしくハードコアなことに(笑)。でも「ゆゆ式」のクリエイター座談会(参照:[Power Push] アニメ「ゆゆ式」楽曲関係者10名による座談会)のときにお話させてもらった印象としては、いわゆるレイバーノリの人ではない。もっとクールだし分析的なトラックメーカーっていうイメージがあったんですね。
ああ、なるほど。
──なのでRyu☆という人の横顔や音楽歴に迫りたいな、と思いまして。
音楽そのものにハマったのはけっこう遅いんですよ。高校時代、よく行っていたゲームセンターの店内有線で流れていたのがエイベックスのコンピシリーズの「SUPER EUROBEAT」で。「何これカッコいい!」ってなったのがきっかけですね。そっから「自分もこういう曲を作りたい」ってなって、シンセサイザーを買って。当時そういうのに詳しい友人がいたので「こういうジャンルがあるんだよ」「こういう曲はどう?」なんて曲を勧めてもらいつつ一緒に作り始めたのが、音楽制作のスタートです。で、そのままトラックを作り続け、コナミの音楽ゲームの「beatmaniaIIDX 3rd style」(2000年)が楽曲を公募していたので、曲を送ってみたら運よく釣っていただけて。そこから名前を知られるようになったって感じですね。
──高校生の頃ってどんなジャンルをやってたんですか?
聴いていたのは「SUPER EUROBEAT」シリーズとか、流行っていたワープハウスとかハッピーハンドバッグとかで。当時作っていたのも、BPM170以上のブッ飛ばす系の曲が多かった気がします。あと大学生になってからはYoji Biomehanikaがオーガナイズしているクラブイベントによく遊びに行っていて、ニューエナジーとか、ちょっと激しめのハードハウスを知って。それからちょっと経ったらワープハウスから派生する感じでエピックトランス系、日本だったらコンピ盤の「Cyber TRANCE」シリーズなんかに入っていそうなトランスのムーブメントがやってきて、それをたしなむようになりって感じで曲を聴いていたし、作ってもいました。
もの作りのキーワードは「キャッチー」
──言い回しにすごく悩むんですけど「SUPER EUROBEAT」に触発されてクリエイターになる人って珍しい気がします。あのシリーズって言うなれば県道のローライダー御用達というか……。
攻め攻め系ですよね(笑)。子供の頃「シティーハンター」のアニメをきっかけに小室哲哉さんというか、TM NETWORKの「Get Wild」が好きで聴いていて。一応デジタル系の音楽に対する下地ができてたから「SUPER EUROBEAT」にハマったんだとは思うんですけど、確かに我がことながら変なんですよね。自分、実はサブカルが好きだったりしますし。
──けっこう正反対に近い場所に位置する文化ですよね。「SUPER EUROBEAT」と「サブカル」って。
そうなんですよねえ。ただこれは今でもそうなんですけど、自分がものを作るときのキーワードとして「キャッチー」っていうことをすごく重要視していて。小難しくないというか、「スカッとオモロいね」っていうエンタテインメントが好きなので、自分もそうありたいんですよね。「Ryu☆の曲はキャッチーだねえ」って言われると「おっ、わかってるじゃん」ってなるタイプなので(笑)。そういう意味では「SUPER EUROBEAT」は自分の望むキャッチーさをもっていてくれた気はします。
メロディに徹底的にこだわれば「キャッチー」になる
──とはいえ「Plan 8」の楽曲ってただただキャッチーなトラックではないですよね。確かに「Never Land」以降のトラックはハッピーハードコアの「TENKU」やUKハードコア「405nm」のようなバカアガりするものが主体。特にラスト3曲はBPM188、191、200オーバーとホントにやたらな感じになるけど、単にBPMが速いからアガるわけではない。シンセを細かく重ねたりと、実は米粒に字を書くみたいな緻密な打ち込みをしているからアガるわけだし。
そうですね。うしろのほうではけっこう細かいことをやってます。
──逆に言うと、なのになぜちゃんとキャッチーに響かせられるんだと思います?
ひと言で言うとメロディにどれだけこだわれるかっていうことだと思います。自分、大学がデザイン系でCGとか映像を勉強していたんですけど、グラフィックや映像って一番目を引くところのデザインをわかりやすくすると、その裏でものすごく複雑なことや抽象的なことをやっていても、バカというかキャッチーでポップに見えるんですよ。それは音楽も同じで、徹底的に作り込んで、1回聴いただけでガッツリ覚えてもらえるようなメロディができあがれば、トラック全体をキャッチーに聴かせられるっていうところがあるんですよ。
収録曲
- It's my Miracle(Ryu☆Mix) / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga [REFLEC BEAT colette]
- Affection / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga
- Plan C / Ryu☆
- 405nm / Another Infinity
- Artemis / Ryu☆
- Fly you to the star(Extended Mix) / Another Infinity feat. Mayumi Morinaga [beatmania IIDX 20 tricoro]
- Kira Kira / Ryu☆
- Ailes / Ryu☆
- Never Land / Ryu☆
- RaveR / Ryu☆
- TENKU / Ryu☆
- 405nm(Ryu☆Mix Extended) / Another Infinity [beatmania IIDX 20 tricoro, jubeat saucer]
- Lightning / 雷龍
- Blade / 青龍
- Plan 8(Extended Mix) / Ryu☆ [beatmania IIDX 20 tricoro, jubeat saucer]
Ryu☆(りゅう)
男性ダンストラッククリエイター。2000年、コナミの音楽ゲーム「beatmaniaIIDX 3rd style」の公募に送った楽曲が同ゲームに採用され、以来「beatmania」シリーズの主力トラックメーカーとして活躍。現在に至るまでゲームのサントラを多数手がけている。2009年にRyu☆名義の1stアルバム「starmine」を発表し、翌年の2ndアルバム「AGEHA」はオリコン週間アルバムランキング最高17位をマーク。2011年には3rdアルバム「Rainbow☆Rainbow」、2012年には4thアルバム「Sakura Luminance」をリリースする。またその一方でトラックメーカーStarving Trancerとプロデューサーユニット、Another Infinityを結成。「beatmania」シリーズに楽曲を提供するほか、女性ボーカリストDaisy×Daisyの歌うテレビアニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「永久のキズナ」を制作し、Another Infinity feat. Mayumi Morinaga名義のアニメ「ゆゆ式」エンディングテーマ「Affection」を発表している。そして2013年7月、ソロ5作目となるアルバム「Plan 8」をリリースした。