緑黄色社会インタビュー|2つの新曲で切り取る“青春の奥にある苦悩”

緑黄色社会が新曲「恥ずかしいか青春は」「言えない」を2曲連続でリリースした。

「恥ずかしいか青春は」「言えない」はそれぞれ、ABEMAの恋愛番組「今日、好きになりました。夏休み編2024」の主題歌と挿入歌。方やエモーショナルなロックチューン、方やミドルテンポのバラードソングと、楽曲のタイプは異なる2曲だが、いずれも緑黄色社会ならではの“青春感”が鮮やかに表現されている。これらの楽曲のリリースを機に、音楽ナタリーは緑黄色社会にインタビュー。新曲の制作の裏側はもちろん、多数のライブを重ねてきたこの1年を経ての手応えについても話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 笹原清明

新たなアイデンティティを確立した2日間

──2024年も半分を過ぎましたが、この半年ほどの間に、緑黄色社会はさまざまな経験をされてきたと思います。まず、6月15、16日の2日間にわたって横浜アリーナで開催された対バンイベント「緑黄色大夜祭」は、いきものがかり、キタニタツヤ、クリープハイプ、ゲスの極み乙女、Saucy Dog、Da-iCEという6組に加え、トレンディエンジェル、ぺこぱという2組のお笑い芸人も出演する、とても豪華なイベントとなりました。横アリという大会場でバンド主催の対バンイベントを行うことができるのは、とても幸福なことですよね。

長屋晴子(Vo, G) 本当にそう思います。すごい2日間でした。

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G)

小林壱誓(G) 僕らはこれまで12回、「緑黄色夜祭」という対バンイベントを続けてきて、それがより大きな形で実ったのが「緑黄色大夜祭」だったんですけど、僕らがやりたいこと……例えば、輪投げや射的の屋台を出したり、キッチンカーを出したり、やぐらを組んだり。そういうことって小さい会場だとなかなかできなかったんです。それを実現できたのが今回の「大夜祭」で。でも、僕らが本当にやりたいのはもっと大きなことなんです。そのための第一歩として、これからの続きが見える2日間だったと思います。

長屋 2023年末から今年の年始にかけてアリーナでのワンマンツアーもやったんですけど、同じアリーナでも、ワンマンとイベントでは全然景色が違くて。でもワンマンをやったおかげで、「緑黄色夜祭」をアリーナでやるんだという覚悟が固まった部分もあったので、いい形でステップが踏めました。それに、これまでの「緑黄色夜祭」は多くてスリーマンだったけど、今回はアーティスト数も増えたし、芸人さんもお呼びすることができて、長尺なイベントを作ることの楽しさも大変さも、ホストとして感じました。私たちはいろんなイベントに出演させていただいていますけど、改めて、イベントを作るのは大変なんだなって。

peppe(Key) そうだね。私も、あの2日間ですごいエネルギーを使ったなと思います。1日目は憧れて聴いていた大先輩方をお呼びして、そのうえで私たちがトリで演奏するという形だったんですけど……出番までうれしさと苦しさがすごくて(笑)。あんなに素晴らしくて圧倒的なライブを見せつけられたあとに、自分が演奏しなければいけないというプレッシャーは、けっこう食らいました。そのプレッシャーはパフォーマンスにも反映されて、ちょっと演奏が荒れてしまった部分もあったかも(笑)。それくらい、1日目はエネルギーを使いましたね。2日目は同世代でがんばっているアーティストさんが多くて。なんというか、エモかったんですよね。

長屋 わかる。

peppe 私は皆さんのパフォーマンスをステージの真向いから観ていたんですけど、「みんな、強いな」と思って。2日目はそれに感化されて、「私たちも負けてられない!」と意気込んで演奏しました。

穴見真吾(B) 僕らは音楽とそれ以外のエンタテインメントを織り交ぜて何かを提供することに対して前向きな4人なんです。今回の「大夜祭」は、笑いあり、涙ありのイベントになりましたけど、そういうものを緑黄色社会として人に提供することができたのは、僕にとって誇りですね。すごく自信になったし、バンドに留まらないエンタテインメントをどうやって届けるかを考えていくうえで、大きなヒントになったなと思っています。

長屋 緑黄色社会の新たなアイデンティティを確立できた感じがしたよね。今の自分たちが実現できるものが目に見えてわかったからこそ、それと同時に自分たちの強みを再確認できた気がします。

穴見 あと、演奏で入ってもらった和太鼓が最高でした(笑)。あんなに和太鼓の音がバンドに合うなんて思わなかった。

穴見真吾(B)

穴見真吾(B)

アリーナは“バカやりすぎている”くらいがちょうどいい

──「緑黄色夜祭」以外で、2024年のこれまでを振り返って思い浮かぶことはありますか?

小林 それで言うと、ファンクラブライブは印象的でした。

長屋 そうだね。結成記念日の7月4日に、初めてファンクラブライブをやったんですけど、会場のTHE BOTTOM LINEは、私たちにとってすごく思い入れのある場所で。セットリストはリクエストを募りつつ決めたんですけど、結果的に半分くらい普段あまり演奏しない懐かしい曲で構成されました。でも、来てくれたのがファンクラブの人たちだから曲の浸透率がすごくて。カップリングの曲でも、掛け声がバッチリ決まる。私たちはすべての楽曲に均等に愛を注いでいるつもりだけど、それでもやっぱり日の目を浴びにくい曲があって。そういう曲たちもちゃんと愛されていたんだなと実感を得ることができて、とてもいい日でした。満足度が高かったなあ。

小林 700人くらいのキャパシティの会場だからこそ感じることができたものもたくさんあったと思う。THE BOTTOM LINEは僕らにとって大事な場所だなと、改めて思いましたね。

peppe 私は、ファンクラブライブはまったく緊張しなかったんですよ。そこに驚きもあり、うれしさもありました。メンバーとの距離感も近かったし、大きな会場でライブをやるのとはまた違う一体感があって、「ここは安心できる場所なんだ」と実感しながらライブができたというか。MCも事前にはまったく決めず、それぞれ好きなようにしゃべったんですけど、「ここ最近、私たちはこういうことをやっていなかったんだな」と気付かされもしました。

peppe(Key)

peppe(Key)

穴見 本当に楽しい空間だったよね。でも、じゃあ「ユルかったか?」というと、そういうわけでもなくて。決してグダっているわけではないんです。そういう感覚が僕は新鮮でした。

長屋 もし数年前にやっていたらグダっていたと思うよ。ここ数年で培ってきた経験が生かされたんだと思う。

小林 あとやっぱり、お客さんの反応がよかった。

長屋 それは本当にそう。とにかくいい日でしたね。

──「緑黄色大夜祭」ではアリーナという大会場でイベントをやることに向き合い、ファンクラブイベントでは改めてライブハウスでのライブに向き合い、とてもいいバランスで活動が進んでいるんだなと感じます。ちなみに、年末年始にアリーナ会場を回ったワンマンツアーで培ったものは大きかったと思いますか?

長屋 そう思います。私たちはずっと、目の前にいる人たち全員を自分たちの色に染めたい、楽しませたい、という思いでやってきて。アリーナって本当にたくさんのお客さんがいるんですよね。だからこそ、奥のほうにいる人にまで届けたい、ずーっと楽しませたい、という気持ちがより強く芽生えました。それが「大夜祭」に生かされたと思うし。

小林 僕自身、観客としてアリーナでライブを観ると、「こんなに多くの人が一緒にこの音楽を浴びているんだ」という、その状況に感動したりするんです。それはライブハウスでの公演とはまた違うスケールの感動で。僕らのアリーナでのライブを観に来てくれたお客さんたちも、そういう種類の感動を感じてくれていると思うんですよね。でもそれと同時に、ライブには未知のことがまだまだたくさんあるんだろうなとも思います。なので、お客さんの気分でライブに通うこともやめたくないし、お客さんのことを考えながら、ライブはずっと精力的に続けていきたいですね。

小林壱誓(G)

小林壱誓(G)

穴見 僕は、ライブハウスとホールとアリーナって、「それぞれ演奏する楽器が違う」くらいのレベルで、パフォーマンスに違いが出る気がするんですよね。会場にいる人の数が変わると、それだけで演奏する側も何かが変わるというか。なんて言えばいいか難しいんですけど……伝わるメッセージも変わるし、受け取る側の緊張感も変わると思う。それぐらい違いを感じるんですけど、その中でもアリーナは、やりすぎるくらいでちょうどいいんですよね。僕らは“バカやりすぎている”くらいのほうが、絶対にお客さんは楽しい。そのくらい「行き切っている感」を試される場所というか。その「なんでもやっちゃえ!」という吹っ切れた感じが、ヒリヒリして楽しいですね。

peppe ちょっと違う目線かもしれないけど、私は日本ガイシホールによくライブを観に行っていて。学生時代のまだ無垢な頃に、あの規模のライブを観に行っていてよかったなと今になって思います。今、自分がライブをしているときに、昔日本ガイシで観たアーティストと自分をどこかで重ね合わせているところがあって。「私にはこう見えていたから、みんなにもこう見えているかもしれない」って、自分が見ていた頃の記憶をパフォーマンスをするときに利用できている。それに、真吾が言ったように「アリーナはやりすぎなくらいでいいんだ」と私も思います。例えばステージ上で手を挙げるときも、自分が思っている以上に挙げないと、奥の人には気付いてもらえない。そういうのも、自分が見てきたライブの経験と重なるんですよね。

──大会場でのライブの経験が制作に反映されることもありますか?

長屋 どうだろう。私はないかもしれないです。peppeはライブを想定するよね?

peppe そうだね。

小林 僕もライブのお客さんを想定して作ったのは「Brand New World」ぐらいで、それ以外はほとんどないんですよね。

長屋 私は「時のいたずら」だけかも。

穴見 僕も、ライブはそこまで想定しないですね。どちらかというと、道で歩いている人の耳で鳴っているのを想像して作っています。なんでもない道を歩いている人のイヤフォンで鳴っていてほしいなって……そんなことを思いながら作っていますね。

長屋 そうやって生まれた曲をライブで化けさせるということを、私たちはやっているのかもしれないね。

青春の奥にある苦悩を切り取れたら

──ここからは、7月9日に配信リリースされた「恥ずかしいか青春は」、そして7月30日に配信リリースされた「言えない」、この新曲2曲についてお聞きします。まず、「恥ずかしいか青春は」はABEMAで配信中の恋愛番組「今日、好きになりました。夏休み編2024」の主題歌として書き下ろされた曲ですが、とても力強いメッセージソングだと感じました。作詞作曲は長屋さんですが、どのような曲を作りたいと考えていましたか?

長屋 青春感は意識していました。「今日、好きになりました。」の主題歌ということで、疾走感とか、青い感じ。そういうものを出せたらいいな、という思いからスタートしたんですけど、最終的には「キラキラしすぎてないものになればいいな」とも思って。表面的なものだけじゃない、青春の奥にある苦悩とか、もがいている姿も切り取ることができればいいなと。歌詞の1行目の「ぶつけたところから熟れていく果実のように」というフレーズは、5、6年くらい前からあったんですよ。昔の録音を引っ張り出してきて、この1行から広げていったんですけど、結果的には今の私たちならではの視点で曲を書けたと思います。昔の自分には気付けなかったかもしれないけど、今の私たちなら「何気ない今日を忘れないでね」と言える。そういう思いが届けばいいなと思いながら書きました。ただ、「エネルギーを出したい」と思った分、サビのキーがめちゃくちゃ高いんですよ。ちょっと高すぎるかなと思ったくらい(笑)。

──(笑)。

長屋 あとあと歌うときに大変だとわかっていながら(笑)、「それでも届くなら」と思って。あと、最初は弾き語りのデモだったんですけど、それを真吾がアレンジで輝かせてくれて。粗削りだったものを青春感のある音に仕上げてくれたのがうれしかったです。