緑黄色社会「花になって」インタビュー|アニメ「薬屋のひとりごと」OP曲で描く“毒”と“自己愛”

緑黄色社会のニューシングル「花になって」がリリースされる。

表題曲「花になって」はアニメ「薬屋のひとりごと」のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲。キャッチーなメロディがヘビーなバンドサウンドで鳴らされた、緑黄色社会の新たな一面を感じさせる1曲だ。カップリングには、小林壱誓(G)による短編小説をもとに作られたZIP-FM開局30周年記念ソング「夢と悪魔とファンタジー」が収録されている。

本作の発売を記念して音楽ナタリーは緑黄色社会にインタビュー。「花になって」「夢と悪魔とファンタジー」という2曲の制作過程をじっくり語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 森好弘

「新しいことをやってやろう」というマインド

──新曲「花になって」は、歌謡曲的なメロディとヘビーなロックが融合した、ポップでありつつ、とても大胆な冒険心にあふれた1曲ですね。前作「サマータイムシンデレラ」とはかなり雰囲気の異なる曲であると同時に、実験性の高かったアルバム「pink blue」に通じるモードが表れている印象もあります。改めて、「pink blue」というアルバムに対して、今皆さんが感じている手応えはどのようなものですか?

長屋晴子(Vo, G) 作ってよかったなと思います。「pink blue」は、アルバムのツアーも、これまでの緑黄色社会のイメージをいい意味で崩そうとしたツアーだったんですけど、お客さんたちがワクワクした目でついてきてくれた実感があって。自分たちの胸が躍るものを鳴らすこと……音楽ってそういうものだよなって、改めて感じることができました。やっぱり数字がどうとか以上に、純粋に自分たちが楽しむことが大事なんだなって。もちろんこの先も、これまでの緑黄色社会のイメージに沿ったポップな曲も出していきたいです。そういう自分たちも大好きだから。でも、挑戦もやめたくないなと思いました。理想は、“王道”と“挑戦”の両方が私たちのイメージになっていくことですね。

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G)

小林壱誓(G) 僕らは「pink blue」のようなチャレンジをしていかないといけないと思うんですよね。例えば、今回の「花になって」で緑黄色社会を知ってくれた人が、過去の僕らの曲をさかのぼって聴いてくれたときに、「こういうことをやってきたバンドなんだな」と発見する……それがこれから先の僕らのイメージや、緑黄色社会の“当たり前”になっていく。歴史ってそういうことだと思うんです。だからこそ、これからも挑戦していかないといけないし、そうでないと、凝り固まったバンドになってしまう。「pink blue」は、そういうことを再認識したアルバムでした。

穴見真吾(B) 実は、「pink blue」の制作期間中に「サマータイムシンデレラ」を作ることは決まっていたんです。だから、僕らとしては「この夏はド王道の曲を出す予定だから、それまでは遊ばせて!」という感じで作ったアルバムでもあったんですよね(笑)。

──なるほど(笑)。

穴見 アルバムって既発曲を軸に作るパターンも多いと思うけど、「pink blue」は既発曲が少なくて。そのときのリアルな緑黄色社会が出ていたアルバムだと思うんです。そういう意味で、自分たちの現在地や実力がわかったアルバムであり、大事な一歩だったなと思います。

peppe(Key) 「pink blue」をリリースしてすぐにツアーが始まったんですけど、ライブを通してお客さんたちにより深くアルバムについて知ってもらえた気がしていて。なので、ツアーも含めて表現し切ることができた感覚があります。

peppe(Key)

peppe(Key)

──新曲「花になって」は、ご自身の中では“王道”と“挑戦”どちらの比重が強い曲ですか?

小林 “挑戦”的な側面はけっこうあると思います。そもそも時系列で言うと、「花になって」は「サマータイムシンデレラ」よりも前にレコーディングしていて。「pink blue」の制作中にこの曲もレコーディングしていたんです。

長屋 だから、マインドとしては「pink blue」に通じる部分があるよね。「新しいことをやってやろう」という。

穴見 今年に入ってからすぐに制作に取りかかったんですけど、「紅白歌合戦」の直後だったことも大きかったなと思う。「新年が始まったばかりだし、新しいことやってやろう!」って(笑)。

──「薬屋のひとりごと」サイドからは、何か提案やオーダーはあったんですか?

穴見 曲に関しては「中毒性とキャッチーさが欲しい」と言われて。

長屋 最初にメロディやサウンドの方向性が決まったんですけど、歌詞は「『自己愛』を書いてほしい」というオーダーがありました。

これ本当に緑黄色社会?

──「花になって」は作曲を穴見さん、作詞を長屋さんが担当されていて、「pink blue」や「あうん」、「ミチヲユケ」などでも編曲を手がけている川口圭太さんが、穴見さんとともに編曲を担当しています。制作を始める際に、音楽的にはどのようなイメージがありましたか?

穴見 「薬屋のひとりごと」という作品が含んでいるサスペンス感、ちょっとヒリッとした感じから連想して、最後のピアノのフレーズが真っ先に出てきたんです。そこから「この部分は曲の顔になりそうだな」と思って、イメージを膨らませていきました。「薬屋のひとりごと」は、マンガの中にも日本とは違った大陸感をイメージさせる場面があるんです。そんな壮大な世界観の中で、後宮内では毒々しい出来事が起こり、その中を突っ走る主人公の猫猫(マオマオ)がいて……そのイメージをそのまま曲にした感じです。ビートは速いけどメロディが壮大な感じになるように意識して、Bメロは哀愁や怪しさを出したいなと思いました。アニメサイズの中でどれだけ「薬屋のひとりごと」という作品を表現できるか。第1期のオープニングテーマだし、「ここで一発かまさないと」みたいな気持ちがありました(笑)。

穴見真吾(B)

穴見真吾(B)

──「薬屋のひとりごと」という作品自体には、皆さんどのような印象を持っていますか?

長屋 私はもともとマンガのほうを読んでいたので、タイアップのお話をいただいたときに「薬屋」という言葉を聞いただけで声を上げてしまうくらいうれしかったです。すぐに「やらせてください!」という感じでした。最初にマンガを読んだときは、まず「絵柄がきれいだな」と思ったし、表紙から感じるファンタジー感、非現実感が魅力的だなと。そこから読み進めていくうちに、出てくるいろんなキャラクターそれぞれに魅力を感じるようになりました。読み進める中で「今じゃ当たり前のことがかつては当たり前じゃなかったんだな」とか、そういう気付きもあったし、没入できる作品だなと思ってましたね。

peppe  私は最初、「毒」というテーマが「自分が表現するものとしてはちょっと苦手かもな」と思ったんですけど、作品を読んだら面白すぎて、すっと入ってきました。

──「毒」というテーマは、結果的にメロディやサウンドで見事に表現されているなと思いました。この曲が持つロック的な要素は、どのように生まれていったんですか?

穴見 最初に曲のテンポ感が決まったんですけど、僕のデモの段階では、そこまでハードロックやメタルっぽい感じはなくて。Aメロを作っているときにアメリカンロックをイメージしていたし、全体的にギターを立たせようとはしていたけど、デモはちょっと歪んでいるくらいだった。それを川口さんがこちらの想像以上にメタリックに仕上げてくれたんですよ。最初に聴いたとき「そこまでやるんですか?」って、めちゃくちゃ笑っちゃったけど(笑)、このくらいやったほうが面白いなと思って。

──すごく大胆であると同時に、モダンなサウンドという感じもしました。メタル的な要素も、しっかり“新しいもの”として提示されているなと。

穴見 エレクトリックなドラムが生ドラムと重なっていたり、どこかドラムンベース的な要素を感じさせたり、そういうところもがモダンな質感を生んでいるのかもしれないです。そこも川口さんの技ですね。

小林 僕、初めてスウィープ奏法に向き合ったんです。そもそも僕はメタルを一切通っていないから、自分が作る曲でスウィープを入れることは絶対にないし、そもそもどちらかというとギターが主張する曲は好きじゃないんですよ(笑)。だから自分の曲では絶対にやらないんだけど、この「花になって」に関しては曲がそれを求めている感じがして。スウィープが曲の世界観を象徴しているので、「これはやるしかないな」と思って弾きました。緑黄色社会がこれをやるからこそのおかしさと素敵さがあるなと思ったので。「ひと笑い起きてもいいから、やるか」って(笑)。

小林壱誓(G)

小林壱誓(G)

穴見 聴いたら、本当に笑っちゃうと思いますよ(笑)。

長屋 「これ本当に緑黄色社会?」って(笑)。

peppe ライブでも、最後の1音まで絶対に気が抜けない曲だよね。最後に爆弾があるから(笑)。